
ALKEMONは、歩く健康習慣による価値創出をコンセプトとした、開発中のMove to Playアプリです。
移動+一定の条件を満たすことで、トークン($FRG)を稼ぐことができます。(詳細は後述)
表面の設計だけを見ると「歩いて稼ぐだけ」のように感じますが、ALKEMON開発の背景には、収益性を求める最近のWeb3ゲームへの問いかけがあります。
- トークン価格が高くなって稼げる時期だけ注目が集まる
- トークン価格が下がってくると大損をして引退する人が続出する
- その結果、コミュニティが一瞬で縮小する
ALKEMON(アルケモン)はこのような一過性の行動喚起しか促せないWeb3プロジェクトの潮流に対して、「ロック型習慣化トークノミクス」を始めとした様々な新しい設計を取り入れることで、現状を変えようとしています。
ALKEMONで採用されているトークノミクス設計は新しいものも多く、プロジェクトを設計するうえで非常に参考になります。
一方で、Web3ゲーム業界で揶揄される「ポンジスキーム」を完全に脱することができたわけではなく、改善の余地を残しています。
本記事では
- ALKEMONはどのようなトークノミクス設計なのか
- ALKEMON経済圏の「穴」はどこか
- 長期的なALKEMON経済圏を構築するための方策
を中心に、解説および考察いたします。
ユーザー視点での学びPOINT
・現時点では継続的な新規流入が必要なモデル
・運動習慣をつけることに主眼が置かれており、長期的な運用を考慮すると稼ぎは少なくなる可能性がある
開発者視点での学びPOINT
・デュアルトークンでの「Burn」に変わる、シングルトークンでの「ロック」システム
・Move系プロジェクトで収益がゼロサムゲームになりうるモデル
・アートNFTを絡めたWeb3ゲームの可能性
目次
ゲーム概要
ゲーム概要について把握していた方が後の考察の理解がしやすくなるため、ALKEMONがどのような世界を創ろうとしているのかについて最初に触れます。
ALKEMONはどんなプロジェクト?

ALKEMONの正式名称は「Alkenome Monsters」で、Alchemy(錬金術)とAruke(歩け)とGenome(遺伝子)の3つの単語が語源です。
中身はすごろく風のフィットネスアプリで、歩く習慣により未完成のALKEMON(キャラクター)に魂を与え、AIアートを完成させるプロジェクトです。
ALKEMONはNFTになっており、個性ごとに能力や見た目に特徴があります。
ALKEMONが達成したいビジョン

ALKEMONは「皆で楽しく健康習慣を作ること」をビジョンに据えており、歩き続ける習慣を作れた人が利益を出せることを第1にゲーム設計がされています。
この理由は、金融の要素が入ることにより純粋にゲームを楽しめない構造に運営が課題を感じているためです。
そのため、STEPNなどを反面教師に以下のような仕組みが設けられています。
- AIアートを使った価値の創出
- トークンの売り圧を弱める独自の「ロック型習慣化トークノミクス」
- SNSで連携して健康目標を達成する「ソーシャルコミットメント」
本レポートでは、上記の仕組みが本当にうまく機能し、運営の掲げるビジョンを達成できるかを考察します。
基本プレイイメージ
ALKEMONでは最大5体のキャラをパーティーに入れた状態で歩き、一定時間(2分)歩くとサイコロを振ることができます。
そして、止まったマスと同じ色のALKEMONが敵に攻撃することができ、与えたダメージ量に応じた暗号資産を獲得できます。

獲得した暗号資産はそのまま利確することもできますが、
- ALKEMONの育成やミント(ブリード)を通じて稼ぐ効率を上げる
- Twitter上で目標宣言と同時にロックをし、目標達成することで追加で報酬を手に入れる
- AIアートを生成し、Twitter等のプロフィールに使う
ことも可能です。
特にAIアートの生成は面白い仕組みで、ドット絵のベースと複数のキーワード(アルケミックスペル)を組み合わせることで独自のNFTを作ることが可能です。
例えば、ベースに「クジラ」、キーワードに「ドラゴン」「神」を組み合わせると下図のようなAIアートを生成できます。

AIアートはNFTの背面スキンとして設定ができるという仕組みであるため、AIアートの数=ALKEMONの数になります。
運営会社・運営メンバー

ALKEMONはdouble jump.frog Inc.(所在地:東京都豊島区、CEO:類地 健太郎)が運営を行っています。
類地氏はdouble jump .frog Inc.ではCEO/Producer/Director/Token Economist/Game designerを務めています。
また、同氏はソシャゲー開発に携わっており、業界では300万DLでヒットと言われる中1000万DLを5-6本生み出した経験も持っています。
他の運営メンバーもエンジニアのバックグラウンドを持っており、技術的な強みを持っています。
- 三浦 彩(CTO/Lead Engineer/Architect)
ScopeNext INC. のCTO。
前職(ソフトウェア開発やモバイルゲーム開発会社)では、コーディング/ゲームのサーバーサイドの開発/運用を担当。 - 満足 亮(Advisor)
2018年からdouble jump.tokyoで共同CEOを務め、インフラ設計運用/サーバーサイド開発/SmartContract開発/ブロックチェーン技術調査を担当。
前職ではソーシャルゲーム、EdTech企業にてインフラおよびSRE領域を統括。
パートナー・資金提供者
ALKEMONはゲームに特化したブロックチェーンプロジェクト「Oasys」で展開されることから、パートナーや資金提供社にOasysプロジェクト関連会社が多いです。
◯パートナー
- Oasys
- double jump.tokyo
- HOME Verse
- My Crypto Heroes
◯資金提供社
- double jump tokyo
- ScopeNext
Oasysには暗号資産/エンタメ/ゲーム/IP等の著名な会社が複数参画しており、特に日本国内において非常に強い繋がりを持っています。

マーケティング施策
ALKEMONは2023年3月のクローズドβ版ローンチに向け、さまざまなマーケティング施策を打っています。
本章では過去のマーケ施策をまとめ、今後どのような開発が行われるのかを見ていきます。
過去のAMA等のイベント
日付 | 2022年〜2023年の主なマーケティング施策・イベント |
---|---|
7/11 | Twitterの運用開始 |
7/12 | NFTokyo2022でプロジェクトの発表 |
9/16 | 東京ゲームショウ2022のWeb3GamePitch Contestで優勝 |
11/28 | OASYS L2verse Game Builder合同AMA実施 |
11/28 | $OAS giveawayの実施 |
12/2 | noteでゲーム概要を公開 |
12/2 | $OASやGensis NFT giveawayを実施し、740RT |
12/6 | MyCryptoHeroesとのコラボでAllow Listを配布 |
12/6 | 各インフルエンサーやギルドがAllow Listを配布開始 |
12/9 | noteでAIアートについての記事を公開 |
12/9 | GuildQBのTwitterスペースでAMAを実施 |
12/11 | アドバイザー/アンバサダー就任 |
12/13 | GuildQBのTwitterスペースでAMAを実施 |
12/14 | noteでロック型習慣化トークノミクスについての記事を公開 |
12/15 | Gnenesis Blue販売 |
12/15 | LFGのTwitterスペースでAMAを実施 |
12/16 | NFTGameSchoolとのAMAを予定していたが、スペース不調のため延期 |
12/17 | Crypto Lounge GOXでエコノミクス検討会を開催 |
12/27 | 延期となっていたNFTGameSchoolとのAMAを実施 |
1/31 | 1月中リリース予定であったAIアートの生成機能を延期 |
上記の施策の結果、第1弾Genesis NFTであるBlueシリーズは3時間1分で完売するほどの人気が出ています。
なお、パブリックセールはプライベートセール開始後から3時間遅れで始まったため、1分でパブリックセールが終了したことになります。
アルケモンGnenesisBlue完売しました!
3時間1分で950体売り切れました!
参加していただいた方ありがとうございました!
みんなと「楽しく健康習慣化ができる新しい世界」に挑戦していきます!
よろしくおねがいします! pic.twitter.com/D8Bi5goyXJ— かえるD | double jump.frog CEO (@kaerusanu) December 15, 2022
ALKEMONのマーケティングでの特徴的な動きは、他のOasys系プロジェクトやOasys系プロジェクトを触っているユーザーが拡散していたことにあります。
特にプロジェクト初期段階では、いかに認知度を上げるかが重要であり、簡単に稼げる点をアピールすれば短期間でのユーザー集めが可能です。
しかし、ALKEMONの設計思想とは真逆であるため、通常であれば初期の人集めは非常に難しいです。
この点でOasysコミュニティの力を借りることができるALKEMONは有利です。
一方で、マーケティングがOasys圏に寄りすぎてしまい、「日本人が多すぎて入るのが不安」と海外勢から敬遠されてしまう可能性があるのは懸念点です。
マーケティングは成功したのか?
ALKEMONのNFTは、日本国内でマーケティングを仕掛けたターゲットに買ってもらえたという意味で、比較的成功したと言えます。
その理由は、ALKEMON NFT保有数TOP50人中、次のような他のOasys系プロジェクトのNFT保有割合が64%と高いためです。

なお、運営保有分を60個を除いた1,140個のNFTに対してオーナー数が286人であることから、1人平均約4個保有していることになります。
保有数TOPの方は50個ものNFTを保有しています。

2022年12月15日以降調査日まで79回転売されており、20個が販売中です。
現時点で転売済み/販売中のNFTは利益目的で購入されたと仮定すると、単純計算で286人中25人(99個÷4人)=8.7%の人が利益目的でNFTを購入したことになります。
短期の利益目的でのNFT購入割合が10%を切っていることや、他のOasys系プロジェクトをよく知るユーザーが多いことから、マーケティングは成功していると考えられます。
なお、一部ブルーチップNFTホルダーもALKEMON NFTを購入しています。
ロードマップ
直近では2023年1月にGenesisホルダー向けにAIアート機能を先行リリースする予定です。
また、生成したキャラクターのコンテストを行い、入賞作品は新しい種類のアルケモンとしてNFTが追加される予定になっています。
作品のクリエイターには、販売益の一部を受け取ることができるOrigin NFTが付与されるため、Red/Greenシリーズの販売にも注目が集まります。
2023年1Q | ・Gensis Red/ Greenの販売 ・AIアートコンテストの開催 |
2023年2Q | ・スゴロクゲーム機能のアップデート ・ソーシャルコミットメント機能クローズドβテスト/リリース |
2023年3Q | ・独自トークンの発行 ・マルチソーシャルコミットメント機能 ・ソーシャルコミットメントへの賞金追加応援機能 ・新ALKEMONの追加(ミントで提供) |
2023年4Q | ・リアル/ソーシャル機能の強化 ・新ALKEMONの追加(ミントで提供) |
アンバサダー/アドバイザー
ALKEMONは複数のインフルエンサーをアンバサダー/アドバイザーに据えており、特に日本国内向けのマーケティング施策を強化しています。
みにこーへい(アドバイザー)
- tofuNFT VP of Product
- NFT/DeFiに精通
- CryptoCrystal/TokenPocket/BCG MiniMiniDungeon等、自身で複数のプロジェクトを立ち上げた経験あり
Twitterアカウント:@minicoohei
Nitekichi(アンバサダー)
- ブロックチェーンゲーマー
- Splinterlands日系ギルド「Samurai Soul」オーナー
- Splinterlands/DeFiKingdoms/Labrado等のブロックチェーンゲームを早期に発見、参入
Twitterアカウント:@nitekichi
のろいちゃん(アンバサダー)
- ブロックチェーンゲーマー
- Youtuber
- YoutubeやTwitterで初心者向けのブロックチェーンゲーム情報を発信
Twitterアカウント:@noroichan_m
YUUUUU(アドバイザー)
- ブロックチェーンゲーマー
- YGG Japan Ambassador
- Axie Infinity世界大会優勝メンバー
Twitterアカウント:@YUU_AxieLabs
トークン情報
ALKEMONで使われる$FRGは2023年1月時では未上場で、上場予定のDEX/CEXは発表されていません。
また、トークンのアロケーションやベスティングの情報も公開されていません。
なお、$FRGには発行上限があり、今後のタイトルでも利用可能になる予定です。
ユーザーと運営の収益ポイント
ユーザーの6つの収益ポイント
①:ALKEMON NFTを購入し、敵にダメージを与える
ALKEMONでは最大5体までのキャラをパーティーに入れた状態で歩き、一定時間(2分)歩くとサイコロを振ることができます。
そして、止まったマスと同じ色のALKEMONが敵に攻撃することができ、与えたダメージ量に応じた暗号資産を獲得できます。
ALKEMONは属性やスキルを持っており、相手の弱点を突くとより大きなダメージを与えることができます。

なお、NFTは購入しなくても遊べる計画が出されていますが、プレイを通じて暗号資産を稼ぐことはできない仕様になる予定です。
止まったマスと同じ色のALKEMONがパーティーに入っていない場合は相手に攻撃できないため、複数のALKEMONを保有する動機になります。
更に、Twitterの相互フォロワーと一緒に敵を攻撃することができる機能の実装が予定されています。
本機能を活用すると、敵をより短い時間で倒すことができるので、結果として稼ぐ効率が上がります。
ゲーム内のアイコンはTwitterアイコンと同じにする予定で、誰に助けてもらったかも分かりやすくすることでコミュニティー形成に役立てることができます。
②:ALKEMON NFTの販売
購入した、またはミントしたALKEMON NFTをマーケットプレイスで売買することで収益が得られます。
ミントには$FRGの他、アーティファクト(ユーザーに装備することで能力強化できるアイテム)や移動石(ゲーム内ポイント)が必要です。
ALKEMONのミントは他のWeb3ゲームと異なり、以下の特徴があります。
- ミント価格はドル建てで固定
- ミントで生み出せるNFTの種類は固定(レシピ制)
トークン価格の維持と賭博法(いわゆるガチャ規制)回避のため、これらの制度が導入されています。
トークン価格維持の仕組みについてはトークノミクス考察のパートで解説します。
③:コミットメントを通じて獲得したアーティファクトNFTの売却
アーティファクトNFTとは、ユーザーが装備できる能力強化アイテムで、敵を倒した時か「ソーシャルコミットメント」機能利用時に入手できます。
敵を倒した時に手に入るアーティファクトは期限付きで、一定期間がすぎると能力強化機能は失われます(ミントには使用可能です)。
ソーシャルコミットメントは、SNSでコミット内容の設定(1ヶ月で100km走る等の目標)とともに一定数の$FRGをロックする必要があります。
コミット時にアーティファクトが売買不可な状態でSBT(ソウルバウンドトークン)としてミントされます。
その後コミットを達成できた場合、ロックされた$FRGは返還され、アーティファクトが強化されて売買可能なNFTとなります。
コミットが失敗した場合には$FRGのロック期間が延長され、アーティファクトが弱体化されて売買可能なNFTとなります。
従って、歩く習慣を作れたユーザーに、より強力なアーティファクトが手に入る仕組みになっています。
④:AIアートコンテストで入賞

AIアートコンテストとは、一定期間のうちにテーマに沿ったAIアートを出展し、ユーザーの投票で美しさ等の順位を決めるイベントです。
コンテストの入賞作品は、新しい種類のALKEMONとしてゲームに追加され、入賞作品のクリエイターには販売益の一部を受け取ることができるOrigin NFTが付与されます。
なお、投票権はGenesis NFTホルダーにのみ付与され、投票権の重さは保有するGenesis NFTの数によって決まります。
⑤:ランキング上位入賞による報酬
ALKEMONには2週間~1か月のシーズンがあり、各ユーザーは獲得したシーズンポイントでランキングを争います。
シーズンごとにシーズンランキングがあり、上位にプラチナ/ゴールド/シルバーなどのランクが付与され、ランクに応じたシーズン報酬($FRGと期間限定のアーティファクト)を受け取ることが出来ます。
⑥:SNSを通じた他ユーザーからの投げ銭
ソーシャルコミットメントを行うとSNS上で目標が公表され、知らない人も自分たちの目標を目にするようになります。
すると、インフルエンサーでなくても、高い目標を掲げることで注目を集めるユーザーも出てきます。
そのような彼らに対して、純粋な応援の気持ちで投げ銭をする機能の実装が予定されています(2023年3Q実装予定)。
収益性の変数
ユーザーが獲得するトークン量は、以下の要素に依存します。
- NFTの強さ(レベル・覚醒)
- 属性
- アーティファクト
- ALKEMON NFT保有数
①:NFTの強さ(レベル・覚醒)
ALKEMONはレベルアップさせることで、パラメータを上げることができます。
レベルアップには、移動時に手に入る移動石の消費や、一部のタイミングで少額の$FRGをロックします。
上昇パラメータは、種族や多少のランダム要素によって決まります。
覚醒は、ベースALKEMON NFTと同属性でレア度が1つ下のサブALKEMON NFTを合成することで、ベースALKEMONのレベルの上限引き上げとパラメータの一部吸収ができます。
この際、サブALKEMON NFTはバーンされます。
②:属性
ALKWMONには3つの属性があり、有利属性に対してより大きなダメージを与えることができます。
より効率的に稼ぐには1回の攻撃で大きなダメージを与える必要があるので、属性は非常に重要な要素です。

③:アーティファクト
アーティファクトはユーザー自身に装備できる能力強化アイテムで、5つまで装備可能です。
入手方法は2つあり、どちらで手に入れたかで能力強化の有効期限有無が分かれます。
- 敵を倒した時:能力強化に期限あり
- ソーシャルコミットメント時:能力強化に期限なし
なお、アーティファクトは能力強化の期限が切れていてもALKEMON NFTのミント素材に使用可能です。
④:ALKEMON NFT保有数
ALKEMON NFTを複数保有することによって、サイコロを振る回数が決まるエナジー(≒暗号資産の獲得確率)を増やすことができます。
3体で2倍、9体で4.5倍、最大30体で10倍のエナジーとなります。

また、ALKEMON NFT保有数とは別に、レア度による追加のエナジーボーナスがあります。
- ★3以下:+0エナジー
- ★4:+1エナジー(Genesis NFT)
- ★5:+2エナジー
運営の収益ポイント
運営の収益ポイントは、現時点ではNFTの1次販売益と2次流通フィーのみです。
アプリ内ウォレット設計が未公開ですが、今後ゲーム内ウォレット機能が完成すれば、手数料も収益ポイントの1つになりそうです。
- ゲーム内ウォレットの入出金手数料
- トークンのトレード手数料
トークノミクス考察
トークノミクス全体像
トークノミクスの考察に入る前に、ALKEMONのトークノミクス設計全体像を解説します。
※開発中のプロジェクトのため、執筆時点で公表されている情報を基にした分析/考察となります。
