
Web3プロジェクトでは、トークノミクス設計と同じくらいコミュニティ形成も重視されます。
コミュニティを形成してコアなファンを生み出すことがプロジェクトの発展には欠かせないためですが、ここで意識しておくべきは、
「どんなチーム編成にするかで、コミュニティの99%が決まる」
ということです。
自律分散を目指すWeb3でも、ユーザー間で勝手にコミュニティが発生し、自走することはありません。
そこでコミュニティを導く存在が必要になりますが、コミュニティ、ひいてはプロジェクトの成功は、そのチーム次第と言っても過言ではないのです。
しかし、Web3コミュニティ運営は新しい概念のため、どんなタスクや人材が必要か分かりにくいのが現状です。
本記事では、
- Web3コミュニティ運営で発生するタスクを具体的に明示し、
- どのようにチーム編成と役割分担を行い、
- さらにはユーザーをどのように巻き込んでいくか
を解説していきます。
本記事の使い方
本記事は、「Web3コミュニティをこれから運用し始めるプロジェクト責任者やマーケティング責任者」を主な対象に、やるべき仕事やチームに採用すべき人材要件を解説しています。
業務フローの確認や、チームメンバー募集にお役立てください。
また、現場レベルで必要な考え方・スキルセットもご紹介しています。
既にコミュニティ運営を行なっている方々にとっては、仕事を行なう際のバイブルとしてお使いいただければ幸いです。
目次
適切な人材配置をしないとコミュニティはどうなるのか?

Web3プロジェクトがコミュニティを運営するのは、
「応援者やファンが後を絶たない、持続的でエンゲージメントの高いコミュニティ形成」
のためです。
Web3の世界は
- プロジェクトをローンチさせても、直ぐに類似プロジェクトが出現し、ユーザーの奪い合いとなる。
- 変化が非常に激しく、モメンタムが低下すると直ぐにユーザーが離脱する。
という背景があるため、簡単にはユーザーに離脱されないコミュニティ創りがプロジェクトの成長に直結するためです。
ただ、ユーザー間で勝手にコミュニティ形成がされることはないため、コミュニティを正しく導く存在が必要になります。
どれだけ画期的なコンセプトも、どれだけ秀逸なトークノミクスも、優秀な人材をコミュニティに適材適所に配置しなければ、コミュニティの信用は直ぐに低下し、炎上にも繋がりかねません。
そうなればプロジェクトの成長どころではなくなります。
では、どのようにチーム編成をしてコミュニティを動かせばいいのでしょうか?
Web3コミュニティ形成は新しい概念のため、やるべきことや人材要件を見つけるのは難しいですが、かといって「何となく」でコミュニティのチーム編成をしても上手くいくはずがありません。
プロジェクト責任者やマーケティング責任者こそ、
- どういう仕事があるかを明確に理解し、
- どんな人材をチームに採用すべきか
を誰よりも考える必要があるのです。
人材要件を明確にし、的確な指示出しをするために、まず「どういう仕事があるか」を次章で解説します。
Web3コミュニティ運営の業務フロー
本章では、Web3コミュニティ運営でやるべきことを上流から解説していきます。
プロジェクト責任者やマーケティング責任者はここを理解しないと「どんな仕事を振ればいいか」が分からず、コミュニティが停滞してしまうためです。
コミュニティ運営の業務フローは下図の通りです。

この図に基づき、上から順に紐解いていきます。
※「仕事内容は分かっているから、人材要件を知りたい!」という方は「コミュニティ運営に必須の役割」の章までジャンプしてください。
戦略設計

コミュニティの方向性を決める最重要パートです。
プロジェクトのビジョンに基づき、コミュニティの戦略設計を立てていきます。
細分化すると以下の作業があります。
・ロードマップ策定
・KPI設定
・サーバー設計・チャンネル設計
・ロール設計・貢献者創りの設計
・Botの導入・設定
・初期イベント・キャンペーンの起案
ロードマップ策定
初めに、コミュニティのロードマップを策定します。
この時に注意すべきは、「公式ロードマップを意識して策定する」という点です。
例えば、「β版ローンチ時にはコミュニティユーザーが●人欲しい」「●月に10,000枚のNFTセールを行なうから、そのうち50%5,000人をコミュニティに引き込みたい」などです。
プロジェクト初期は、目標数値が明確でないかもしれませんが、仮でもいいのでコミュニティ成功までの道筋を描きます。
公式ロードマップとは異なり外部に見せるものではないため、自分やチームメンバーに目指すべきところを一目で理解してもらえるように作成することが重要です。
KPI設定
ロードマップを策定したら、その実現までの解像度を上げるために、KPI設定を行います。
LGGでは下記の4つをDiscord運用における主要なKPIと定義しています。(コミュニティ運営にDiscordを使用した場合を想定しています)
①新規メンバー数
一定期間におけるDiscordサーバーへの新規参加者数。
プロジェクトの基盤となる新規流入を示します。
②再訪率
「再来訪メンバー数÷新規メンバー数」で算出される指標。
オンボーディングの成否に関する指標です。
③継続率
「継続メンバー数÷Discordメンバー数」で算出される指標。
メンバーが何度も繰り返しDiscordを利用しているか、を示します。
④活動率
「アクティブメンバー数÷Discordメンバー数」で算出される指標。
Discordがどれだけ活発に動いているか、を示します。
またLGGでは、コミュニティの進捗に応じて注力するKPIを変えながら運営しています。
(※DiscordのKPI設定については『「Discordって本当に売上に直結するの?」という質問に答えます。』の記事をご覧ください。)
サーバー設計・チャンネル設計
次にコミュニティのメインの場となるDiscordのサーバーとチャンネルを設計していきます。
ここで重要になるのは、「ユーザーにとって使い勝手のいい設計ができているか」という点です。
例えば、
- 初めて来てくれたユーザーに何をしてもらうか(認証やルール確認)を分かりやすく案内する
- どのチャンネルにどのような情報が載っているかを説明したガイドページを作成する
これらオンボーディング設計をしっかり行なうことで、ユーザーの定着率が大幅に変わります。
※Discordのオンボーディング設計の概要については『Discordで実現する日本人向けカスタマーサクセス(入口編)』をご参照ください。
ロール設計・貢献者創りの設計
チャンネル設計と同時にロール設計・貢献者創りの設計も行ないます。
ロール付与によって、ユーザーはアクセスできるチャンネルが増えたり、Discord内でできることが増えるため、ユーザーのコミュニティ活動に対する「報酬」という位置付けでロール設計することで、再訪率、継続率、活動率などを高める効果があります。
そして「貢献者創りの設計」は、コミュニティを訪れるだけでなく、AMA翻訳やバグ報告のようなコミュニティへの貢献を自主的に行ってくれるユーザーを生み出すための設計です。
例えば、「自発的にコミュニティ貢献してくれるユーザーに貢献者ロールを付与し、そのロール保持者にはNFTなどの特別な報酬を与える」というのも貢献者創りの一つの手段です。
Botの導入・設定
BotとはDiscordやTwitterをより便利に使えるようにするための外部連携アプリです。
運営側の業務を軽減するBotから、ユーザビリティに貢献するBotなど多種多様に存在します。
コミュニティ運営効率化とUX向上のためにも、基本的なBotを予め決めておき、コミュニティ開始時に直ぐに利用できるようにしておきます。
また、Botの導入はシステムの不具合やセキュリティの低下を招くこともあるので、同時にこれらをチェックすることも重要な仕事です。
※Discordに必須なBotは『コミュニティの熱量を高めるオススメDiscord Bot 9選!』をご参照ください。
初期イベント・キャンペーンの起案
イベントやキャンペーンの中でも、初期のものは特に重要度が高く、戦略設計の段階で起案します。
とりわけ初回Giveawayが重要で、ここで何人コミュニティに引き込めるか、いいね&リツイート等でどれくらい拡散できるかが、コミュニティのスタートダッシュに影響します。
初期の戦略設計のタイミングでは、最低でも以下の点は設計しておきます。
・初回イベントをいつ行うか
・Giveawayの場合、どのくらいの頻度でどんな報酬を付与するか
※初回Giveawayのやり方は『誰も教えてくれないDiscordコミュニティの設計書』記事内の「Discordを運営する上で押さえておくべき基本設計」の章に詳しく記載しています。
分析基盤構築

戦略が固まったら、データの分析基盤を構築します。
基盤構築を行わないと、コミュニティ分析もままならず、コミュニティがいい方向に向かっているのかさえ分からない状態となってしまうためです。
具体的には、以下作業を行なっていきます。
・Twitter&Discordの分析ツール選定
・Twitter&Discordに必要な指標選定
・分析Botの導入・設定
・独自ツール開発
まず、コミュニティ分析のためには、どんな情報やデータが必要かを考えます。
これが決まったら、そのデータを収集できるツールを選択します。
この際、必要に応じて分析用のBotを導入したり、それでも欲しいデータが得られない際には独自ツールの開発も視野に入れます。
KPI達成のために必要な情報を漏れなく取得できる仕組みを構築することで、初めてコミュニティ分析とPDCAサイクルを回すことが可能になるのです。
オペレーション設計

戦略設計と分析基盤が固まったら、具体的な運用(オペレーション)の設計をしていきます。
具体的には以下の設計です。
・イベント・キャンペーンの設計
・ユーザーとのコミュニケーション体制構築
イベント・キャンペーンの設計
AMAやGiveawayといった各イベントごとに定めた定性・定量目標を、どのようにすれば達成できるかを考え、設計します。
単にイベントを開催しても成果には繋がらないため、目的に応じた手法の選定や導線設計が求められます。
具体的なイメージは、『ここで差がつく!成功するAMAと失敗するAMAの5W1H』をご参照ください。
ユーザーとのコミュニケーション体制構築
Web3コミュニティでは双方向のコミュニケーションが重視されるため、ユーザーからの質問に丁寧かつスピーディに対応し、「誠実な運営だ」と思ってもらうことが重要になります。
ユーザーとのスムーズなやり取りのためにも、DiscordとTwitterへの対応メンバー配置など体制を整えていきます。
また、Discordであれば「質問チャンネル」「バグ報告チャンネル」など、ユーザーが用途に応じたコミュニケーションをしやすい場を設計することも必要です。
オペレーション・実行

前段で設計したものを実行に移していくフェーズです。
具体的には、以下の作業があります。
・イベント・キャンペーンの実行
・ユーザーとのコミュニケーション
・クレーム・荒らし対応
・モデレーター採用・管理・教育
イベント・キャンペーンの実行
イベント・キャンペーンを、事前の設計に沿って実行します。
基本的には、事前に細部まで設計したものをそのまま実行するのが理想です。
また、イベントで発生したトラブルなどは細部まで全て記録し、改善します。
こうすることで、次のイベント・キャンペーン時に、PDCA分析を行なうことが可能になります。
クレーム・荒らし対応
コミュニティメンバーが増えると、クレームや荒らしも出てきます。
大前提として、クレームが出てくることは、注目度の裏返しでもあり、いい傾向だと言えます。
ただ、クレームを放置すると、炎上にも繋がりかねないため、慎重かつ素早い対応が求められます。
間違っても感情的に対応したりせず、相手の言い分をまずは受け止めることが大事です。
時には、皆が見えるチャンネルではなく、個別に会話することも必要でしょう。
また、単なる荒らしと分かれば、警告およびBanをする勇気も必要です。
※DiscordやTwitterの個別DMで問い合わせが来ることもありますが、詐欺メッセージも多く注意が必要です。問い合わせ対応Bot「TICKET TOOL」などを利用するのがおススメです。
モデレーター採用・管理・教育
コミュニティの人数が増えていくと、運営メンバーだけでは人的リソースが足りなくなります。
そこでコミュニティの中から熱量の高い人をモデレーター採用することが必要になります。
モデレーターに協力を依頼するタスクとしては、
・コミュニティの盛り上げ
・ユーザーからの質問対応
・翻訳業務
・AMAやイベントのファシリテーター
・クレーム・荒らし対応
・Twitterやマーケットプレイスの見回り
などが挙げられます。
戦略設計や戦術設計などの基幹業務は、運営側で行い、メンバーが増えてきたら、ユーザーとのコミュニケーションなど現場回りの仕事を徐々にモデレーターへ移管させていきます。
※モデレーターの採用方法については、後段「ユーザーの巻き込み方」の章にて解説いたします。
分析

実行段階で得られた様々なデータを分析してPDCAサイクルを回し、次の戦略設計に活かすフェーズです。
見るべきものとして、
・Twitter分析
・イベント・キャンペーン分析
・Discord分析
・データを基にした改善案の策定
などが挙げられます。
戦略設計時に設定したKPIがどの程度実現できているか、をツールを使いながら「定量的に」分析することが重要です。
これを基に改善案を策定し、PDCAサイクルを回していきます。
施策実行時はもちろん、施策が少ない時もこまめにデータ分析と改善案の策定を行ない、都度掲げたKPIとロードマップ通りにコミュニティが進んでいるかを考えなくてはいけません。
※Discordのどの指標を分析すればいいかは、『「Discordって本当に売上に直結するの?」という質問に答えます。』の記事に詳しいのでご参照ください。
コミュニティ運営に必須の役割
ここまでコミュニティ運営に関する仕事内容を解説してきました。
改めて業務フローの確認をしておきましょう。

コミュニティ運営の仕事は多岐に渡っており、それぞれのパートで必要なスキルは異なります。
コミュニティ責任者(=コミュニティマネージャー)が一通りできることが理想的ですが、限界があるのも事実です。
そこで、これらの仕事を役割分担して複数人で運営を行う必要が出てきます。
コミュニティ運営は一般的に以下の役割で構成されています。