
ikehaya Passは「まだ東京で消耗してるの?」で知られるイケダハヤト氏によって2023年1月29日に作られたNFTです。
本NFTはほとんど制作費がかかっていないことに加え、タダでミント(配布)されたにも関わらず、
- 最高0.3ETH(約6.4万円)での取引実績
- OpenSeaの24時間取引高1位を獲得
- 累計1,500ETH(3億円)以上の取引実績
といった大きな実績があります。
この結果を見て「真似してPass NFTを発行すれば儲かる」と思うかもしれません。
しかし、表面上だけ真似をしてもプロジェクトが成功することはありません。
むしろ、他のプロジェクトに対してもネガティブな印象がついてまわり、今後進める予定のWeb3プロジェクトの成功の確度を下げてしまう可能性すらもあります。
本記事では、ikehaya Passが
- なぜ高値で取引されたのか
- 何をもたらしたのか
- 成功した背景にはどのような要因があるのか
を類似/既存のNFTプロジェクトと比べながら、解説/考察します。
また、Pass NFTが成功するために必要な条件や、Pass NFTを自社ビジネスに活かすためのヒントについても触れます。
開発者視点での学びPOINT
・ikehaya Passは①認知拡大②フリーミントNFTへ価値付け③Burn-RedeemによるPass NFTの可能性を提示といったベネフィットをもたらした
・しかし、背景があってこその結果であるため、表面的に真似てPass NFTを発行すると企業価値を損ないかねない
・Pass NFTには向き不向きがあるが、NFT/コミュニティの価値を上げられる可能性を秘めている
目次
ikehaya Passプロジェクト概要
最初に、ikehaya Passの概要について解説していきます。
ikehaya Pass基礎情報

- 運営の資産
- 既存IP/ブランド:なし
- 関連商品/サービス:あり
- 既存コミュニティ/ファン:あり
- インフルエンス力 :あり
- 運営の業種:情報通信業
- 運営/ファウンダーの実績/知名度:
- Twitterフォロワー:43.3万人
- Voicy登録者数:107,590人
- サロン:3,000人
- 著書多数
- NFT設計
- 発行数:6,000
- ユーティリティ:Pass
- 取り扱いマーケットプレイス:OpenSea
- 商用利用可否:不可
- 特徴的な概念:Burn-Redeem
- 規格:ERC-1155
- セールス
- セールス価格:フリーミント
- 時価総額:413ETH(82,600,000円)
- フロアプライス:0.1ETH(20,000円)
- マーケティング
- Twitterフォロワー数:43.3万人
- コラボイベント:BeastGangとのコラボ
- 独特の施策:思いつきで作られ、後付けでユーティリティ追加
- コミュニティ
- Discordメンバー数:10.4万人
- AMA開催頻度:380回/月(Twitterスペースのみ)
- ホルダー
- セールスの何割が売れたか:100%
- 販売期間:2023年1月29日
- 完売までの期間:30分
- ペーパーハンド/ダイアモンドハンドの率
- -24h:0%
- 1D:0%
- 1-7D:0%
- 7-30D:100%
- 30D-3M:0%
- 3M-1Y:0%
- 1Y-:0%
- クジラ保有率:0%
- ブルーチップ保有率:3.6%
※各値はいずれも2023年2月13日時点の数値
運営情報

ikehaya Passファウンダーのイケダハヤト氏(以降イケハヤ氏)はブログで有名になりましたが、ブログ以外にも
- Voicy
登録者数:107,590人、再生回数:2,851.7万回 - 著書
武器としての書く技術
まだ東京で消耗してるの? 環境を変えるだけで人生はうまくいく
年収150万円で僕らは自由に生きていく
旗を立てて生きる ― 「ハチロク世代」の働き方マニュフェスト ー
世界一やさしい アフィリエイトの教科書 1年生 - サロン
登録者数:3,000人 - YouTube(現在停止中)
過去登録者数:22.6万人、再生回数:830万回
といった多岐にわたる発信チャネルを持っており、影響力が非常に大きいです。
また、NFT界隈でも「CryptoNinja」を中心とするプロジェクトが賑わっていることも有名で、2次創作も盛んに行われています。
イケハヤ氏が運営するNinja DAOは10万人を超えるメンバーが参加しており、日本最大級です。

イケハヤ氏は自身が多岐にわたる発信チャネルを持ちつつも、日本最大級のコミュニティ運営もしており、影響力が非常に大きいです。
NFT設計
ikehaya Passは「Manifold」というNFT発行サービスを通じて発行されたERC-1155規格のNFTです。
発行枚数は6,000枚で、事前の告知なくフリーミントが始まりました。
発行当初は思いつきで作られたためユーティリティはありませんでしたが、思いの外2次流通で値段が上がったため、
- 複数のNFTをバーンすることで、新たなNFTが手に入る(Burn-Redeem)
- 他NFTの付与
といったユーティリティが後から付けられました。
Manifoldとは?
・コーディングの知識が不要で、いくつかの項目を埋めていくだけでNFTが発行可能なサービス
・プラットフォームに縛られないコントラクト作成、ロイヤリティ有無の選択、配布/販売サイト(ClaimPage)の作成、Open EditionやBurn-Redeem等のプログラム性のあるNFT生成も可能
・事業向けに使うにはハードルがあるが、専門家でない開発メンバーがNFT発行のイメージを掴む目的で使うには有用
Burn-Redeemとは?
・1つまたは複数のNFTをバーンすることにより、別のNFTを生成できる仕組みのこと
・時間経過とともに発行数が増えがちなNFTを、バーンを通じて供給量を絞ることで希少性を高める効果が期待できる
・技術自体は決して新しくはないが、複雑なコーディングが必要であったため、専門家でないと作るのが難しかった
ikehaya Passは発行当初ユーティリティがない状態でフリーミントされましたが、Burn-Redeemで新たなNFTが手に入るユーティリティが追加されました。
セールス情報
事前の告知がなかったにも関わらず、2023年1月29日のスタート直後から海外botを中心にフリーミントされ、6,000個が30分で完売しました。
予想以上に反響があったため、急遽Burn-Redeemのユーティリティを付けたところ、最高値で0.3ETHを付けるまで高騰しOpenSeaで24時間取引量1位を獲得しました。

ikehaya Passはフリーミントのため、1次流通では収益が発生せずに、2次流通時のロイヤリティが売上になります。
1月の取引量は約1,100ETH=約2.2億円であり、作者のロイヤリティが10%なので単純計算で110ETH=2,200万円の売上が上がったことになります※。
※ただし、発行直後にロイヤリティの支払いを任意にしていた設定ミスがあり、実際の1月の収益は40ETH=800万円であったとVoicyで報告しています。
一方、経費は少額のガス代のみ(Manifoldの基本利用料金は0円)であることから、文字通り0から1,000万円単位の売上を生み出しました。
ikehaya Passは影響力が強いイケハヤ氏によってTweetされた直後に話題となりましたが、フリーミント開始後30分で6,000個が海外botに買い占められた点は問題です。
マーケティング情報
先述した通り、イケハヤ氏は影響力が非常に大きいです。
代表的なのはTwitterアカウントで、43.3万人ものフォロワーを抱えています。
最近はより広い層にアプローチする意図で、英語でのTweetを増やしており、海外での認知を取ろうとしています。
ikehaya Passが海外勢の注目を集めたのも、彼の行動があってこそと考えます。
このような彼の行動は、認知を進める他に将来的なビジネスの幅を広げる意味合いでも重要な行動です。
コミュニティ情報
イケハヤ氏自身の影響力はさることながら、彼を中心とするコミュニティも非常に巨大です。
イケハヤ氏以外にも積極的にコミュニティ運営に関わっているメンバーも多く、単なる人が集まる場ではありません。
イケハヤ氏が最初に手がけたCrypto Ninjaは2次創作が許可されており(ガイドラインはあり)、実際に多くの2次創作がコミュニティから生まれています。
◯2次創作の例
- CryptoNinja Partners(時価総額:39,576ETH=79.1億円)
- CNP ROOKIES(時価総額:316ETH=6,320万円)
- CNP Reborn(時価総額:124ETH=2,480万円)
- CNP Jobs(時価総額:2,966ETH=5.9億円)
- Very long CNP(時価総額:388ETH=7,760万円)
ユーザー同士のコミュニケーションも非常に密で、Ninja DAO内で告知されているTwitter Spaceだけでも、週95回=月換算で380回も開催されています。
このように、イケハヤ氏のコミュニティは有機的な繋がりがあり、単なる人が集まる場ではありません。
ホルダー情報
ikehaya Passは海外勢を中心に多くミントされましたが、実態は海外botによるミントが多くの割合を占めました。
一方で、ブルーチップホルダーも3.6%いることから注目度は高いと言えるでしょう。
なお、クジラの保有は見られません。

海外botによるNFTの保有はプロジェクトの将来性や信頼性を揺るがす可能性があるので、仕組み等で可能な限り回避すべきです。
ikehaya Passがもたらしたベネフィット
ikehaya Passがもたらしたベネフィット
①認知/コミュニティの拡大
②フリーミントNFTへの価値付け
③Burn-RedeemによるPass NFTの可能性提示
①認知/コミュニティの拡大
ikehaya Passの発行によってイケハヤ氏の認知が広がり、コミュニティも大きくなりました。
Twitterフォロワーはikehaya Pass発行前に比べて6万人増え、43万人になりました。
Ninja DAOも同様で、ikehaya Pass発行前には6.5万人(2023年1月中旬時点)であった参加人数が10.4万人にもなっています。

ikehaya Passを通じて、元々大きかったイケハヤ氏とコミュニティの発信力がさらに大きくなりました。
②フリーミントNFTへの価値付け
ikehaya PassはフリーミントNFTであったにも関わらず、最高で0.3TEH=6万円もの値段を付けるとともに、活発な2次流通を引き起こしています。
当初は「ユーティリティがない」と公表されてはいましたが、フリーミントであったため「ノーリスクでNFTが手に入るからミントしておこう」と思ったユーザーが一定数いたものと推測できます。
そこにBurn-Redeemの機能が付けらるとアナウンスされ、2次流通が活発になりました。
NFTの絵柄が全て同じ、かつManifoldを使ってノーコードでNFTを発行できた手間を考えると、2次流通で1,000万円を超えるロイヤリティが発生した点は驚きです。
このように、フリーミントでNFTを発行しておき、情報を後出しすることで価格を上げる手法は参考になります。
なお、直近ではBeastGangとのコラボも発表され(詳細未公表)、ユーザーの期待がさらに高まっています。
現状ではプライマリーセールスの売上で資金調達をするケースが目立ちますが、ikehaya Passはフリーミントであっても資金調達ができる可能性を示しています。
③Burn-RedeemによるPass NFTの可能性提示
ikehaya PassはBurn-Redeem機能により、異業種とのコラボが可能となる座組を組んだ点で、Pass NFTの新たな可能性を提示しました。
ikehaya Passが出る以前のPass NFTは、以下のようなパターンに限られており、閉じたコミュニティ内の利益しか享受できませんでした。
パターン | ユーティリティ | 実例 |
2次流通での価格高騰を狙う | NFTのエアドロップ 期間限定イベント参加権 |
PROOF Collective |
一時的なキャンペーンとして使う | ゲーム早期アクセス 期間限定イベント参加権 |
Sewer Pass |
早期アクセス権として使う | ゲーム早期アクセス | Big Time |
限定情報公開権として使う | コミュニティ参加権 情報入手権 |
PREMINT |
具体的な内容は明らかになっていませんが、ikehaya PassはNFTをバーンすることで、アーティストのNFTが手に入る仕組みになっています。
コミュニティとビジネス双方の幅を広げる目的から、これまで関わりが薄かった異業種とのコラボをすると考えられます。
コラボNFTを通じて、コラボ先のファンやコミュニティを巻き込むことができ、さらにイケハヤ氏周辺のコミュニティが巨大になる可能性を秘めています。
ikehaya Passは、これまで述べてきたような数々のベネフィットをもたらしましたが、
- 成功した要因は何なのか?
- 課題はないのか?
- 他のNFTプロジェクトに転用できるポイントはないのか?
といった内容について次章以降で解説をしていきます。
なぜikehaya Passが成功したのか?
ikehaya Passが成功した要因
①自身の影響力/実績
②コミュニティの強さ
③初期購入者の不安解消