
Illuviumプロジェクトは、複数のゲームタイトルを抱えたプラットフォームで、メインタイトルは基本無料でプレイできるオープンワールドアドベンチャーRPGです。
Axie Infinityが爆発的にヒットする前(Web3ゲームが今ほどの認知を得ていなかった頃)に始まった、当時のWeb3ゲームでは数少ないAAAゲームタイトルであり、多くのWeb3ゲームプレイヤーと投資家の注目を集めました。
ゲームとしてのクオリティを追求する一方で、開発スケジュールも大幅に延びており、現状はステーキングシステムと、β版のゲームが1タイトルローンチされているのみとなっています。
ゲーム内のトークノミクス情報はまだ公開されていませんが、ゲームがローンチされていないにも関わらず、SNSやDiscordなどには多くのファンがついており、完成への期待が高まっている様子が伺えます。
また、ゲームではなくDAOをプロジェクトの中心に据えているのが特徴的で、部分的にDAOとしての運営も始まっていることから、コミュニティ運営の参考にもなります。
そこで本レポートでは、Illuviumの現状に触れつつ、DAOを主体としたIlluviumのトークノミクスやマーケティング・コミュニティ運営がどのようになっているのかを、紐解いていきます。
開発者視点での学びPOINT
・運営が報酬を受け取らないステーキング中心のトークノミクス・マーケティング設計
・ゲームプラットフォーム戦略としての独自路線(ブランド統一・DAO運営など)
・ガバナンストークンの「ガバナンス機能」としての価値上昇への取り組み
ユーザー視点での学びPOINT
・他のWeb3ゲームと異なる、ステーキングによる報酬設計
・DeFiとGameFiの融合タイトル事例の理解
目次
プロジェクト概要
Illuviumプロジェクトを理解するうえで重要になるのが、非中央集権的な思想に基づいたプロジェクトであり、DAOとしての組成・拡大を最重要視しているという点です。
多くのWeb3ゲームプロジェクトの中心にあるのはゲームですが、IlluviumはDAOを中心に据えているため、DAOを健全な形で運営・拡大することを目的としたトークノミクスやマーケティング・運営を設計しています。
ゲーム概要
「Illuvium」というプラットフォームにさまざまなゲームを搭載していく形式になっています。
現在は、「Illuvium Arena」「Illuvium Zero」「Illuvium Overworld」3タイトルが発表されており、そのうちIlluvium Arenaはβ版が公開されています。
各ゲームは独立して遊べる一方で、あるゲームで獲得したアイテムを他のゲームで使用できるなど、それぞれが関連した構図になっています。
Illuvium Overworld
Illuviumのメインゲーム。旅をしながら世界の謎を解き明かすオープンワールドアドベンチャーRPGです。
シャード(モンスターボールのようなもの)を使ってIlluvitars(モンスター)を仲間にしながら旅をします。
Illuvium Arena
バトルアリーナを舞台に、次々に襲いかかってくるモンスター(Illuviars)を撃退していくオートバトルゲームです。
バトルに勝利するたびに、敵のIlluvitarsの数とこちらが召喚できるIlluvitarsの数が増え、組み合わせなどによる戦略の幅が広がります。
Illuvium本編(Illuvium Overworld)のバトルパートの練習のような位置付けであり、Illuvium Arenaでトークンを稼ぐことはできません。
Illuvium Zero
自身の土地に建築物を建てて、素材や燃料を獲得していくモバイルゲームです。
獲得した燃料は、Illuvium本編(Illuvium Overworld)をプレイする上で必要になり、売って稼ぐこともできます。
Free to Playではありますが、燃料を獲得するには、土地NFTを所有している必要があります。
ロードマップ
- イルビウムゼロ(2022年第2四半期)
- モバイルリリース(2023年)
VC・エンジェル投資家

VC
- IOSG Ventures
- LD Capital
- YBB Foundation
- Delphi Digital
- Stake Capital
- Moonwhale Ventures
- Lotus Capital
- BlockSync
- Yield Guild Games
- Bitscale
エンジェル投資家
- Richard Ma(CEO Quantstamp)
- Kain Warwick(Founder of Synthetix)
- Stani Kulechov(Founder of Aave)
- Anton Bukov(Founder of 1Inch DEX)
- Tyler Ward(Founder of Barnbridge)
- Santiago Santos(Partner at ParaFi)
- Dansih Chowdry(CEO of Bitcoin.com)
- Jason Choi(Spartan Capital/Brockcrunch)
- Sebastien Borget(Founder SandBox)
- Kevin Lu(Developer at Band Protocol)
多くの有名VCや、web3業界で活躍している個人投資家が出資をしており、2021年3月には、500億円の資金を調達しています。
プロジェクトが魅力的であったことは前提としてあるものの、当時の風潮として、GameFi銘柄への投資が加熱しており、投資を受けやすかったという背景もあります。
トークン情報
$ILV(ガバナンストークン)

- 発行上限 :10,000,000
- 時価総額 :¥7,303,237,422
- 価格 :¥11,220.89
- 上場取引所 :
- DEX・・・Gate.io
- CEX・・・Binance、KuCoin
- 種類 :ガバナンストークン
- 獲得方法 :ステーキング
- ホルダー数 :21,368
- 使用ポイント:
- illuvinati評議会での投票(投票しても消費しない)
- ステーキング
$ILVのトークンアロケーション

$ILVのトークンアロケーションで特徴的なのは、Yield farmingの割合が30%と高いことです(他のGameFiプロジェクトは5%程度)。
このアロケーションは、Illuviumが掲げている「DeFiを通じて初期ユーザーに報酬を還元する」という方針に則ったものと思われます。
初期ユーザーに厚めに報酬を還元することは、プロジェクトに対するロイヤリティを高めると同時に、大きな売り圧を作る原因にもなります。
そのため、運営がユーザーの信用を獲得し、$ILVの需要を高めておくことで、高く割り振られたYield farmingからの売り圧を抑制する必要があります。
ユーザーからの信頼獲得のためにべスティングスケジュールを変更

各項目の中でも、チームのベスティングはプロジェクトの信用に大きく関わるポイントです。
チームへのベスティングがあまりにも短いと、信頼を得られず、資金調達も難しくなります。
LGG独自の調査で、ゲーム内でトークンが稼げるWeb3ゲーム 60タイトルを調査したところ、チームのベスティングとしては「12ヶ月間のクリフと36ヶ月間の直線的なベスティング」が一般的でした。
これに対し、Illuviumのチームベスティングは、最初は「12ヶ月間のクリフと12ヶ月のベスティング」と短めの期間で設定されていましたが、2021/8/18に「12ヶ月間のクリフと36ヶ月のベスティング」に変更しています。
この判断は、運営に対するユーザーからの信頼が非常に重要であるIlluviumプロジェクトにとって、意味のあるものであったと思われます。
ステーキングのロック解除が生み出す売り圧のインパクト

$ILVは、2021/9/22にBinanceへの上場を果たし、60万円台から200万円台にまで、価格が一気に上がりました。
しかし、2021/12/1を境に反転し、60万円台にまで一気に下降しています。
価格推移のトレンドが反転したのは、ステーキングのロックが外れたことが主な原因ではないかと推察しています。
$ILVのステーキングは1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月単位で設定されており、一度ステーキングすると、指定した期間が過ぎるまでトークンを取り出すことができない仕様になっています。
ステーキングプログラムが開始したのが2021/7/1ですので、12/1は、ステーキングプログラム初日に6ヶ月のステーキングを行ったユーザーが、預け入れた$ILVを取り出すことができる日でした。
Binance上場以降、急激に上昇した$ILVは、ユーザーに期待と不安を与え、「手放せるタイミングで売ってしまおう」というユーザー心理を強め、大きな売り圧を作る原因になったのだと思われます。
ローンチパッドのトークンアロケーションは、多めに割り当てると急激な価格上昇にさらされる可能性が高くなるので、安定的な経済圏を構築するうえでは、注意すべきポイントです。
ただ、ステーキングプログラムを開始してちょうど12ヶ月後の2022/7/1では、大きな価格変動が起きていないことを見ると、$ILV保有者の中で、Illuviumの将来性を信じているユーザーの割合が増えている可能性も考えられます。
ユーザーと運営の収益ポイント
「Play to Earn」の流れ(ユーザーの収益ポイント)
- ステーキング報酬
- Illuvium評議員(後述)としての活動に対する報酬
- Illuvitars(モンスターNFT)の売却(実装予定)
Illuviumでは、他のWeb3ゲームのようにPvEやPvEでトークンを稼ぐ仕組みがなく、基本的にステーキングで報酬を得る仕様になっています。
Play to Earnという観点では、illuvium overworldで獲得したIlluvitars(モンスターNFT)を売却して報酬を得る形で実現します。
運営の収益ポイント
現時点で正式に公表されているキャッシュポイントは、次の2点です。
- ランドNFTの売却益(Illuvium Zero)
- DEX(Illuvi DEX)の手数料
今後は、グッズ販売やスポンサーシップなどによる収入も視野に入れています。
ただし、収益は基本的に$ILVをステーキングしている人に100%還元していく方針をとっています。
トークノミクス分析
Illuvium 経済圏全体のトークノミクス

Illuviumのトークノミクスは、NFTの売上やDEXの手数料などの収益が全てDAO VAULT(金庫)に保管され、そこから$ILVステーキング報酬が支払われる設計になっています。
特徴的なのは、収益の全てがユーザーへの報酬(ステーキング報酬)に充てられるという点です。
Illuviumの運営陣は、DAOの拡大をIlluviumの成功に必要な最重要項目として捉えており、DAOを拡大させるために、報酬を100%還元する方針を取っています。
現時点のDAO VAULTへの資金流入はNFTの売却益とDEXの手数料しかありません。
DAOを拡大してオンライン・オフラインの様々なプロジェクトが生まれることで、プロジェクトとしての収益源が増えていくような構想を描いています。