
Web3プロジェクトの企画責任者を任され、実際に動いてみたものの、
- Web2(従来)の常識が通用しない
- Web3への置き換えがうまくいかない
- 課題が山積みで勝ち筋が見えない
といった課題に直面したことがある方は多いのではないでしょうか?
Web3で他社との差別化をした上で明確な勝ち筋を立てるには、Web2との事業設計の違いをよく理解して企画を練る必要があります。
「なぜWeb3で行う必要があるのか?」の答えがない状態で技術を活用するだけでは、既存のファンが離れかねません。
(Web3での成功/失敗事例の詳細は「NFT活用事例|スターバックスの成功とポルシェの炎上を分けたものとは」をご覧ください)
この記事では、Web3の企画担当をする方のために
- Web2とWeb3の事業設計の違い
- Web3ならではの企画を作る必要性
- Web3ならではの企画を作るヒント
について解説します。
本記事で分かること
・Web2とWeb3では事業設計における考え方が大きく異なる
・Web3は新規ブランド/IPを作るチャンスである
・ユーザーから支持されるかは企画が9割を握っている
Web2とWeb3の事業設計は何が違うのか?
最初に、Web3プロジェクトの企画を作る前提となる、Web2とWeb3の事業設計の違いについて解説します。
なお、本記事で扱っている事例は代表的なWeb2事業であるため、全ての事業に当てはまるとは限りません。
Web2の事業設計の特徴
①どれだけ多くの人の目に入ったかが勝負

Web2プロダクトの多くは、できるだけ多くの人の目に触れさせることが大事とされています。
これは、広告で集めた無料ユーザーの一部を有料サービスに戦略的に導き、課金総量が広告費や開発費を上回ることでビジネスが成り立っているためです。
課金額を予測する上で重要になってくるのが継続率(リテンションレート)で、ほとんどの分野では30日後に残っているユーザーはわずか10%以下というデータもあります。

長期間残ってくれるユーザーの数は、アプローチした人数に比例するため、各社がテレビやネット広告を駆使してプロダクトの認知度を上げる努力をしています。
②ロイヤルカスタマーの定義は課金額

Web2(主にソーシャルゲーム)では、ロイヤルカスタマーかどうかは課金額の多さでほぼ決まります。
日々離脱人数が増えていく中で、残ったユーザーからどう課金させていくかを考えるビジネスモデルであることに起因しています。
ユーザーの課金を促す際に活用されるのが「クラスター分析」で、ユーザーを似たような特徴を持つグループに分け、施策を考えます。
例えばソーシャルゲームでは、課金額でS/A/B/Cのようにユーザーをランク分けし、ユーザーを上の層に持っていくための施策を考えます。
打つべき施策は狙うターゲットによっても変わり、無課金層を微課金層に持っていくのと、重課金層を超課金層に持っていくのは考え方が全く異なります。

打つべき施策を間違うと、ユーザーの課金額を上げるどころかユーザーが離れてしまうため、仮説検証を繰り返しながら改善する必要があります。
課金額をいかに上げるかは経営上重要な課題であり、ゲーム業界では課金専門のコンサルがあるほどです。
③新規IPとの相性が悪い

Web2では新しいIPを作らずに実績のあるIPを使うケースが多いです。
この背景にはWeb2ビジネスの構造が影響しており、
- 売上がリリースまで見込めない
- ヒットするかはリリースするまで分からない
- ファン集めをする必要がない
- 既存ファンがいるため売上の見通しが立ちやすい
といった理由があります。
近年の人件費/制作費高騰/競争激化により、1つの新規IP制作に1億円以上かかるとも言われている中で、ヒットするか不明瞭なIP制作を行うのはリスクが高いです。
従って、0から新しいIPを作ることは費用的/時間的にも相当な企業体力がないと厳しく、
- 自社の売れているIPを再利用
- 他社の売れているIPを借用
するケースが目立ちます。
みなさんの周りにも「○○(タイトル)2」や「○○コラボ」「原作○○」が多いという体感があるかと思いますが、これが新規IP創出の難しさを物語っています。
Web3の事業設計の特徴
①数は少なくともコアなファンにアプローチする

できるだけ多くの人にアプローチするWeb2とは異なり、Web3ではプロジェクトが目指す目標に共感した人だけに参加してもらう方法を採ります。
法規制の観点でWeb3(特にトークン)の広告を打てない前提はありますが、Web3プロジェクトはプロトタイプの頃からユーザーを迎え入れ、一緒に作る動きをします。

これは、Web3の非中央集権的/ユーザーとの共創/透明性といった思想が大きな影響を与えています。
また、コミュニティの大きさがトークン上場の審査基準の1つである事情から、ローンチのかなり前からロイヤリティの高いユーザーを集め始め、長い期間繋ぎ止めておく必要があります。
Web2では長い間ユーザーを繋ぎ止める手段がありませんでしたが、Web3ではトークン付与が可能で、コミュニティを盛り上げるインセンティブとしても働きます。
実際に、トークンインセンティブを付与することで利用1日後の継続率(リテンションレート)を10%から40%にまで高めたオンライン学習サービスも存在します※。
※詳しくはDIAMOND SINGNALの記事をご覧ください

ただし、トークンインセンティブのみに頼ってしまうと、トークンの値上がり以外に興味のない投機家属性のユーザーばかり集まってしまう可能性があるため注意が必要です。
投機家を可能な限り排除しながら、本当にプロジェクトに共感したユーザーを集めるためには、プロジェクトの面白さをいかに魅力的に伝えられれるかがポイントです。
②ロイヤルカスタマーの定義は運営が決める

Web3では単にトークンやNFTをたくさん購入した人が、必ずしもロイヤルカスタマーになるとは限りません。
通貨の流れが一方通行であったWeb2とは異なり、売買可能なNFTが出てきたことにより、単純な課金額を追っていても状況を把握できないためです。

仮にあるユーザーがNFTを大量に買っていても、大量に売りに出しているユーザーは経済圏にとってマイナスに働きます。
つまり、Web3プロジェクトではNFTを購入した後に
- どれだけトークンを消費したのか
- どれだけNFTを強化したのか
- どれだけ触ってくれたのか
がロイヤルカスタマーの判断軸の1つになります。
金銭面だけでなく、プロジェクト初期からSNS等で積極的に発言しているユーザーも、コミュニティ拡大において貢献していると言えるでしょう。
以上より、Web2のように「興味はないけど目に入ったから触ってみた」という属性のユーザーを多く集めてもコミュニティの拡大にはほとんど寄与しません。
むしろ、ローンチしてもすぐに売られて経済圏が崩壊しかねません。
1度経済圏が崩れると立て直すのは非常に難しく、2021〜2022年にかけて世界的なブームを引き起こしたAxie InfinityやSTEPNも、過去の崩壊をいまだに引きずっています。
③新規IPとの相性がいい

3つめの特徴として、Web3は新規IPとの相性がいいことが挙げられます。
これは、初期からユーザーに参加をしてもらいながらプロジェクトを一緒に大きくするWeb3の思想によるものです。
IPの知名度がなくても共感できる/面白いと思ってもらえれば、0から作るプロセスをユーザーと一緒に行うことで、ユーザーをファン化することが可能です。
例えるなら、劇場に誰もいないアイドルや路上アーティストを初期から様々な形で応援し、全国コンサートを行うまでの規模に盛り上げるプロセスに似ています。
もちろんアイドルやアーティストに限った話ではなく、
- ファッション
- 飲食店
- 日本酒
- 農畜産
- 小売
- 伝統工芸
- エンタメ
等にも展開できるため、ほぼ全ての産業にも当てはまります。

リリース直前にならないとユーザーとの接点がないWeb2とは真逆とも言えるモデルです。
当然ながら、初期の認知をとる上では既存のIPを使う戦略も有効ですが、
- 伸び代が少ない
- 必ずしもユーザーが望んでいない
可能性があります。

むしろ、世間的にまだWeb3の理解が進んでいないため、説明なしにWeb3の技術を乗せてしまうと「私が好きだったものが怪しくなった」という印象を与えかねません。
この点で分かりやすく明暗が分かれたのが、スターバックスとポルシェのプロジェクトに対するユーザーの反応です。
ここでは詳細は割愛しますが、ポルシェはユーザーとの信頼関係を築かないまま進んでしまい、
- NFTのユーティリティや価値を伝える
- プロジェクトのスケジュールを明示する
- ユーザーが納得する価格を設定する
- 一般ユーザーでも参加できるようにUI/UXを整える
といった努力を怠った結果、炎上してしまいました。
このように、Web3プロジェクトではプロジェクトに関係する全ての事に対し、なぜその選択をしたのか?をクリアに説明できる必要があります。
また、Web3では無名なIPを運営と一緒に有名なIPに変化させる体験をしやすいため、新しいIPを作りやすい構造になっています。
ここまで述べてきたように、Web2とWeb3では事業設計における考え方が大きく異なり、Web3では共創/分散性/透明性の思想に重きが置かれています。
次の章では、上記のような違いがWeb3ならではの企画を作る際に重要となる理由について解説します。
Web3ならではの企画を作る必要性とは?

Web2とWeb3の事業設計の違いから、Web2と同じ感覚でWeb3プロジェクトの開発を進めてしまうと、プロジェクトがユーザーから支持されない可能性があります。
ここでポイントとなってくるのが、「Web3ならではの企画」を作ることであり、プロジェクトの成功は9割企画にかかっていると言っても過言ではありません。
Web3ならではの企画を作る必要性は、以下の2点にあります。