
My Crypt Heroesは、日本初のWeb3ゲームで、業界全体を見渡しても古参の部類に入るWeb3ゲームプロジェクトです。
2019年8月には、世界No1のユーザー数およびトランザクション量を誇るなど、Web3ゲーム黎明期に一時代を築いたゲームであることは間違いないでしょう。
時代の先取りを行ったという点もさることながら、
・デジタルアート作品の作成・売買機能
・ランド機能
・ゲームのガバナンス機能
など多様な機能を内包しており、Web3ゲームにおける理想形を実現しようとしていました。
ただ、時代が進むにつれて、「より手軽」「より高クオリティ」のWeb3ゲームが続々と登場し、My Crypt Heroesの新鮮味が徐々に失われていくことになります。
そんな中、開発会社のdouble jump.tokyoは、新規ゲームの開発と同時に、ゲーム専用チェーン「Oasys」の開発に乗り出すなど、領域を広げた成長戦略を取りました。
ガバナンストークンによるゲーム運営モデルをいち早く取り入れた点に加え、ゲームに留まらない成長戦略は今後のWeb3ゲーム開発において参考にすべき部分は多いと言えます。
日本最初のWeb3ゲームが作ろうとした世界と、今後の成長戦略について考察していきます。
開発者視点での学びPOINT
・初期Web3ゲームはゲーム性は二の次でもコンセプトと収益性で流行した
・コンセプトにインパクトがあるほど、流行り廃りが激しい
・ゲーム人気に陰りが見えた際の拡大戦略
ユーザー視点での学びPOINT
・古参Web3ゲームでも多様な収益ポイントを内包していた
・日本初のWeb3ゲームプロジェクトと開発会社が今何を目指しているか
目次
プロジェクト概要

コンセプトとヒーローNFT
My Crypt Heroesは日本初のWeb3ゲームとして、2018年11月のローンチされました。
コンセプトは「ゲームにかけた時間もお金も情熱も、あなたの資産となる世界」です。
ローンチ当初は、「ゲームで稼ぐ」・「ゲーム内アイテムが資産になる」という概念が新鮮で、瞬く間にユーザー数を伸ばしていきました。

My Crypt Heroesでは、歴史上の偉人がヒーローとしてNFT化されています。
このヒーローNFTを3体揃えて、クエストやPvPで闘わせる遊び方がメインです。
他にも、ドロップしたアイテムを売却したり、アート作品を作ってマーケットで売買したりなど、バトル以外での遊び方も用意されています。
ランド機能

My Crypt Heroesには、ランド機能も備わっています。
ゲーム内に9つのランドと呼ばれる国があり、ユーザーはいずれか1ランドに所属できます。
ランドに所属することで、様々な恩恵を受けられたり、ランドクエストに参加できるようになるなど、チーム戦としての楽しみ方もできる設計になっています。
また、各ランドは、ランドセクタと呼ばれる細かい領地単位に分けられており、このランドセクタを購入することでランドの所有権を得ることができます。
ランドセクタの所有者は「ロード」と呼ばれ、ランド所属ユーザーがGUMを購入した際、購入金額の一部がETHとしてロードに分配されます。

また、上記の表のようにランドセクタにもレア度があり、それぞれ大きさ(ボリューム)が異なります。
1ランドは合計1,000ボリュームで構成されており、いくつ分のボリュームを所有しているかで、収益配分が変動します。
運営会社、パートナー企業

運営会社は、doublejump.tokyoという日本のブロックチェーン開発会社です。
My Crypt Heroesの開発とともに飛躍し、現在ではWeb3ゲーム開発のみならず、開発支援プログラムの提供や国内外の多くの企業と提携し横断的なプログラム開発を行っています。
パートナー関係では、国内のブロックチェーン関連メディアと多数提携を結んでいます。

My Crypt Heroesはなぜ流行したか?
全体像をおさえたところで、なぜこのタイトルが流行したのか、その背景を考察していきたいと思います。
大きな要因は、以下の2点にあると考えられます。
①コンセプトの目新しさ
②多様なWeb3ゲーム体験が可能だった
①コンセプトの目新しさ
2019年に世界一のDAUを誇るまでになった要因の1つ目は、「ゲームにかけた時間もお金も情熱も、あなたの資産となる世界」というコンセプトの目新しさにあるでしょう。
これまでは、ゲームキャラクターやアイテムはゲームの中でしか使えませんでした。
My Crypt Heroesの登場によって、キャラやアイテムを売買したり、ゲームの外側に出すことができる世界があると初めて知ったユーザーは多いことでしょう。
NFTが流行語にノミネートされるなど、その認知が一般に進んだのが2021年に入ってからです。
My Crypt Heroesのコンセプトは、ゲームローンチ時の2018年にはユーザーに相当なインパクトを与える概念だったでしょう。
My Crypt Heroesのバトルはオートシステムのため、ゲーム性の面では他のゲームに劣るのは否めません。
ですが、プレイで得られるアイテムが収益に繋がったり、キャラクターを売買したり、My Crypt Heroesでの体験全てがユーザーにとって新鮮で面白味のあるもので、ユーザーを引き付けたと言うことが出来ます。
②多様なWeb3ゲーム体験
多様なWeb3ゲーム体験が出来た点もユーザー数を伸ばした要因でしょう。
My Crypt Heroesには、バトル以外に、デジタルアート作品の作成・売買、ランド所有による収益獲得、MCHCによる運営など、多様な収益方法、関わり方がありました。
Play To Earn要素とアート要素、ガバナンス要素を兼ね備えたプロジェクトは、特にWeb3ゲーム黎明期においては珍しいものでした。
このように多様な楽しみ方があった点も、ユーザーの裾野を広げ、経済圏を拡大することができた要因でしょう。
トークン及びゲーム内通貨概要
トークン概要
My Crypt Heroesのトークン「MCHC」とゲーム内アイテムについて概要をご説明します。

トークン名:MCHC(My Crypt Heroes Coin)
- 発行上限 :50,000,000枚
- 時価総額 :290,006,835円
- 価格 : $0.08(¥11.9)9/15時点
- 上場取引所 :
DEX・・・Uniswap、Quickswap
CEX・・・MEXC - 種類 :ガバナンス
- 獲得方法 :CI(Crypt Ingot)との交換
- 使用ポイント:ガバナンス提案の投票権
- トークンアロケーション
ユーザーコミュニティ50%
内500万枚をステーキング報酬としてアロケーション
マーケティング:10%
関連ゲームタイトルやMCH+参画ゲームとのコラボで使用
開発運営:40%
開発スタッフ、アドバイザー、投資家、株主等の関係者への付与

ゲーム内通貨およびアイテムについて
併せてMy Crypt Heroes内で出てくるアイテムや用語の整理をします。
下図をおさえた上で、トークノミクスの解説に入りたいと思います。

ユーザーの収益ポイント
4種類の稼ぎ方
My Crypt Heroesには直接的にトークン(MCHC)を稼ぐモードはありません。
ただ、以下の4種類の稼ぎ方が用意されており、それぞれでアイテムなどを得ることができます。
1. クエストでアイテムを得る
2. PvP、GvGに参加する
3. マーケットでヒーローNFTやエクステンションを売却する
4. アートNFTを作成して売却する
1. クエストでアイテムを得る
オートバトル形式で、敵との3回勝負に全てクリアすることで、エクステンションと呼ばれる装備NFTなど報酬を得られます。
2. PvP、GvGに参加する
PvPに参加・勝利することで、アイテムを手に入れたり、キャラクターNFTの価値を上げることができます。
こちらも3対3のオートバトルで争われます。
また、ギルド同士のバトル(GvG)もあり、ここでもアイテムが入手できます。
3. マーケットでヒーローNFTやエクステンションを売却する
ヒーローNFTやエクステンションを売買して、ゲーム内通貨を得る方法です。
PvPで活躍したキャラクターNFTやエクステンションは価値がつき、その後マーケットの売買で高値での売却が期待できます。
4. アートNFTを作成して売却する
アートエディット機能を使い、オリジナルのヒーローNFTを作って、マーケット上で売買する方法です。
作品に「いいね」がつくごとにゲーム内通貨を得られる仕組みもあります。
士農工商モデルとは?

前ページで紹介した収益ポイントですが、My Crypt Heroesでは、ユーザーの収益方法を「士農工商モデル(※)」に則って分かりやすく分類しています。
My Crypt Heroesでは以下のように定義されています。
・士・・・主にPvP参加を行うユーザー
・農・・・主にクエスト(PvE)参加を行うユーザー
・工・・・主にオリジナルのアート作品を作成し売買するユーザー
・商・・・主にゲーム内外でNFTの売買を通してGUMを貯めるユーザー
実際には、ゲーム内でどれになるかを選ぶことはありません。
ただ、士農工商モデルによって、ユーザーに「自分もこの世界の一員になって、ゲームを動かしている」という「所属感」を与えているという意味で、役割は大きいでしょう。
※あくまでゲーム内の説明のために「士農工商」という概念を使っているのみで、各身分の上下や、収益の差はありません。
トークノミクス考察
トークノミクス全体像
ゲーム内でのGUM、Cp、CI、MCHCの関係性と、MCHC入手までの流れは下図のようになります。

MCHCはCIからの交換という形でしかゲーム内で入手することができず、そのCIはランド対抗のPvP「幻獣大戦」というバトルで獲得することができます。
このように、ゲームをある程度やり込まないと、MCHCを得ることができない設計になっています。
My Crypt Heroesのコンセプトは、「ランドを中心としたインセンティブをもとに自走するエコシステム」です。
My Crypt Heroesは、インフラやゲーム開発は運営が行い、アセットの発行や運営はユーザーが主体となっていくスタイルを理想としてトークノミクスを設計してきました。
その場所の中心となるのがランドです。
ランドでユーザーは自由にNFTを発行し、ゲームの運営について自由に議論し方向性を決められるようになることこそ、My Crypt Heroesの目指す世界です。
MCHCは、ガバナンストークンとして、機能面としては投票権のみであり「コミュニティ運営のために必要なもの」という性格が強いものになっています。
ここで重要になるのが、MCHCの機能です。