
Web3プロジェクトのマーケティングを任されたものの、これまでマーケティング業務の経験がなく、どの情報を集めれば効果的なマーケティングを行えるのかに困ったことはありませんか?
または、マーケティングの知識があっても、Web2マーケティングの手法が通用しないと感じたことはありませんか?
Web3マーケティングにはWeb2.0にはなかったコミュニティやウォレットが重要であるため、より複雑になります。
Web2.0のソーシャルゲームを例にすると、マーケティングは一般的に以下の流れで進められます。

しかし、実際にこの流れに沿って手を動かしてみると、Web2.0で当たり前にできていたマーケティングがWeb3では難しいことが分かります。
例えば、
- 広告を出しにくい
- ブラウザ版ではユーザーのトラッキングができない
- トークンを使った決済の追跡方法が分からない
- LTV※からマーケティング効果の検証ができない
- コミュニティがどのようにマーケティングに紐づくのかが分からない
といった壁にぶつかるはずです。
LTV(Life Time Value)とは?
1人のユーザーが、プロダクトを使い始めてから退会するまでの期間内にどれだけ利益をもたらすかを算出したもの。
新規顧客獲得のコストは既存顧客維持の数倍かかるため、既存顧客の維持は非常に重要なテーマといわれています。
実はWeb3マーケも日々進化しており、オンチェーン(トランザクション等)とオフチェーン(アプリ内の動き)のデータを結びつけることで、詳細なマーケティングができるようになりつつあります。
すると、Web2マーケティングの流れがWeb3でもできるようになります。
それだけではなく、ブロックチェーン技術の「誰でも中身を見られる」ことを利用することで、Web2.0よりも強力なマーケティングを行えるようになります。
この記事では、Web2マーケティングの基礎に触れながら、Web3におけるマーケティングの方法や考え方について解説します。
本記事で分かること
・Web2マーケティングでは当たり前にできていたことが、Web3マーケティングではやりにくい
・コミュニティや卯CおレットのようなWeb3特有の要素を結びつけられるツールが存在する
・オンチェーンとオフチェーンの情報を繋ぐことにより、Web2.0よりも精度が高い分析を行える
本記事の内容は執筆時点での情報であり、開発の進捗によっては記事の内容と相違が出る可能性があります
Web2マーケティングの流れ
Web3マーケテイングの話に入る前に、Web2マーケティングの流れについて触れておきます。
なお、本記事ではゲームアプリに主眼を置いて解説を行います。
概要
Web2マーケティングの工程は確立されたテンプレートがあり、以下の6ステップで進みます。

次のステップに移行しないユーザーを最小化するためにPDCAを回し、効果的な施策(広告)を模索することがマーケターの仕事です。
STEP1:認知

マーケティングの最初のステップは、以下のような媒体で広告を出し認知を広めます。
- YouTube
- TikTok
広告にも多くの種類があり、
- 静止画
- 動画
- Playable Ads
を通じてユーザーをアプリのダウンロードページに誘導します。
特に体験型広告であるPlayable Adsはゲーム広告において強力な手法で、自然にダウンロードへの導線を引くことができます。
ただし、制作に多くの時間や予算を要する点はデメリットです。
なお、Web3業界ではユーザーが多いTwitterでの広告が有効と考えられていますが、マスアダプションを狙うためには他媒体のデータも集めておく必要があります。
STEP2:ASOの最適化

ASO(アプリストア最適化)とは、アプリストアのランキングで上位を狙うことです。
興味を持つユーザーに魅力的に働きかけ、アプリをダウンロードさせることが目的です。
そのために、
- アプリ名によく検索されるキーワードを含める
- ゲーム内容が画像を入れる
- ユーザーのレビューを入れる
等のテクニックがあります。
ユーザーがアプリをダウンロードすることで、次のステップへ進みます。
STEP3:チュートリアル突破

アプリのダウンロードをしてもらった後は、ユーザー登録を完了してもらい、本格的にゲームを触ってもらいます。
この際、チュートリアルや初期クエストを通じてゲーム内容やゲームのコア体験をユーザーに理解してもらいます。
STEP4:初課金への誘導

Web2ゲームは無課金でプレイできる方式(フリーミアム方式)が主流です。
無料でサービスを提供することで、多くのユーザーを獲得することができます。
ある程度までストーリーを進めると強い敵に当たるような設計にし、
- 強敵に勝ちたい
- もっと効率よく進めたい
と思わせて課金を促すのが一般的です。
このステップでは、少額課金すれば攻略が一気に楽になる設計にするのがポイントです。
一回課金させてしまえばユーザーの財布の紐が緩み、継続して課金してもらいやすくなるためです。
STEP5:再課金の促進

このステップでは、ユーザーに継続的に課金を促す施策を動かします。
Web2ゲームでは、ユーザーを似たような特徴を持つグループに分け、その中からターゲットとなる層の行動を促す「クラスター分析」がよく行われています。
グループを分ける軸としては、
- プレイ時間の長さ
- よくコミュニケーションを取るメンバー
- 課金額
が挙げられます。
Web2ゲーム(特にソーシャルゲーム)では課金額を重要視しており、ユーザーを課金額でS/A/B/Cランクのように分けをし、ユーザーを上の層に持っていくための施策を考えます。
打つべき施策は狙うターゲットによっても変わり、無課金層を微課金層に持っていくのと、重課金層を超課金層に持っていくのは考え方が全く異なります。

打つべき施策を間違うと、ユーザーの課金額を上げるどころかユーザーが離れてしまうため、仮説検証を繰り返しながら改善する必要があります。
課金額をいかに上げるかは経営上重要な課題であり、ゲーム業界では課金専門のコンサルがあるほどです。
STEP6:LTVの計測

このステップでは、1ユーザーが企業に落とす金額を計測します。
計測したデータは、LTVの構成要素である平均課金額/取引期間/取引回数を上げるために使います。
そして、予算に対する売上を計測することで効果を検証し、広告の費用対効果を改善していきます。
例えば3,000万円の予算で1万ユーザーを連れてきて、1人1万円課金に誘導できれば1億円の売り上げになるため、広告を出す意味が出ます。
広告費に対する売り上げの予測が立てば、予算が立てやすくなるため、LTVの計測には適切なリソース配分を行いやすくなるメリットもあります。
Web2マーケティングで重要なSDKとは?

SDKとはソフトウェア開発キット(Software Development Kit)の略称で、ここまで解説したWeb2マーケティングを行う上で重要な役割を果たします。
SDKを導入することにより、
- 多く課金するユーザーはどの広告から入ってきているのか
- チュートリアルを突破できたのは何割なのか
- ユーザーが離脱するのはどの部分なのか
といったユーザーの行動履歴を追跡(トラッキング)できるようになります。
すると、経営上の問題を定量的に把握することができ、LTVを上げるための施策をより具体的な問題に落とし込むことに繋げられます。
SDKは以下のような企業が提供しています。
- Apple
- Amazon
- CyberZ
- GMOメディア
- SmartNews
- Adways
- FreakOut
SDKは、アプリ開発者にとって、アプリの機能強化や収益化に役立つ重要なツールとなっていますが、ユーザーデータのプライバシー保護は近年問題視されています。
Web3マーケティングで現状できないこと
ここまでWeb2マーケティングの大まかな流れを解説してきましたが、Web2.0でできていたことの中に、Web3では現状できないことがあります。
この章ではWeb3マーケティングを行うにあたり、課題となる点について解説を行います。
①広告出稿にリスクがある

Web3マーケティングにおいて最初の大きな障壁となるのが、広告を出す難易度が高いことが挙げられます。
その理由は、文言に「暗号資産」や「稼げる」を入れてはいけない等の規制があるためです。
規制をうまく回避できたとしても、内容によってはbanされてしまい、現在行っている他の業務に支障をきたす可能性も出てきます。
また、アプリストアへの掲載には審査を通過する必要があり、法的な立ち位置があいまいな暗号資産を扱うプロジェクトにとって不利に働きます。
②アプリストア経由のSDKを使えない

第2に、Web3プロジェクトはアプリストアに載せることが難しいため、アプリストア経由のSDKを使った広告トラッキングがしにくいです。
仮にアプリ審査を通過できたとしても、以下の課題もクリアする必要があります。
- トラッキングの許可はユーザーが選択する
- 売上の30%がプラットフォーマーに徴収される
上記に加え、Web3の場合は以下の観点からアプリストアを経由すると経済圏が成り立たなくなるため、アプリストアへの掲載を避ける傾向にあります。
- エコシステムの安定化
- プラットフォーマーに支払う分をユーザーのearn体験に回したい
そこで、Web3プロジェクトのアプリでのリリースは行わずに、ブラウザゲームとするケースが見受けられます。
上記のような理由から、Web2.0で前提としていたアプリストア経由のSDKが実質封じられてしまいます。
③LTVからCPIを算出しにくい

課金額からLTVの算出はできますが、
- 広告が出しにくい
- アプリストアを経由できない
といった制約があるため、流入経路が分かりません。
その結果、マーケティング上重要なCPI※等の指標を算出できず、予算をいくらに設定すべきなのかの判断がつきません。
※CPI:クリック率/インプレッション数
費用対効果を明確にできないとマーケティング施策を絞ることができず、人的資本的リソースの無駄遣いに繋がります。
④どんな人が入ってきたのかが分からない

ユーザー情報に加え、どの広告からから入ってきたのかが追えるWeb2マーケティングと異なり、Web3ではどのような属性のユーザーが入ってきたのかが分かりません。
もう少し具体的には、Web2.0で広告を打つ際は事前に性別や年齢等のターゲットを決め、ターゲットがクリックする確率が高いチャネルで発信します。
しかし、Web3では広告やアプリ経由のSDKが使えず、ユーザー属性を判断する材料を揃えることができません。
その結果、自社のプロジェクトに興味がある/長く遊んでいるユーザー像を明確にできず、彼らが喜ぶ施策を当てる難易度が高くなってしまいます。
このように、確度高いマーケティングを行うのに必要な情報を集めにくいのがWeb3プロジェクト開発の現状です。
これらの問題を解決するために必要なのが、オンチェーンデータです。
オンチェーン/オフチェーンのデータとは?
ここで、オンチェーン/オフチェーンデータについて解説します。
オフチェーンデータとは、
- 広告のクリック率
- ゲーム内の動き
- アプリのダウンロード有無
のようなデータであり、Web2マーケティングの流れの中では以下が該当します。

一方でオンチェーンデータとは
- 暗号資産の売買
- NFTの売買
- 暗号資産のミント/バーン
- ウォレット内情報
のような、ブロックチェーン上に記録されるデータのことで、Web3マーケティングの流れの中では下図の部分が該当します。

オンチェーンデータが可能にする分析
①より詳細なターゲット分析

Web3マーケティングでは、Web2マーケティングで追えるオフチェーンデータのみではユーザーの情報を十分把握できません。
具体的には、
- ユーザーがどこから来たのか(SDKを使えないため)
- なぜNFTを買ってくれたのか
- NFTを購入したのに遊ばないのはなぜなのか
- 利確ばかりしているユーザーがどれくらいいるのか
といったオンチェーンデータがユーザー属性の理解には必要不可欠です。
データが欠けていることでCPI※等のマーケティング指標を出せず、予算をいくらに設定すべきなのかの判断がつきません。
※CPI:クリック率/インプレッション数
逆にオンチェーンデータを活用することで、
- どの暗号資産をいくら持っているのか
- どのNFTを所有しているのか
- 他に参加しているプロジェクトはあるのか
- 過去に取引したことがある取引所はどこなのか
といったウォレットの使われ方を全て明らかにすることができます。
これは、トレーサビリティ※というブロックチェーンならではの特徴を使ってこそできるマーケティング手法です。
※過去の取引がオープンになっている状態で記録されていること
②より強力なクラスター分析

Web2マーケティングの章でも触れた、ユーザーを分類して課金欲を刺激するクラスター分析にも、オンチェーンデータの存在が必要不可欠です。
通貨の流れが一方通行であったWeb2.0とは異なり、売買可能なNFTが出てきたことにより、単純な課金額を追っていても状況を把握できません。
具体的には、NFTを大量に買っていても、大量に売りに出しているユーザーは経済圏にとってマイナスに働きます。
つまり、Web3プロジェクトではNFTを購入した後に
- どれだけトークンを消費したのか
- どれだけNFTを強化したのか
- どれだけ遊んでくれたのか
といった情報が重要な意味を持ちます。
従って、オンチェーン上に残っているトランザクションを追えないオフチェーンデータの情報だけでは、情報がない状態でマーケティングを行っているのと同じです。
オンチェーン/オフチェーンのデータを繋ぐ重要性が分かったところで、次にこれらを繋ぐ方法を解説します。
オンチェーンとオフチェーンを繋ぐ方法
オンチェーン/オフチェーンのデータを繋ぐにはどのような方法があるのでしょうか?