普段我々が多くの事業者と会話をする中で、特に日本の事業者は自社トークンに関し、以下のような悩みを持っていることが多いです。
- 時価総額を上げられない
- 注目が集まらず、取引高が増えない
- Tier 1 CEX※への上場難易度が高い
※Binance、Coinbase、Bybit、OKX等の中央集権型取引所
一方で海外のプロダクトを見渡すと、2023年末から時価総額を一気に上げてTier 1 CEXにトークンを上場させている例が複数あります。
各PJを分析すると、確立された手法はないものの、一定のパターンを見出せます。
本記事では、具体的にどのようなスキームでTier 1 CEX上場に漕ぎ着けているのかを解説します。
この記事の目次
トークンの時価総額を構成する要因
本題に入る前に、トークンの時価総額がどのような変数で形成されるかを解説します。
我々は、トークンの時価総額に以下のような法則があると考えています。
この法則から、トークンの時価総額を上げるには以下のようなことが有効であると言えます。
- ブルマーケットにトークン発行
- Tier 1 CEXへの上場
- 強力なVCからの投資
- 旬のジャンルの選択
- 優れたユーティリティ設計
- 優れたトークンエコノミクス設計
ただし、マーケットは自社だけで動かすことができないため、実際に行動に落とし込めるのはモメンタムを作り、業界でのポジションを確立することです。
そこで本記事では、自社努力で動かせる中でトークン価格に大きな影響を与えるTier 1 CEXへの上場について深掘りします。
Tier 1 CEXへの上場効果
業界で強い影響力を持つTier 1 CEXへ上場することで、トークン価格の上昇が見込めます。
ユーザーが多い取引所に上場することでトークンへの注目度が高まり、トークンを入手する方法が限られていたユーザーにリーチできるためです。
Ren & HeinrichがBinanceに上場した26銘柄の価格分析を行ったところ、上場直後に多くのトークンが価格が上がったという調査結果もあります。
Binance上場に伴うトークン価格の上昇はBinance効果とも言われており、現在もその効果が認められます。
トークン価格を上げる効果があるとされるTier 1 CEXへ上場には、どのような条件が必要なのでしょうか?
Tier 1 CEX上場の主要要件
Tier 1 CEXへの上場には、以下の要件が必要とされています。
- TVL(預入資産)
- トランザクション数
- コミュニティ
これらの要件はCEXに上場した際に、取引が盛んに行われる可能性があるかという基準で選ばれています。
取引所側の視点で考えると理由は明らかで、上場を通じて取引手数料が増えるかが重要なためです。
ただし、各指標がどの程度になれば良いかは明示されておらず、どの項目を重視しているかも取引所によって違います。
このような環境の中、Tier 1 CEXへの上場が確実視されているBLASTの事例を使い、スキームの解説を行います。
4ヶ月で$22.7億のTVLを作ったBLAST
BLAST概要
BLASTはNFTマーケットプレイス「Blur」の創設者であるPacmanが立ち上げたEthreum Layer 2で、特徴は$ETH・ステーブルコイン($USDB)に自動利回りを提供する※ことです。
※原資はETHステーキングとRWA(Real World Assets)プロトコルにより提供される利回りで、$ETHは4%、$USDBは15%に設定
ParadigmやSTANDAR CRYPTOといった有力VCから資金調達を受けており、2024年2月末にメインネットがローンチされました。
BLASTの実績
BLASTは執筆時点(2024年5月)で以下のような実績を残しています。
①TVL$27.2億(L2で4位)
②1日のトランザクション数72万回/日
③テストネットにて4ヶ月で$22.7億のTVL
④ユーザー数18.2万人
⑤Xフォロワー62.8万人
TVL$27.2億(L2で4位)
BLASTはCoin Baseが手がけるBaseチェーンに次ぐ時価総額で、Ethreum L2の6.7%ものシェアを占めています。
1日のトランザクション数72万回/日
BLASTはメインネットがローンチした2024年2月末から、トランザクション数が最低でも20万回/日を下回っておらず、多くのアクティブユーザーが活動し続けていると推定されます。
テストネットにて4ヶ月で$22.7億のTVL
アーリーアクセス開始直後からTVLが高まっており、リリースからわずか4日間で$4億もの資金を集めています。
あまりの注目度の高さから、「一部でネットワークの中央集権化に起因する重大なセキュリティリスクを抱えている」と懸念されるほどでした。
ユーザー数18.2万人
資産を預け入れ入しているウォレット(≒ユーザー数)が18.2万人います。
Xフォロワー62.8万人
Xフォロワーは62.8万人であり、各ポストのインプレッションも数万〜数十万あることから、多くのユーザーの興味を惹きつけていると言えます。
次の章では、どのようなマーケティングを行なって上記のような実績を残したのかを解説します。
BLASTのマーケティング手法
BLASTは、エアドロップ※を活用したトークンマーケティングにより、先述した実績を残しています。
※プロダクトに貢献した(多く使う、多くの人に紹介する等)ユーザーに発行トークンを配布すること
ここまで期待が高まった背景には、創業者がBLASTの前に立ち上げたBlurで行った高額エアドロップがあります。
同様の高額エアドロップ実施への期待から、アーリーアクセス開始とともにユーザーを急増させています。
なお、Blurは後発であったにもかかわらず、最終的に最大手のOpenSeaからシェアを奪っています。
次の章ではBLASTがどのようなポイント設計を行なっていたかを解説します。
BLASTのポイント設計
BLASTのエアドロップに関するポイントには、以下の2種類があります。
- BLAST POINTS:ユーザーと事業者に配布
- BLAST GOLD:Dappsに配布(ユーザーへの再分配が推奨されている)
BLAST POINTSとBLAST GOLDの取得には、預け入れ額を基本とした付与の他にも、以下のような入手方法があります。
BLAST POINTS | BLAST GOLD | |
ウォレット残高 | ◯ | |
DappsのTVL | ◯ | |
招待 | ◯ | ◯ |
マルチプライヤー | ◯ | |
Dappsからの配布 | ◯ |
中でも特徴的な設計は以下の3つです。
BLASTの特徴的なポイント設計
①招待に基づくポイント
②Dapps利用によるマルチプライヤー
③開発者向けのエアドロップ
①招待に基づくポイント
1つ目の特徴は、招待ボーナスポイントが単に招待数に紐づいておらず、預け入れ額が多いユーザーの招待が優遇される点です。
BLASTでは、招待した孫世代までのユーザーが獲得したBLAST POINTSとBLAST GOLDを上乗せで獲得できる他、以下のような設計になっています。
- アーリーアクセスへの参加に招待コードが必要
- チーム内でのブリッジ資産が5ETHを超えると新たな紹介枠が付与
上記のような設計にすることで、インフルエンサーが有利な招待数重視の招待とは異なり、限られた招待枠を効率よく活用することが求められます。
また、知らない大口投資家が自分の招待コードを使ってくれる可能性から、ユーザーがX等に招待コードを投稿するメリットが生まれ、Xのトレンド形成にも繋がっています。
BALSTの招待システムは、TVLの増加とコミュニティ形成に大きく寄与したと考えます。
②Dapps利用によるマルチプライヤー
指定されたDapps利用でBALST POINTS獲得効率が上がる仕組みであるマルチプライヤーは、トランザクション数の増加に寄与しています。
エアドロップに期待するユーザーが、ポイント目的で頻繁な取引を行うためです。
実際にマルチプライヤー前後のBLASTチェーントランザクション推移を見てみると、トランザクション数が増えていることが分かります。
③開発者向けのエアドロップ
発行トークンの50%をDappsに渡すBLAST GOLDにより、Dapps開発の活性化に繋がっています。
BLAST GOLDの配分は分野ごとに行われたコンペにより決定しており、英語以外に中国語/韓国語/日本語でも発信していました。
各Dappsに配布されたBLAST GOLDの使い道は自由ですが、エコシステム拡大のためにユーザーに分配することが推奨されています。
GOLDをユーザーに再分配することは、ユーザー増加→TVL/取引増加→独自トークン発行→Tier 1 CEX上場という正のサイクルに繋がる可能性があります。
施策年表
日付 | 施策 |
---|---|
2023/11/20 | ローンチ(アーリーアクセス) |
2023/11/22 | ユーザー数が2.3万人、TVLが$0.8億を突破 |
2023/11/23 | ユーザー数が3.7万人、TVLが$2.3億を突破 |
2023/11/25 | ユーザー数が5.2万人、TVLが$4.4億を突破 |
2023/11/28 | ユーザー数が6.3万人、TVLが$5.7億を突破 |
2023/12/9 | ユーザー数が7.5万人、TVLが$8.2億を突破 |
2023/12/28 | UIアップデート ユーザー数が8.5万人、TVLが$11億を突破 |
2024/1/16 | 事業者向けエアドロップコンペ開始 |
2024/1/25 | Galxeでユーザー向けキャンペーン開始 |
2024/2/13 | 3,000以上の事業者がコンペに参加 |
2024/2/24 | コンペ結果発表(47事業者が選出) |
2024/2/27 | ユーザー数が15万人、TVLが$20億を突破 |
2024/2/29 | メインネットローンチ |
2024/3/5 | メインネットのユーザー数が18万人、TVLが$24億を突破 |
2024/3/6 | ユーザーへ自動でエアドロップを行うAPI公開 |
2024/3/12 | $USDBのAPY上昇 |
2024/3/13 | 創設者であるPacmanがAMA実施 |
2024/3/23 | BLAST GOLDを事業者に配布 Dappsリーダーボード公開 |
2024/3/26 | BLAST POINTブーストプログラム(MULTIPLIERS)開始 |
2024/4/20 | BLAST GOLDを事業者に配布 |
2024/5/4 | BLAST GOLDジャックポット開始 |
2024/5 | エアドロップ実施予定 |
2024年5月にBLASTのネイティブトークンがエアドロップ予定となっていることから、価格に注目が集まります。
類似手法を使った事例
本記事で紹介したBLAST以外にも、トークンマーケティングをうまく活用してTier 1 CEXへ上場しているプロジェクトがあります。
基盤チェーン分野
Defi分野
ゲーム分野
・Heros of Mavia
【Heroes of Mavia】2つの大人気ゲームを組み合わせた注目タイトル|リリース1ヵ月で300万DLを達成した要因とは?
・Fusionist
【Fusionist】高額エアドロップ獲得で注目を集めたロボットバトルのAAAゲーム|GenesisNFTの秀逸ポイントとは?
マーケットプレイス分野
・Blur
また、エアドロップ実施前のTier1 CEXへの上場が期待されるプロジェクトも複数あり、我々は動向を追っています。
まとめ
本記事では多くの事業者が持つ自社トークン価格の上げ方について、BLASTの事例を使って解説しました。
トークン価格を上げるにはTier 1 CEXへの上場が有効ですが、TVL/トランザクション数/コミュニティの各KPIが一定数を超える必要があります。
これらの数字を可能な限り上げるには、エアドロップを活用したトークンマーケティングが有効で、直近勢いのあるプロジェクトの多くが本手法を採用しています。
自社トークン価格を上げたいと考えているのであれば、エアドロップの最新事例を追いかけておくべきと考えます。
本サイトでも、会員様向けにエアドロップを用いたマーケティング事例の定期な記事化を予定しています。
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