
SHRAPNELは、Web3ゲームとしては珍しいFPSゲーム(※)として、また制作陣の経歴の華やかさもあって注目を集めているゲームタイトルです。
まだ開発段階にも関わらず、そのグラフィックには目を見張るものがあり、クオリティには非常に期待が持てるタイトルになっています。
ただ、クオリティが高くなるほど、PCの対応スペックも高くなり、ユーザーはコアなゲーマー層に限られるというマイナスポイントもあります。
限られたユーザー数という課題をクリアすべく、SHRAPNELは独自の経済圏を作り上げ、バトル以外のゲーム体験を豊富に設けています。
多様なゲーム体験を提供することで、ユーザーにより長く経済圏にいてもらうことが目的です。
また、ゲームにプレイヤー、クリエイター、ランドオーナーなど多様な役割を登場させることで、ゲーム経済圏を活発にさせる思惑もありますが、その設計はまだ発展途上の状態です。
一方で、SHRAPNELはα版の公開もまだの状態で、ローンチ時期も未定という点は弱点にもなり得る部分で、十分なファン数を囲い込めているとは言い難い状態です。
FPSのWeb3ゲームが成功するためには何が必要なのか、トークノミクスとマーケティング戦略から考察していきます。
開発者視点での学びPOINT
- FPSゲームなどのAAAゲームでは高クオリティだけでなく、他にも差別化ポイントが必要になる
- 開発に時間がかかる分、その間にユーザーにゲームイメージを持たせてファンになってもらえるかが重要
ユーザー視点での学びPOINT
- FPS系タイトルはコアゲーマーを対象にしており、収益性よりもゲーム体験を重視した設計になりやすい
- その分開発に時間を要するため、開発期間中に旬が過ぎる恐れもある
※FPSゲーム…主人公の1人称視点で、操作する3Dのアクション・シューティングゲーム。
この記事の目次
プロジェクト概要

ゲーム概要
SHRAPNELは、Avalanche ブロックチェーン上に構築された、FPSゲームです。
運営陣は、BAFTAとエミー賞の受賞履歴があるベテランのチームです。
運営のコンセプトは、
「プレイヤーが自分で改造して作ることのできる、競争力のあるマルチプレイヤーFPSを作ること」
ブロックチェーンとNFT技術によって、このビジョンを体現しようとしています。
ゲームの舞台となっているのは2038年の地球。
ストーリーは、
「小惑星が月が衝突したことで、サクリファイス・ゾーンと呼ばれる接近困難地域が地球上に出現。ここで採取される資源を巡って、各国や企業が傭兵部隊(MEF)を結成し、争いを繰り広げる。」
というものです。
プレイヤーは傭兵になり、資源を集めたり、敵を倒して装備を奪取したりします。
ゲーム要素
SHRAPNELでは、戦闘だけでなく、マップやアイテムを作成することで報酬を得たり、これらを宣伝することでも報酬を得ることができるなど、多様なゲーム要素が実装される予定です。
- プレイヤー主催トーナメントモード
ルールや開催期間をプレイヤー自ら決め、開催できるトーナメントモード。主催者と参加者の両方が報酬を獲得できます。 - ミッション
ゲームプレイやコンテンツ作成、マーケットプレイスでの売買に関するミッションをクリアすることで報酬が得られます。 - クリエイション
プレイヤーはマップやアイテムをNFTとしてミントすることができます。
また、マップやアイテムにはSHRAPトークンをステーキングすることができ、ステーキングすることで他プレイヤーの注目を集めやすくなるなど、宣伝の効果があります。 - MEF HEADQUARTERS
プレイヤーが集まる拠点です。他プレイヤーとコミュニケーションを取ったり、スキルを見せたり、プレイヤー生成コンテンツを宣伝することなどができます。
SHRAPNELゲーム内でのユーザーのポジション
SHRAPNELの世界では、ユーザーは以下の4つの役割をとることができます。
これらが相互作用することで、経済圏全体が活発になることを運営は意図しています。
1. プレイヤー
トーナメントやミッションに参加し、ゲーム報酬としてSHRAPを獲得する最も基本的な遊び方です。
トークン獲得方法:PvP勝利報酬・獲得した敵の装備NFT売却
トークン使用用途:装備NFTの購入
2. クリエイター
装備やマップを作成する遊び方です。
トークン獲得方法:装備NFTの売却益・プレイヤーによるマップ利用による報酬
トークン使用用途:素材の購入・装備NFTやマップのミント費用
3. キュレーター
マップやアイテムを宣伝し、他プレイヤーを引き付ける役割を持ちます。
トークン獲得方法:宣伝したマップおよびアイテムが利用されることによる報酬
トークン使用用途:マップやアイテムへのステーキング
4. ランドオーナー
マップの所有者となり、その利用に応じた報酬を受け取ります。
トークン獲得方法:プレイヤーのマップ利用による報酬
トークン使用用途:マップの購入・マップへのステーキング
繰り返しになりますが、SHRAPNELは、「プレイヤーがオリジナルでアイテムやゲームコンテンツを作成し、それを取引、所有することができる対戦型マルチプレイヤーFPS」を目指しています。
そのため、クリエイトの要素が非常に重視され、アイテムやマップのミントに応じて、運営から報酬が得られるシステムになっています(下図参照)。

マップクリエイション時にはクリエイター報酬が、バニティ(アイテム)クリエイション時にはプレミアムマテリアルが付与されます。
また、キュレーターという存在も特徴の1つです。
SHRAPNELでは、マップや装備NFTにトークンをステーキングをすることが可能です。
そして、そのマップや装備のパフォーマンスに応じて報酬額が変動するため、彼らはキュレーター、すなわち「宣伝」を通して自分がステーキングしたマップや装備の人気を上げようとします。
自分がステーキングをしたマップ利用や装備利用が活発になるほど(=宣伝貢献度が大きいほど)、キュレーターとしての報酬が大きくなるインセンティブ設計になっています。
マップについて

SHRAPNELのマップには2種類の土地があります。プロモーション用地である「アリーナ」と競技用地の「ポディウム」です。
SHRAPNELのマップでは、中心にポディウムがあり、その周辺をアリーナが囲む構造になっています。
アリーナは、宣伝用の土地です。マップオーナーやキュレーターがアリーナを宣伝して、新規プレイヤーを呼び込んでいきます。
他のマップよりも多くのプレイヤーを獲得し人気が出れば、マップの中心であるポディウムに近づき、報酬額も多くなる仕組みです(下図参照)。

一方、ポディウムは競技用地としてマップの中心に位置します。マップオーナーの目標は、自分のマップを中心であるポディウムの位置にまで持っていくことです。
ポディウムでは、Jリーグのように定期的に昇格・降格のトーナメントが開催されます。
高パフォーマンスのマップは中央にポディウムとして残り続け、低パフォーマンスのマップは外側に押し出され、アリーナと入れ替えになります。

どのような方法で、ポディウムの入れ替えトーナメントが行われるか、現時点では明らかになっていません。
マップの中ではポディウムが最もトークン報酬が大きくなるため、マップオーナーやキュレーターは、少しでも自分のマップを中心に近づけようとステーキングと宣伝活動を行います。
ロードマップ

- フェーズ1:プラットフォームの形成
- SHRAPトークンのローンチ
- 運営プラットフォームの機能、コミュニティグループ等の形成
- タウンホールの開催
- フェーズ2:アセット・アイテムの実装
- オペレーター名の予約
- ランド・ギア(装備)・資源の実装
- フェーズ3:クリエイターツールと報酬の実装
- バニティツール(装備クリエイト用アイテム)・マップツールの実装
- マーケットプレイスの実装化
- フェーズ4:ゲームプレイ
- 対戦型ゲームトライアル
- アイテム抽出の実装化
- SHRAP報酬の配布
ロードマップ上は、まだフェーズ00の段階であり、コミュニティビルディングがスタートし始めたばかりで、トークンもゲームもまだローンチされていません。
ゲームがローンチされるフェーズ04までにコミュニティや各種アイテムが徐々に整備されていく予定ですが、正式リリース日はまだ未定となっています。
VC・パートナー

上記のように多くのパートナーと協力体制を築いています。
シードラウンドでは、PolychainCapitalと一緒にGriffinGamingPartnersが主導する2021年11月のシードラウンドで1,050万ドル(≒13億円)を調達しています。
この調達額は、同じくFPS系のWeb3ゲームである、Undead Blocks(110万ドル)やMeta Strike(330万ドル・プライベートラウンド)よりも大きく、期待が大きいことがうかがえます。
また、トークンセール時には、エンジェル投資家を含む700万ドル(≒9億円)のトークンセールを完了させています。
ここで調達した資金を背景に、高クオリティのゲーム開発を進めています。
トークン情報
SHRAPはERC-20トークンとして発行される予定ですが、その後Avalancheチェーンに移管される予定です。

- トークン名:SHRAP
- 種類:ガバナンス
- 発行上限:30億枚
- ローンチ時期:未定(フェーズ01予定)
- 獲得方法:
- ゲーム内報酬
- ステーキング
- LAND報酬
- 使用用途:
- DAOおよびサブDAOでの投票機能
- マップ・装備等のミント費用
- マーケットプレイスでのNFT購入

コミュニティ報酬が全体の1/3を占めるなど、他GameFiよりも高い配分です。(一般的には20%程度)
報酬によるインセンティブでユーザーを引き付けようとする運営の狙いが見えますが、これは諸刃の剣と言うこともできます。
この点についてはトークノミクスの章で詳しく考察していきたいと思います。

全体的にロック期間はLGGが調査した平均的な期間よりもやや短めです。
チーム・アドバイザーへのロック期間は30ヵ月(2年半)と、一般的なゲーム(4年)よりはやや短いものの、早期売却できる設計にはなっておらず、ユーザーに不信感を抱かせるレベルではないと言えるでしょう。
ユーザーと運営の収益ポイント
ユーザーの収益ポイント
ユーザーは以下の方法で収益を上げることが可能です。
- PvPトーナメント報酬
トーナメントもプレイヤー自身で作成することが可能です。トーナメント主催者とゲーム参加者の両方が報酬を得られます。 - ミッション
ゲームプレイやコンテンツ作成、マーケットプレイスでの売買に関するミッションをクリアすることで報酬が得られます。 - MEF HEADQUARTERSの所有
拠点を所有し、そこに多くのプレイヤーが参加することで報酬を得られます。 - ステーキング報酬
アイテムやマップにSHRAPトークンをステーキングすることで報酬が得られます。 - キュレーション/プロモーション報酬
プレイヤーが作成した優れたコンテンツの宣伝を行います。ユーザー利用が多いほど、報酬も多くなります。 - コンテンツ作成
MAPやアイテムを作成(クラフト)し、マーケットプレイスで売却することで報酬が得られます。 - LANDの所有
LANDはMAPを置く場所です。MAPに土地を貸すことでMAPの利用状況に応じて報酬が得られます。
運営の収益ポイント
ホワイトペーパーに公開されている情報によれば、運営の収益ポイントは下記2点です。
- マーケットの売買手数料
- マップや装備のMint手数料
トークノミクス分析
トークノミクス図解とインフレ・デフレ要素

上記で示しているトークンのインフレ要素とデフレ要素は下記の通りです。
- 【インフレ要素】
- プレイヤーへのトーナメント/ミッション報酬
- プレイヤーの装備NFT売却
- クリエイター/キュレーターへの報酬
- ランドオーナーへの利用報酬
- 【デフレ要素】
- プレイヤーの装備NFT購入
- クリエイターのMint費用
- ギアロスト(NFT喪失)
- キュレーター/ランドオーナーによるステーキング
SHRAPNEL経済圏は、プレイヤー・クリエイターによるバトルを中心とした経済圏と、マップオーナー・キュレーターが関わるマップを中心とした経済圏の二軸があります。
バトルでは、プレイヤーは装備NFTの購入・売却を行い、バトルに参戦します。
バトルに勝利することで、対戦相手から資源や装備NFTを奪うことが可能ですが、裏を返せば、敗北すると装備NFTが相手に奪われる仕組みでもあります(ギアロスト)。
マップの方ではユーザーがマップを購入およびステーキングをすることで、報酬が得られる仕組みです。
バトル・マップそれぞれで、供給と消費の設計を作り上げており、トークンの需給バランスを調整しようとしています。
トークノミクスとしては、ユーザーの役割が4つに分かれていることが大きな特徴です。
特に、SHRAPNEL特有の役割がキュレーターの存在で、「トークンの流動性を上げる」役割を果たしています。
マップや装備の宣伝を活発に行って人気を高めようと、キュレーターがステーキングを行うほど、トークンの流動性が高まることになります。
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