
【注意事項】
本レポートは2022年5月5日時点の公開情報から作成したものです。アップデートにより、最新の情報とは異なる場合があることをあらかじめご了承ください。
Speed Starは競馬場経営にトークノミクスを導入した競走馬の育成ゲームです。
馬主、プレイヤー、オーナー、ギャンブラーの4つの立場で、トークンを稼ぐことができます。
ゲームの設計やホワイトペーパーの作り込みの濃度から、前評判や期待値の高いプロジェクトでしたが、新規のユーザー獲得がうまくいかないまま、トークン価格が上場日から急落しています。
前評判の高いゲームであったにもかかわらず、現時点で流行っていないのは、Web3ゲームの肝である「トークノミクス設計」と「マーケティング施策」が弱かったことが大きな原因です。
特に、トークンの消費設計が全て実装されてない状態で、ブリード機能をリリースしてしまったのが最大の要因だと考えられます。
開発者視点での学びPOINT
・十分な消費設計が実装されていない中で、ブリードなどの供給量を増やす機能をリリースしてはいけない
・ユーザーに高収益をもたらす仕組みを実装する場合は、投機家の売り圧を調整するマーケティング戦略が求められる
ユーザー視点での学びPOINT
・マーケティングのための予算を持っているかを見る
・ホワイトペーパーはあくまで設計図にすぎず、実際にどこまで開発されてるのか?が大事
ユーザー視点での学びPOINT
・マーケティングのための予算を持っているかを見る
・ホワイトペーパーはあくまで設計図にすぎず、実際にどこまで開発されているのか?が大事
プロジェクト概要
Speed Starは2022年、タイのHELL FACTORYという会社によって開発された、競馬シミュレーションのWeb3ゲームです。
これまでの「Play To Earn」ではなく、「Work To Earn(ゲーム内で働いて稼ぐ)」というコンセプトを導入しており、馬を走らせるだけでなく、馬のブリーディングやトレーナー、レースへのギャンブルなど、様々な稼ぎ方があります。
これまでの競馬系GameFiは、基本的には馬NFTを購入する必要がありましたが、Speed StarはNFTを購入しなくても収益化することが可能な設計になっています。
運営側から見ると、ゲーム内の手数料収入だけでなく、競馬場の広告収入やレースへのギャンブル機能によって外貨を稼ごうとする設計を整えています。
また、トリプルトークンシステムを採用している珍しいゲームでもあり、遊び方によって得られるトークンが異なります。
ロードマップ
- ブリード:2022年4月開始
- レース:2022年4月開始
- ワイルドホースラン(探索):2022年6月開始
- トレーニング: 2022年9月開始
- 牧場構築:22.Q2実装予定
- レースコース場:22.Q3実装予定
- ゲーム内ベット:22.Q3実装予定
- トーナメント:22.Q3実装予定
- モバイル版アプリ:22.Q3実装予定
トークン情報
$STAR

- トークン名:STAR
- 発行上限:3千万枚
- 循環サプライ:-
- 時価総額:-
- 価格: $0.26(38円)9/18時点
- 時点
- セール価格: –
- 上場価格: $2.6
- 上場取引所:
- DEX・・・sushiswap
- CEX・・・未上場
- 種類:ガバナンス
- 獲得方法:レース報酬(馬主)
- 使用用途:
- 牧場開発
- 区画購入
- 馬ステーキング上限解放
- トークンシンボル
ユーザーと運営の収益ポイント
プレイヤーが取れる4つのポジション
「Speed Star」には、馬主・オーナー(競馬場・牧場)・プレイヤー・ギャンブラーの4つの立場があります。
それぞれの稼ぎ方は以下の通りです。
・馬主($STAR,$SPEED)
レースでの勝利報酬、馬のブリーディングや売買、ステーキングによる収益を得ます。
・プレイヤー($JOG,$SPEED)
ブリーダー・ジョッキー・トレーナー・セラピストの4種からひとつを選び、馬主の勝利をサポートすることで報酬を得ます。
・オーナー($SPEEDなど)
牧場オーナーは、牧場の人気を集めて、ステーキング報酬を高めて稼ぎます。
競馬場オーナーのレース参加費や、広告費、賭けの手数料などで稼ぎます。
・ギャンブラー($SPEED)
現実の競馬のように、レースの結果に賭けて、配当を得ます。
※プレイヤーは馬主から依頼をうけることで$SPEEDを受け取ります。馬主が、オーナーやプレイヤーを兼任することも可能です。(「賭け」についてはまだ詳細が出ていません)
また、馬主の稼ぎ方は次の3種類あります。
1. 牧場(Ranching)に馬や施設をステーキングして稼ぐ。
2. ブリードで仔馬(Colt)を生み出し、出馬させたり売ったりする。
3. トレーニングで馬を強くし、レースやグランプリによる賞金や探索によって収益を得る。
ブリードの手順
牡馬の場合は、$SPEEDを消費し、シードポーション(ブリードの種)を作成します。
牝馬の場合は、シードポーションを自己所有の牝馬から作成するか購入し、併せて$SPEEDを消費し、仔馬を獲得します。
ワイルドホースラン
$SPEEDを支払い、馬を一定期間ロックし、マテリアルトークンや野生の馬を手入れします。
マテリアルトークンは、施設設計図とともに、牧場に新しい施設を建設するために使用されます。
ブリーダー、ジョッキーなどの職業
プレイヤーはエナジーを消費し、それぞれの職業の仕事を請け負います。
それによって、経験値を得て職業レベル(Mastery Rank)を上げることで、仕事の成功や報酬を上げていきます。
また、稼いだ$JOCトークンを使い、エナジーを回復したりして、さらに報酬獲得効率を上げていきます。
トークノミクス分析
「Speed Star」には、前述の通りトークンが3つ存在し、それぞれの使い道は以下のようになっています。
$STAR
・馬のステーキング数増加
・牧場の区画増加
・ブリード(かなり少量)
$SPEED
・ブリードコスト
・牧場の開発、拡張
・馬主が労働者へ払う給料
・レースで馬に賭ける資金
$JOC
・エナジー回復
・アイテム購入
・プレイヤー能力向上
Work to Earnの概要
「Speed Star」は、スカラーシップを導入する代わりに、「Work to Earn」という形で、Free to Playを実現させる仕組みが設計されています。
馬主(牧場主)として馬や牧場を購入しなくても、4種の職種のいずれかで「働く」ことで、馬主から $SPEED、ゲームから$JOCを得ることができます。
回数をこなし、経験値を得ることでランクが上がり、より高い報酬を提示することが可能です。
一方で馬主(牧場主)からすると、馬の繁殖のためにブリーダーを、レースで勝つためにジョッキーを、馬を育てるためにトレーナーを、馬を回復させるためにセラピストを「雇う」必要があり、このための「費用」がトークン経済の根幹を担っています。
$STARの収益を狙って馬主が馬を強くするための投資をしていくことによって、全ての経済圏が動き出します。
つまり、$STARの価格がどんどん上がっていくことが、経済圏の肝となります。
しかし、$STARは、ユーザに$STAR保有の大きなメリットを提示できているとは言えない状態であり、需要の少なさからも価格が右肩下がりで落ちてきています。
トークノミクスの考察
$STAR下落の影響
$STARは、後述の「StarVerse」経済圏の基軸通貨となることが構想されており、「Speed Star」以外での使い道も増えてくる予定です。
しかし、実装にはかなりの時間がかかるため、当分$STARの価格が上がっていく要素は見つかりません。
$STARが稼げないとなれば、レースをする動機も失われ、人を雇う理由もなくなるため、馬のフロア価格も、$SPEED・$JOCの価格も下がっていきます。
$JOCは元手の少ないプレーヤーでも参加できるように用意されたトークンです。しかし、$SPEED・$JOCの価格が上がっていかないなら、「Speed Star」の経済圏で働きたい人が増えません。
資本力のあるユーザーは馬主やオーナーとして、資本力の少ないユーザーはプレイヤーとして活躍させるために、トリプルトークンを用意したと考えられますが、現状はトークンが3つである必然性は感じられません。
経済圏失速の要因
Speed Starは、4/6からブリードが開始され、一時期は高い収益性が話題となりましたが、4/10からフロア価格が下がり始め、それに合わせてトークン価格もどんどん下がっていきました。
- $STAR:$2.6(上場時点)→ $0.84(5/5時点)
- $SPEED:$0.018(上場時点)→ $0.00530(5/5時点)
- $JOC:$0.049(上場時点)→ $0.0136(5/5時点)
事前の期待値にも関わらず、これまで経済圏が失速してしまった大きな理由は
①新規参入者がNFTを買わなかった
②トークン経済圏に消費設計が欠けていた
の2点が考えられます。
まず①について、GameFiの経済圏の立ち上がりには、Mintによって新規ユーザーを上手に促すことが欠かせません。せっかくMintによってNFTを生み出しても、新規ユーザーがNFTを買わなければ利益にはなりません。
ところがSpeedStarには新規ユーザーがついてきませんでした。これには「ブリード開始と同時に、トークン消費を促せられず、新規獲得ができなかった」ことが影響しています。
そしてそれは②の「消費設計」が大きく関係しています。
消費(Burn)設計が伴わないスカラーシップは経済圏を縮小させる
Axie InfinityやPegaxyは、トークンの消費量(=需要)と、獲得量(=供給)のバランスが、供給の方に偏り経済圏が縮小してしまいました。
これには「スカラーシップ」の問題があります。スカラーシップは、新規ユーザーがNFTを購入しなくてもゲームができる画期的な仕組みであり、ユーザーの爆発的な増加を促します。
しかし、それは同時に「NFTを買わなくてもトークンを稼げる」ことを意味します。
そのため大量のNFTをギルドが購入し、それでスカラーシップを回してしまうと、トークンへの需要が増えないまま、供給だけが増えていくことになります。すると需要よりも供給が多くなり、自ずとトークンの価値は下がっていくことになります。
トークンの価値が下がれば、ブリードをする動機が弱まり、稼ぎたい新規ユーザーも入って来なくなるため、NFTを売ってしまう、トークンを利確してしまうオーナーが増えて売り圧が高まり、マイナスのスパイラルに入っていくことになります。
Speed Starはローンチ時点で、消費設計を実装していなかった
この前提に立って、「Speed Star」の経済圏をみてみると、「ユーザーがトークンを消費する動機の弱さ」が見えてきます。
馬主は牧場を経営するために、$STARを使って牧場区画を増加させ設備投資を行い、馬をレースで勝たせていくことで、牧場の人気度(Popularity)をあげて人を呼び込み、1日に稼げる$SPEED効率を高められる仕組みになっています。
- $STARは発行上限が3,000万枚とかなり限定されており
- ゲーム内でも、レースとトーナメントでのみ獲得可能で
- 上記のような機能を持つことから、どんどん価値が高まっていき
- この$STARを獲得するために、馬主はユーティリティートークンを$SPEEDをたくさん消費する
というのが運営の狙いだと考えられます。
このロジック通りに行くなら、 $STARや$SPEEDの価値は上がっていきますが、問題はこれらのユースケースがゲームローンチ時にほとんど実装されていなかったことです。
これにより経済圏の中で「消費」のサイクルが回らず、プレイヤーが稼ぐ$SPEEDや$JOCの価格が上げられず、新規ユーザーが参入してこない状態になってしまいました。
マーケティング、顧客獲得施策
Speed Starが当初の想定より上手くいっていないのは、トークノミクスの設計に加え、「マーケティング力の弱さ」も原因の一つとして挙げられます。
特に以下の2点が新規ユーザー獲得のための大きな障壁となっていることが考えられます。
- Harmonyチェーンは、ブリッジが必要で使いにくいこと
- 有名なゲームギルドやVCなどと提携していないため、世界的な知名度が低いこと
Harmony チェーンは、ブリッジが必要で使いにくいこと
多くのWeb3ゲームは、ETH(イーサリアム)やPolygon(ポリゴン)、Solana(ソラナ)上で作られていますが、Speed Starは「Harmonyチェーン」上で作られているWeb3ゲームであるという、大きな特徴があります。
Harmonyチェーンとは、ETHやDOT(ポルカドット)と同じように、DeFiやDAppsを提供するための基盤となることを目指す「レイヤー1」に属しており、複数の優良企業や仮想通貨取引所と提携しています。
また、DAOによって開発を進めているので、今後の動向にも注目が集まっているブロックチェーンなのですが、現時点では、Harmonyチェーンのネイティブトークンである「ONE」は日本国内取引所では取引できません。
そのため、Speed Starを始めるには以下の手順を踏む必要があります。
1. 国内取引所でBTCなどの仮想通貨を取引する
2. 国内取引所から仮想通貨を海外取引所に送金し、ONEを取引する
3. ONEをMetaMaskなどの仮想通貨ウォレットに送金する
4. ToFu NFTで馬の取引をする
このようにゲームを始めるにあたり、複数回ブリッジを行わなければならず、ゲーム初心者にとっては、なかなかゲームを開始するのに腰が重くなるような作業があります。
このブリッジの手間は、ゲーム初心者だけでなく、Web3ゲームに慣れているユーザーにとっても面倒な作業であるため、これまでのAMAでも何度も「いつからマルチチェーンになるのか?」といった質問が投げられています。
今後Speed Starの存在を知ったユーザーに、実際にゲームをやってみよう!と思わせるためには、このブリッジの手間を少しでも減らす必要があります。
他のWeb3ゲームでも使われているような、ガス代の低いPolygonやSolanaなどのチェーンに対応することができれば、ゲーム開始時のユーザーの心理的負担は減ることが予想されます。
有名なゲームギルドやVCなどと提携していないため、世界的な知名度が低いこと
ゲームユーザー数を増やすために、まずそのゲームの認知度を上げる必要があります。
一般的に認知度を上げるには、以下のような施策を行うことが多いです。
- Giveawayを積極的に行う
- インフルエンサーマーケティングを行う
ところが、Speed StarではGiveaway企画やインフルエンサーマーケティングをほとんど行なってきませんでした。
その結果、今日までユーザー数は増えず、DiscordやTwitterも盛り上がらぬままで、有名なゲームギルドやVCと提携するといった話も出ていません。
また、今回調査を行うなかでコミュニティが盛り上がらない理由の一つに、運営側の対応にも問題があるように感じました。
ゲームマーケティングに関するレポート(ユーザーペルソナから見るWeb3ゲームマーケティング虎の巻)では、Web3ゲームにおける、ユーザーからの評価を受けるポイントを下記のように分析しています。
★Web3ゲームでユーザーから評価を受けるポイント
・ロードマップ通りに、着実に開発が進んでいるか?
・ホワイトペーパーは、持続可能性を意識して作られているか?
・運営の発信内容が一貫しているか?有言実行しているか?
・運営スタッフのバックグラウンドは、Web3ゲーム開発に適しているか?
・コミュニティに対して誠実に対応しているか?
・ユーザーと運営の距離が近く、積極的に交流が生まれているか?など
誠実さやユーザーと運営の積極的な交流等が、ユーザーからの評価ポイントになるわけですが、Speed StarのDiscord内では実際にこのようなやりとりがありました。
ユーザーに対して、事前にアナウンスのないままWPが変更されたことに対して、こちらのユーザーは、
「WPの変更は運営側だけに関わることではなく、ユーザーにも重大な影響を及ぼすことであるため、必ずWPの内容を変更する際は事前にアナウンスをしてほしい」
と強くコメントしているにも関わらず、運営側からの回答は下記のようなものでした。
「アドバイスをありがとうございます。今後WPの変更があるときは、毎回どこが変更するのか明確にお知らせします」
早期段階からゲームに参入してくるようなユーザーはWPの内容をみて、稼げるのかどうかを判断してゲームに参入してくる人が多いです。
そこで判断軸となっているWPの変更を告知なしで行う、という行為はユーザーからの信用を失うことにつながるでしょう。
このようなことがあった場合、丁寧なフォローが必要になってくるかと思いますが、上記回答内容からは、運営側の真摯さを感じることはできませんでした。
また、Speed StarのDiscordには、国別のチャンネルもあるのですが、日本人ユーザーが英語で質問していても、「DM Please」と返信がきており、ファンコミュニティ形成の場となるべき、Discordがクローズドな場になってしまっています。
早期段階での認知度を広めるマーケティングが不足しており、ユーザーの囲い込みが失敗している状態で、ファン形成も上手くいっていないため、今後もゲームギルドやVCからの支援は考えにくいでしょう。
再度ファンコミュニティ形成の見直しや認知度を広める施策を行い、資金調達をしていかなければ、Speed Starはさらに厳しい状況になることが予想されます。
今回の調査のまとめ
「Speed Star」は、ゲームの設計やホワイトペーパーの作り込みの濃度から、期待値は高いプロジェクトでした。
しかし、新規のユーザー獲得がうまくいかないまま、トークンの価格は上場日から急落しています。
この原因は、トークンの消費モデルを実装しきれないまま、ゲームをローンチしてしまったことにあります。
それによって、ブリードによる収益性だけが先行してしまい、新規の流入がないまま(=NFT購入の需要が増えないまま)、馬NFTばかりが市場ににあふれてしまいました。
結果的に、あっという間に経済圏が縮小してしまいました。
加えて、外部パートナーを入れることなく、ゲーム開発のみを進めているため、マーケティングの推進力にかけています。
これでは、ゲームユーザーが積極的に参加したいと思えず、経済圏も拡大していきません。
SpeedStarの事例から、開発者視点で学べること、ユーザー視点で学べることは以下の通りです。
開発者視点での学びPOINT
・十分な消費設計が実装されていない中で、ブリードなどの供給量を増やす機能をリリースしてはいけない
・ユーザーに高収益をもたらす仕組みを実装する場合は、投機家の売り圧を調整するマーケティング戦略が求められる
ユーザー視点での学びPOINT
・マーケティングのための十分な予算を持っているかを見る
・ホワイトペーパーはあくまで設計図にすぎず、実際にどこまで開発されてるのか?が大事
今回、改めてWeb3ゲームの成功には、ゲームとしての面白さだけでなく、マーケティングやコミュニティ形成など、さまざまな要素が絡んでくることがわかりました。
本文内に添付した「ユーザーペルソナから見るWeb3ゲームマーケティング虎の巻」では、Web3ゲームにおけるマーケティングについて、さらに深掘りしているので、興味のある方はこちらも確認してみてください。
One thought on “「Speed Star」トリプルトークンのWeb3ゲームに何が起きたのか?”
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