
Star Atlasはそのグラフィックの精巧さ、世界観が注目を集めているWeb3ゲームです。
映画のような世界観によって、非常に多くのユーザーを引き付けていますが、Star Atlasが目指しているのは単なる高品質のゲームではありません。
運営陣は、次のようなメッセージを発しています。
私たちは、基本的にSandboxを作っているのです。
そして、そのSandboxの最初のアトラクションがゲームです。
ーSolanaとのAMA(2021/3/16開催)での運営の発言-
Star Atlasが目指しているのは、メタバース開発であり、ゲーム要素はその一部にすぎません。
そのメタバース開発のために、現実世界と同じような経済圏、ガバナンスシステムを構築しようとしています。
完成すれば映画の『レディ・プレイヤー1』のような世界が現実のものになるでしょう。
非常に複雑かつ高品質のプロダクトを構築しようとしているため、その分開発スケジュールは間延びしており、ゲームローンチまでユーザーの興味関心を引き続けられるかは課題でもあります。
Star Atlasが作り出そうとしている世界と、そのユーザーを引き付ける工夫について、考察していきたいと思います。
開発者視点での学びPOINT
・DAOによるゲーム内運営とはどのような形で行われるのか
・開発期間が長いゲームの場合、ファンを飽きさせないマーケティング戦略が必要になる
ユーザー視点での学びPOINT
・Star Atlasは単なるSFアクションBCGにあらず、もう1つの”世界”を作ろうとしている
目次
プロジェクト概要

ゲーム概要
Star Atlasは、Solanaチェーン上で開発されているSFアクションRPGです。
Unreal Engine 5を導入し、映画のような映像グラフィックなど、クオリティの高さが多くのユーザーを引き付けています。
Star Atlasが目指そうとしているのは以下のような世界観です。
・現実世界とNFTを組み合わせたスペースファンタジーRPG
・政治、交易、領土など複雑な要素が絡み合う大戦略ゲーム
・24時間365日、プレイヤーがリアルタイムで集まりプレイができるメタバース空間
・Unreal Engine5による映画並みのグラフィックと、VRで体験できる完全没入型の3D世界
ゲームストーリーとしては、今から600年後の2620年の世界(メタバース空間)でチームを組成し、宇宙空間で資源を探索したり、戦闘を行いながら宇宙開発競争を進めていく、というものです。
プレイヤーはまず、人類(MUDテリトリー)、異星人(ONIリージョン)、アンドロイド(USTURセクター)の3つのいずれかの派閥を選び、土地や資源を巡って残り2つの派閥と競い合います。
トレイラーPVでも派手な戦闘シーンや宇宙船などに目を奪われるため、一見すると単なるSFアクションゲームに見えます。
しかし、実際にはそれ以外にも多様な活動がゲームで可能になる予定です。
その一部を以下に列挙します。
- 資源の採掘(マイニング)とそれに伴う技術開発
- 宇宙船の操縦
- 土地や建物の開発(デベロップメント)
- スポーツ活動
宇宙船はもちろん、資源、土地、建物などあらゆるゲーム内アイテムがNFT化され、プレイヤーは所有権を得ることで、現実世界と同じような活動を可能にしています。
プレイヤーはこれらの活動を通して、最終的には巨大な銀河系帝国を作り上げることを目指します。
2021年12月開始のミニゲームについて

Star Atlasは、2021年12月ミニゲーム”SCORE”をリリースさせました。
ゲームと銘打っていますが、中身はNFTのステーキングで、宇宙船NFTをステーキングすることで$ATLASが獲得できる、というものです。
ステーキングする際に、宇宙船だけでなく、燃料や食料も購入する必要があります。
また、ステーキング中も定期的な修理や資源の補給が必要など、NFTステーキングに多少の性を持たせたものになっています。
ロードマップ



上記のロードマップをまとめたものが以下です。
【フェーズ1:GAO】
・ゲームアセットのユーザー間売買が可能
【フェーズ2:ミニゲーム】
・NFTステーキングによる報酬受領
【フェーズ3:造船所モジュール販売】
・多様なゲームアセットが購入可能に(クルー、部品など)
【フェーズ4:β版での最終プレセール】
・β版ローンチ直前に行われるゲームアセットの先行販売
【フェーズ5:NFTの継続販売・サルベージウォーズ】
・サルベージ・・・ゲームアセットが詰まれたコンテナの競売ゲーム
Star Atlasのロードマップには具体的な時期が書かれておらず、いつ何が出されるか、ロードマップからは読み取ることができません。
今はフェーズ2からフェーズ3に移行しつつある段階で、9月30日には「プレαショールーム」というデモ版ゲームが公開され、よりリアルなゲーム体験ができるようになりました。
このリリースに合わせて、フルバージョンは、2022年第4Qにローンチさせることも併せて発表されました。
ただ、2021年3月に行われた最初期のAMAではプレα版のローンチを2022年の第1Q末~第2Q初頭と述べていることから開発スケジュールはやや遅れていると言えます。
VC投資家
- Sino Global Capital
- Republic Crypto
- Animoca Brands
- LD Capital
- YGG
- Mechanism Capital
- Spark Digital Capital

Animoca BrandsやYGGなどとも提携しています。
資金調達に関しては2021年1月にシードラウンドを実施するなど、VCからの資金調達も行いつつ、NFTの先行販売でも資金調達をしています。
実際、Animoca Brandsは2021年12月に約3億円分のNFTを、YGGは2021年10月に約1億1,000万円分のNFTを購入しています。
Animoca Brandsは、Star AtlasNFTやメタバースと投資先の他ゲームとの相乗効果に期待して、YGGはStar Atlasメタバース内の色んなゲーム領域に自コミュニティが参加することを期待して、NFTを購入するに至っています。
2021年はGameFiが盛り上がり始めていた、という時流もありますが、Star Atlasの壮大なメタバース構想は、VCにとっても大いに可能性を感じる部分であったと思われます。
トークン情報
$ATLAS

$ATLASは2021年9月初めにトークンリリースされ、2021年10月~11月にかけて急上昇しました。
この時期は、トレーラーPVが初公開されたり、ミニゲームがローンチされるなど、新情報が次々と発表されていた時と重なり、ゲームへの期待感が高まっていたことから一時的に価格が高騰しました。
(後述のマーケティング・イベント年表もご参照ください。)
しかし、その後は、
- ゲームの正式リリースがまだのため、恒常的なトークン消費を生み出せていないこと
- 2021年11月以降、新情報のリリースが乏しいこと
- 世界的な暗号資産の不況
などを要因として下落が続いています。
$ATLASのアロケーションとべスティング


デュアルトークン制を採用しているStar Atlasですが、ユーティリティトークン$ATLASも発行上限が定められている点が特徴的です。
ユーティリティトークンのため、ゲーム内報酬がアロケーションの中心となり、65%を占めています。
残りについては、主にトークンセールで販売され、市場に供給されています。
$POLIS

トークン価格は$ATLASと同様の傾向が見られます。
$POLISは、ゲーム内でのガバナンス機能も持っている点が特徴的です。
通常、GameFiのガバナンストークンは、現実世界のガバナンス(ゲーム運営方針の決定やルール改定など)に利用されるのみです。
Star Atlasは現実世界でのガバナンス機能に加え、ゲーム内メタバースにおけるルール決定などにも$POLISの所有量が大きく関係しています。
Star Atlasがゲーム内ギルドもDAO的に運用しているためなのですが、この点については、トークノミクスの章で詳しく解説いたします。
$POLISのアロケーションとべスティング


ゲーム報酬に40%の割り当てがされており、他GameFiと比べても高い割合です。
インフレを防ぐために、べスティング期間は416ヵ月(8年)設けられており、時間をかけて排出する仕組みになっています。
ユーザーと運営の収益ポイント
ユーザーの収益ポイント
①PvP・PvE報酬
②NFTの販売
③ステーキング
④LAND関連の報酬
①PvP・PvE報酬
いわゆるゲーム内報酬です。ユーザーはPvPバトルやPvE(探索活動)によって$ATLASを得ることが可能です。
②NFT販売
宇宙船から土地、資源、装備、建物などStar Atlasゲーム内のあらゆるアセットがNFT化されており、売買が可能です。
探索活動で獲得した資源を売却することも可能な他、外部で作成したNFTアートなどもStar Atlasメタバース内で売買が可能になる予定です。
③ステーキング
DeFi機能の一部として現在、$POLISのステーキングが実装されています。
また、「ミニゲーム」という名称で、NFTのステーキングは既に実装化されています。
④LAND関連の報酬
ユーザーはLANDを所有することで、そのLAND上で活動する他ユーザーから税金を徴収するなど、収益を得ることが可能です。
LANDが果たす役割についてはトークノミクスの章で詳細を説明します。
トークノミクスの考察・分析
ゲームシステム全体像およびトークノミクス全体像
トークノミクスの解説に入る前準備として、Star Atlasに登場するトークン・NFTとゲームシステムを見ていきましょう。
登場するトークンおよびNFTは以下のようになります。

そして、ゲームシステムを要約したものが下図です。

Star Atlasのゲーム要素は大きく3つに分けられます。
原材料の採掘・精製などを行う「生産」、その生産物をもとにバトル・探検を行う「操縦」、これらを支える「メカニック」です。
それぞれの要素がトークノミクスで果たす役割は以下のようになります。
【生産】のトークノミクス機能
・マイニング・NFT生産・・・NFTのインフレ機能
・精製や生産活動によるトークン使用・・・トークンのバーン(デフレ)機能
【操縦】のトークノミクス機能
・バトルでの船の大破・・・NFTのバーン(デフレ)機能
・報酬獲得・・・トークン・NFTのインフレ機能
・バトル・探索での原材料(燃料・食料など)消費・・・NFTのデフレ機能
【メカニック】の機能
・メタバースの魅力化・・・経済圏全体の活性化

【$ATLASのインフレポイント】
・ゲーム内報酬付与(バトル、ミッションなど)
・ステーキング報酬
【$ATLASのデフレポイント】
・NFT購入
・資材・資源購入
・船の修理
・税金要素(LAND保有者に対する土地税など)
・資源採掘時の費用
複雑なゲーム設計のStar Atlasを図解したものが上図です。
特徴的な点は、船や原料購入などのゲーム内課金で消費された$ATLASが「再循環ファンド(英語名:Recirculation Fund)」を通して、一定割合が再びPlay To Earn報酬に回る点です。
その割合については、ゲーム内DAOによって決定されますが、言い換えると、ユーザーに決定権がある、と言うことができるシステムです。
さらには、$ATLASの新規発行量、バーン量などもDAOによって決定されるため、通貨供給量の決定権そのものをユーザーが握っている状態になります。
現実世界で例えるなら、日本円の発行量やインフレ目標を、日銀ではなく国民投票によって決めるような感覚です。
ただ、ゲーム内とはいえ、経済的な意思決定をユーザー全体で行うことが可能なのでしょうか。
この点については、「DAO運営がうまくいくか?」の章にて考察していきます。