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【STEPN特集①】経済圏崩壊を予告する各指標の動きと考察

STEPN特集は、LGGが毎週発行していたSTEPN定期レポートの中で、特に閲覧数が多かった、Binance realm崩壊前後のレポートを、そのまま記事化したものです。

BCG界隈の多くの方から、「参考になる」との反響を頂いたため、無料記事として公開いたしました。

STEPN特集は3つの記事で構成されており、No.順に読んでいただくことで、STEPNのBinance realmが崩壊する前後で何が起こっていたのか、なぜLGGがBinance realmの崩壊を予測することができたのかを、ご理解いただけるようになっています。

No.1となる本記事の内容は、bGST価格が高騰する直前(5/11~5/17)であり、かつ、USTのペックが外れたことで仮想通貨市場全体が混乱していた時期のものです。

※本記事の末尾にて、PDF版のレポートをダウンロードいただけます。

本記事を読むことで、仮想通貨市場が混乱する中、LGGがSTEPN経済圏のどこに注目し、どように評価していたのかをご理解いただけます。

各種KPIの推移

〈SOLチェーン〉

各種KPIの推移② (5/10~5/17) 〈SOLチェーン〉

〈BNBチェーン〉

各種KPIの推移③ (5/10~5/17) 〈BNBチェーン〉
各種KPIの推移④ (5/10~5/17) 〈BNBチェーン〉
2. 各種KPIの推移④ (5/3~5/10) 〈BNBチェーン〉

5/12以降の仮想通貨市場全体について

USTのペッグが外れたことに端を発する仮想通貨市場全体の混乱は今週も続きました。

震源となったUSTは、5月12日に多少持ち直したかに見えましたが、その後さらに下落が進み、17日時点で$0.12(通常は1UST=$1)になっています。

USTの直近1週間のチャート
↑USTの直近1週間のチャート:CoinMarketCap

USTを米ドルと連動させるための準備金であるLUNAも、価格下落に歯止めがかからず、17日時点で$0.0001と1週間前に比べて99.9%下落という記録的な暴落になっています。

LUNAの直近1週間のチャート
↑LUNAの直近1週間のチャート:CoinMarketCap

時価総額ランキングで上位10傑に入るLUNAの暴落は仮想通貨市場全体を覆いました。BTCも5月12日に$26,000付近まで下落し、2020年12月以来となる安値となりました。

5月12日、BinanceがLunaのほぼ全ての現物取引ペアを停止し、LUNAを事実上の上場廃止としました。これによって、13日以降BTCを始めとした仮想通貨に価格の下げ止まりが見られ、反発しています。

暴落前の状態にはまだ戻っていないものの、仮想通貨全体やSTEPNの相場は、5月16日時点では回復基調にあると言えます。一方で、震源となったUSTやLunaの回復を見込むことは難しい状況になっています。

STEPN経済圏の回復:全体概要

▼5/12~5/17のSTEPN経済圏の動き

STEPNも仮想通貨全体の急落の影響を受けました。USTのペッグが外れる直前には世界的な株安も発生しており、9日からSOL・GST・GMTともに下降しました。

SOL・GST・GMT価格推移

12日には、直近1ヵ月(4/18~5/17)でのそれぞれの最安値を記録しました。

SOL;$38.05(4,911円)(5月12日16時19分時点)
GST:$1.97(255円)(5月12日16時23分時点)
GMT:$0.86(111円)(5月12日16時17分時点)

ただ、12日を底値に現在は回復傾向にあり、「現状は」持ちこたえたと言える状態にあると言えます。

5月14日の公式AMAでも運営は「LUNAの影響は限定的」と述べていますが、これは何もSTEPN経済圏だけに限ったことではありません。

時価総額の大きい、$APEや$MANA・$SANDなどの他のGameFi関連銘柄も同様に、12日を境に持ち直しています。このことからも、STEPN経済圏の回復には、市場全体のパニックが沈静化したことが大きく関係していると言えます。

GameFi銘柄の値動き
GameFi銘柄の値動き:CoinMarketCap

STEPN経済圏の回復

外部要因の落ち着き

今回、STEPN経済圏から抜けた(靴を売却した・GST/GMTを利確した)ユーザーも多かったはずですが、それ以上に新規ユーザーの流入しSTEPN経済圏が回復した背景には、外部経済が落ち着いたことが大きく関係しています。

USTの暴落は、最大のステーブルコインでもあるUSDTにも飛び火をし(※)、一時期$0.95まで下がっていました。

USDTの値動き
USDTの値動き:CoinMarketCap
※同じくドルを裏付け資産として保有しているUSDCやBUSDのステーブルコインは無事で、USDTだけ下がったのは、裏付け資産のうち現金の占める割合が、他の2銘柄よりも少なかったからではないかと考えられています。

・USDC・BUSD:現金と米国債に100%
・USDT:現金と米国債に85%


なお、USDTは過去に本当に裏付け資産があるのかを疑われていましたが、現在は監査が行われ、米政府によって規制されています。

この動きにより、「ステーブルコインそのものへの信用度」に疑惑が起き、仮想通貨市場は一気に冷え込むかと思われました。しかし12日同日に

・USTを運営するテラフォーム・ラブズが、テラ・ブロックチェーンを一時停止
・BinanceがLUNAの事実上の上場廃止を決定
・USDTが準備金から30億ドルを引き出し、ドルペッグを取り戻す

などが行われたことで、混乱していた市場が沈静化しました。STEPNのSOL・GST・GMTの価格が12日を境に持ち直したのは、これらの外部環境の影響が非常に大きかったと言えます。

逆に、ここが沈静化しなかったら下落は止まらなかったかもしれません。

新規の流入が止まらなかった

STEPNが予想よりも早く回復基調に戻った背景には、前述の外部環境が悪化しながらも新規ユーザーの流入が止まらなかったという点が挙げられます。

GSTやSOLの価格下落は既存ユーザーにとって、収益や資産価値が減るためマイナス要因です。一方で、靴が高くて参入できなかった新規ユーザーにとっては、ドル建ての靴価格が下がるためポジティブな要因となります。

ベンチマーク靴販売数とフロア価格の推移

また、5月12日時点で最安だったGST価格(1GST=253円)でも約36,000円/月(※5GST/日稼ぐと想定)ほど稼げ、靴のフロア価格が6万円弱だったことを鑑みると、新規ユーザーが入ってくるインセンティブは十分にあったものと想定できます。

事実、5月14日のAMAでも運営から「市場は混乱しているが、ユーザー数は健全に伸びている」という発言がありました。GSTホルダーの増加数についても、5月1日から5月9日までの1日あたりの平均増加数は8,446に対し、5月10日から5日間の平均増加数は10,375と遜色ない数値になっています。

GSTホルダー数推移

これは、STEPNは既に、参入時の意思決定において(今回の外部環境悪化要因である)仮想通貨市場の情勢を考慮しないノンクリプト層を、ユーザーとして取り入れることに成功しているからだとも考えられます。

新規ユーザー流入による靴の流動性確保

USTが下落した5月10日以降に、STEPN経済圏を抜けたユーザーが多かったため靴の価格は下落しましたが、前述のとおり、新規ユーザーの流入も止まりませんでした。

5月10日以降、ベンチマーク靴フロア価格は下げトレンドではあったものの、400ドルから900ドルの間で推移(5月1日から5月9日までのベンチマーク靴フロア価格の平均値は1,130ドル)。5月12日を境に反発し、現在は600ドルから750ドルを推移しています。

ベンチマーク靴フロア価格

仮に新規ユーザーの流入よりも、靴を売却し、抜けたユーザーが多ければ、
①買い手がつかないので靴価格が急落、②ミントがされない、③トークンがバーンされないという形で、靴価格もGST・GMT価格も急落します。

トークン価格に比例するミントコストと靴のフロア価格
トークン価格に比例するミントコストと靴のフロア価格は強い相関関係にあります。

今回の一定値で下げ止まった靴価格の推移は、これを回避したと読み取れます。

結果的には抜けたユーザー数による靴の売り圧よりも、新規ユーザー数が流入したことによる靴の買い圧の方が大きかったと推察されます。

靴の需給バランスの回復

実際に靴の需給バランスを見てみると、より明確に推移が見えてきます。

ベンチマーク靴販売数と新規価格の推移
青線に注目。
靴の販売数は5月9日の1,900足ほどの販売数から1,000足まで急落しましたが、
5月15日に1,500足まで戻ってきました。

ベンチマーク靴(※1)と新規比率(※2)は、5月9日から下がり続けましたが、5月15日に正常値のゾーンに戻ってきました。

※1「Common・Jogger・ミント数2以上」という最も多く流通している靴をLGGでは「ベンチマーク靴」と定義しています。

※2 Jogger Common BC2以上数 / GSTホルダー数。LGGは「新規比率が0.004~0.005付近を推移していれば、経済圏が順調に伸びる」というのを1つの判断軸にしています。

市場が混乱し始めた5月10日〜5月14日の販売数は概ね1,000~1,200足/日と比較的少ない足数で推移しています。

この間は新規比率の低下も顕著で、5月9日に0.0049だった新規比率は、5月13日に0.0025まで下がりました。これは、「ユーザーの増加に対して靴の供給が追いついていない状態」を意味しています。
つまり、離脱ユーザーが新規ユーザーよりも少ないにも関わらず、靴の価格低下によるミント控えが起きていたと考えられます。

外部環境が落ち着きを見せ、STEPN経済圏も回復の兆しが見えたこともあり、5月17日になって靴の販売数が増え、それに合わせて新規比率も0.0035まで回復しています。
靴価格が下がりながらも、靴の買い手が常に存在し、流動性が確保されていた点も、崩壊を食い止め、回復が早かった要因の1つといえます。

インフルエンサーが果たした役割

今回、インフルエンサーが果たした役割も無視できません。

トークン価格や靴価格が下落し、STEPNへの悲観説も囁かれる中、彼らは率先してSTEPN応援ツイートや応援Giveawayを発信しました。

Lingさんの応援ツイート
STEPN公式アンバサダー(フォロワー数9,400人)
Lingさんの応援ツイート(5/12)

この動きに同調、支持する動きも多く、結果STEPNコミュニティで一致団結して危機を乗り切ろうという空気感が醸成されていきました。

これらの動きに追随するように、普段はGiveawayなどを行わないユーザーも、Giveawayを行うようになり、新規ユーザーの参加意欲をあと押していたように感じます。

Giveawayツイート

もちろん、これらの動きが市場の価格に与えた影響は限定的です。しかしBCGにおいて、運営とユーザーの信頼度・距離感は非常に重要な要素です、

ミントコストの強権的な調整が続き、一部ユーザーからの反発も起こっていた中で、今回の大暴落を「一緒に耐えた」という経験は、コミュニティーの結束が強め、STEPNの経済圏にとってプラスの要因として働いていくと考えています。

消費と利確のバランス

定まらないユーザー心理①

新規ユーザーの売り圧に関して、LGGでは供給されているGSTのうち、ユーザーのWalletに滞留している割合を追うことで確認しています。

ユーザーのWalletに滞留しているGST割合

これを見る限り、GSTなどの価格は上がってきていても、5月17日時点では、まだ安心できない状況と言えそうです。

というのも、ユーザー1人当たりのGST量(*1)の推移を見ると(下図参照)5月9日に、15.91GSTだった平均保有量は、仮想通貨市場の暴落に合わせるように上昇し、17日に22.36 GSTまで増えています。

ユーザー1人当たりのGST量

(*1)GST総発行量のうち、ユーザー保有されている割合をかけ、その数を全ユーザー数で割った数字。

この時期はGMTやSOLの価格も下がっており、利確のためのSpendingからWalletへの移動が増えていたと考えられます。

16日に一回、ガクッと下がっているのは、靴のMintのために、WalletからSpendingに移されたものだと考えられます。

実際に「Jogger・Common・Mint2以降」の販売数が、16日の20時時点で1,061足だったところから、17日に2,180足まで増えていました。

定まらないユーザー心理②

16日に一時期Spendingに移っていたと思われるGSTは、また17日に戻ってきていますので、相変わらず、「ユーザー1人当たりのGST量」は増えている傾向にあります。

積極的にGSTをバーンさせた方がいいのか、ある程度利確をしながら進めた方がいいのか、ユーザーの心理にもまだ迷いがあるように見受けられます。

また、GSTの供給量が5/13までの3545万枚から、5/14に4894万枚に、5/17日に5146万枚に増えていることも見逃せません。

ユーザーのWalletに滞留しているGST割合

供給量が増えた分、消費量が増えなければ、トークンの価値は下がっていきます。

これからどう推移していくのかにもよりますが、「ユーザー1人当たりのGST量」が今後も増えていくようであれば要注意です。

ユーザー1人当たりのGST量

STEPN経済圏が一旦大きな下落を持ち堪えたとはいえ、ユーザー心理がここからきちんと消費に向かうのかどうか、注意深く数字を見ていく必要があります。

100万DAUまでの推移予測〈SOLチェーン〉

最新の100万GSTホルダーの到達シミュレーションは、5/29が想定されています。

100万GSTホルダーの到達シミュレーション

価格が高騰した背景には、以下の要因が考えられます。

この到達日は、指数関数的なシミュレーションで算出しているものでありますが、運営が新規ユーザーの増加を抑制していることもあり、実際は伸びが緩やかになり、直線的な増加をしています

今回、70万DAUを突破したとの発表が運営からなされましたが、過去のDiscordやツイッターでの発表をたどっていくと、DAUは以下のように推移していることがわかります。

10万DAUから20万DAUまで:20日間
30万DAUから40万DAUまで:6日間
40万DAUから50万DAUまで:7日間(4/30発表)
50万DAUから70万DAUまで:16日間(平均8日間で10万DAU増加)

このまま直線的に、およそ1週間に10万DAUずつ増えるとするなら、100万DAUの達成は、6月6日前後になります。

DAU増加数推移

7. DAUとレンタル機能の関係性

4月中旬くらいまでは、指数関数的な伸びをしていた新規ユーザー数ですが、5月以降は完全に直線的な伸びに変わってきています。

指数関数的に増えてしまうと、靴の需給や経済圏のバランスに悪影響が出てしまい、STEPNのミッションである「多くの人々を健康に導くこと」や「「WEB3の入り口になること」が達成できなくなるため、運営が意図してそうしていると考えられます。

そもそも、トークンエコノミクスにおいて、経済圏の指数関数的な広がりが善であるとも限りません。Axie InfinityやPegaxyの辿った歴史を見れば、むしろ悪影響の方が大きいと言えるでしょう。

もしこの直線的な伸び率が変化する可能性があるとすれば、9月に実装予定のレンタル機能の実装からでしょう。

9月にレンタル実装予定
9月にレンタル実装予定(STEPN ROADMAPより)

運営はこれまでレンタル機能については慎重を期していました。しかし、5/14のAMAで「経済圏に対してプラスになる方法が1つ見つかった」として、導入に前向きな意向を示しています。

そこで今回は、改めてレンタル機能について整理しておきたいと思います。

レンタル機能のメリット・デメリット

レンタル機能は、新規ユーザー、既存ユーザー、STEPN経済圏にとってそれぞれ以下のメリットがあります。

▼レンタル機能のメリット
1. 新規ユーザー・・・高額な靴の購入をせずに、FreePlayで稼ぐことができる
2. 既存ユーザー・・・余っている靴を貸し出することで利益が得られる
3. STEPN経済圏・・・靴を買えない層を取り込むことでDAUの増加が加速する

これだけを見るといいことづくめに見えますが、デメリットもあります。

▼レンタル機能のデメリット
1. 靴の借り手がGSTを利確させることでGST価格の下落に繋がる
2. GST価格の下落が経済圏の停滞に繋がる

レンタル機能がAxie InfinityやPegaxyのようなスカラーシップ制度だと、借り手が稼いだトークンは消費に向かわず、売却の流れにしかなりません。

そうなると、レンタル機能の借り手が増えるほど、GSTの売り圧が高まり経済圏崩壊につながるため、レンタル機能においては、レンタルで新規参入するユーザーを「他のユーザー同様に靴を買ってもらい、消費活動に乗せる仕組み」の構築が肝要になります。

レンタル機能の目的は新規ユーザーの参入ハードル低下

LGGでは、4月26日のレポートで、稼ぎの量に応じて運営に払う手数料率が高くなる累進課税のような仕組みで、貸す側も借りる側も「借り手が靴を買ったほうが得をする」と思えるタイミングがくるレンタル制度を予想しました。

今回のAMAで「レンタルでトークンを稼ぐ人がトークンを貯めて靴を買えるようにする」という発言があったことから、運営も、レンタルユーザーを本来のユーザーの消費活動にのせていこうとしていると予想できます。

靴を買ってもらえれば、既存ユーザーと同じくレベル上げやミント等でトークンを消費するため、トークンの売り圧も弱まっていきます。

つまり、NFTの流動性を保ったまま、新規ユーザーの拡大を加速させることができる、ということです。

今回の「Dynamic Minting」の導入は、そのレンタル機能実施に向けた新規ユーザー拡大の準備として見ることもできるでしょう。

またパンダスキンから始めるスキン機能とジェネシスやコラボスニーカーなどのコレクティブル要素、外貨の他層構造などの状況によって、どれくらいのスピード感で新規流入を増やせていけるのかも決まってくることになります。

Dynamic Mintingの影響

前述したとおり、STEPNも仮想通貨全体の下落の影響を受けましたが、12日を底値に現在は回復傾向です。

SOL・GMT・GSTの価格推移
BNB・GMT・GSTの価格推移

ミントコストがGSTの価格に応じて変動する「Dynamic Minting」について、現状では2時UTC(日本時間午前11時)に毎日変更しており、運営はうまくいっていると発言しています。

ただし、Dynamic Mintingを導入した直後に仮想通貨全体が暴落し、市場全体の動向も大きく影響しているため、「Dynamic Minting」が上手に機能した結果であると判断するのは尚早だと考えます。

STEPNがこのまま成長を続けられるかも含めて、Dynamic Mintingの影響を引き続き注視していく必要があります。

また「Dynamic Minting」はGMTとGSTのバランスをとり経済圏を安定させる機能があるものの、今回のような全体経済が下降しているトレンドでは、経済圏を安定化させる決定打にはならないでしょう。

より経済圏を安定化させるためには、やはり多層構造の経済圏の実現(コレクティブルの要素を含む)が必要になります。

多層構造の経済圏の実現の必要性

NFTの流動性は、新規ユーザーの増加と、ユーザーのトークン消費傾向に左右されており、STEPNは現在このコントロールに成功しているといえます。

しかし、これは「新規ユーザーの獲得ありき」の構造であり、これを脱却するためには「多層構造の経済圏の実現」が必要です。

新規ユーザーの参加に頼らない経済圏にするには、いい意味で「損をする」ユーザーの存在が必要です。その解決策の一つが、GEMのバーンによる「スキンの入手」機能です。

現在世界中の人がプレイしている「フォートナイト」というゲームは、2018年と2019年の2年間で90億ドル(約1兆円)以上の収益をもたらしたとされていますが、その売り上げの多くがスキンを含む、コスメティックアイテムによるものです。

スキンは、「持っていること自体に価値があり、所有していることを自慢したい」という、投資したお金を回収する以外のプレイ動機をユーザーに与えます。

過去のAMAでも、「ジェネシス靴を、BAYCやCryptoPunksのような、富や地位のシンボルになり、自慢できるような存在にしたい」と発言がありました。

LuckのAttributesがここに必要になってくるというのも、ユーザーのトークンの消費と絡めた多層的な経済圏の実現に向けた試みとして見ることもできるでしょう。

2個目の公式Discordの立ち上げについて

STEPNの公式Discordが定員(50万人)を迎えたため、新規に「STEPNⅡ」サーバーを開設しました。5月13日に開設された新規サーバーは、チャンネル設計や機能など、ほとんど最初の公式Discordと同じ形式です。

現状では、認知度が低く特に初心者の参加数は少ないように見受けられます。ユーザーにノンクリプト層も増えて生きている今、Discord自体の認知も課題に上がってきそうです。

5月14日に実施されたAMAでは、Discordについて次のように触れています。

・人が多すぎるとコミュニケーションが成り立たなくなる
・サーバー2とサーバー3がある
・違う文化やスラングができることに期待している

STEPNは初期よりクイズやミームイベントを実施し、Discordのコミュニティを大事にしてきました。コミュニティとの対話を密に行うため、1つのコミュニティを大きくしすぎるのを嫌ったのかと思われます。

また、Discordコミュニティを分断・多様化(文化やスラングも別物にする)させているようにも感じられます。

STEPNはゲームギルドを始めとする”集団”に対し、経済圏を左右するようなパワーを持たせることを嫌っています。Discordコミュニティについても、今後ユーザー数が100万、1000万と伸びるに従い、同じ文化を持つ1つのコミュニティに人数(パワー)が増えすぎることを懸念したのではないでしょうか。

5/14のAMAや公式DiscordQAの解説

チームとエコシステムの拡大について

運営は、1,000万ユーザーに向けて、チームとエコシステムを拡大していることを明かしました。
実際、100人のデベロッパーを追加という大規模な人員増加もしています。
また、非クリプトユーザーにもより分かりやすく、さらに今課題となっているトランザクション混雑をSolanaとともに改善していく意向も示しました。

5月9日深夜から生じた仮想通貨市場の暴落の中でも、運営はSTEPNは健全に成長していると明言しています。
業界が混乱している中で安定して今後も発展していくために、運営は下地を固めている状態であると言えるでしょう。

新アイテムミントスクロールの新情報について

5/7のAMAで発表された靴をミントする際に必要になる新アイテム「ミントスクロール」は、親のレベルと同じミントスクロールが必要になることが明かされました。
たとえば、コモンとアンコモンの靴をミントする場合、ミントスクロールもコモンとアンコモンでそれぞれ必要になります。

「ミント工場はつまらない」や「ユーザーを実際に運動させることにつながる」という旨の発言が運営からあったことから、前回のレポートで考察したとおり、運営がミントスクロールを導入したもっとも大きな理由はユーザーに歩いてもらい「ライフスタイルアプリとして目的を達成したい」点であるのは間違いないでしょう。

他、明らかになったことまとめ

・STEPNが米有名経済誌のForbesに掲載
・オークションで2,100SOL(約1,400万円)(※1)で落札されたスニーカーを全額
 チャリティに寄付(下図)

スニーカーを全額  チャリティに寄付
出典:STEPN公式Twitter

※1:1SOL 6,633円として算出
・GEMをバーンさせることで入手できる可能性があるパンダスキン(期間限定コレク
 ティブル)は、GEMの値段が高いほど得られる確率が高くなる
・靴をバーンさせて別の靴のステータスを変更させる機能について、「元の靴のス
 テータスの最低値~バーンする靴の最大値」の中からランダム
・一部で噂のあった「3つめのトークンの存在」や「ミステリーボックスの確率調整」は明確に否定
・Discordの上限50万人に到達したため2つ目の公式Discordができた件について、運営は別の文化などを作り上げていく未来がある点に触れた
・SOL・BNBに続く3番目のチェーンの導入について、現状では優先度は低いため、 検討は年末以降になる予定
・オフラインイベントは今後も多数予定。最新の情報については、STEPN worldで詳
 細の確認が可能
・4月末の予定だったGSTの上限解放は、実装が遅延している状況(※2)

※2:5/16にアナウンスされたアップデートで、実装済み

今後の課題とリスク

1:「Dynamic Minting」による価格の変動

今後は仮想通貨市場全体の影響をどれだけ限定的にできるか?そのための「Dynamic Minting」は適切に機能するか?
をみていく必要があります。その間は、GST/GMTの価格は頻繁に上下する可能性があります。

2:外貨獲得による単一経済圏からの多角化、「Move and Earn」への移行

また、いかにして外貨獲得を増やして経済圏の構造を多角化できるか?もポイントになります。

今回、Mable Jiang氏がCRO(最高収益責任者)に就任したという報告が本人のツイートからされました。その中には、『エコシステム・パートナーシップや戦略的投資を通じて、外部からの経済的価値をシステムに取り込むことに、私の責務が集中することになる』といった旨が報告されており、STEPNが本格的に外貨獲得に向けて動き出したと言えるでしょう。

並行して、お金儲けを目的とした「Move to Earn」から、お金目的だけでない「Move and Earn」への移行を進め、健康面やSocial-Fiでのつながりを楽しむユーザー数を増やしていけるのか?もポイントになります。

3:クロスチェーン・ブリッジ対応

現状SolanaとBNBは別々のネットワークで動いており、STEPN内に2つの経済圏がある形になっています。ユーザー数の少ないBNBチェーンの使用メリットをユーザーに感じさせるか、も大事ですが、BNBチェーン側の価格状況をいかに調整し、SOL側に近づけていくか、が両チェーンをブリッジさせる上での大きな課題となります。

4:サーバーの強化・チェーン障害への対応

今週も、STEPNがDDoS攻撃(※)を受けるなど、ネットワーク障害はしばしば発生しています。

※読み方:「でぃーどすこうげき」

ウェブサーバーに対して過剰なアクセスやデータを送付するサイバー攻撃を、「DoS攻撃(Denial of Service attack/サービス拒否攻撃)」といいます。このDoS攻撃を、複数の端末から大量に行うことを「DDoS攻撃(Distributed Denial of Service attack/分散型サービス拒否攻撃)」といいます。

STEPNもSolanaもβ版であるため、今後も不具合が発生することは想定されますし、経済圏が大きくなるにつれて攻撃を受ける頻度も多くなると想定されます。

これからDAUが100万、1000万単位になったときにSTEPN運営がそれに耐えうるシステム構築ができるかどうかも課題ですが、同時にSolanaチェーンが改善されるか、という外部的要因も課題になりそうです。

運営は「1日に複数回の攻撃・週に1回の大きな攻撃があるが、サーバーは安全に稼働している。チームはこのような攻撃への防御の経験も豊富なので、安心してほしい」と発言しています。

まとめ

今回のレポートでは、仮想通貨市場全体の影響を踏まえ、STEPN経済圏の回復を詳細に考察しました。
暴落前の状態にこそ戻ってはいませんが、ひとまずは持ち直していたと言える状況になっています。

Twitterなどでも、今回の市場の激しい値動きに混乱したユーザーの声が見受けられました。また度重なるアップデートや攻略情報の更新に、「情報についていけない」と感じている方もいるかもしれません。

どのような要因があれ、STEPN経済圏の注目ポイントは、「新規の流入とMintの需給バランス」「トークンの消費と利確のユーザー心理」「多層的な経済圏の実現」「ユーザーと運営の信頼、距離」の4つに絞られるとLGGは考えています。

短期的には「Dynamic Mintingの成否」「レンタル機能の実装」「コレクティブル要素の充実」の3つが、この4つの指標に大きな影響を与えていくことになりそうです。

LGGでは今後も、上記の4つの指標を注意深く観察しながら、本質的な経済圏の健全性を、客観的なデータをもとに考察していくことを大事にしていきます。

※続きは、以下の記事に掲載しております。

STEPNの事例から得られるより深い教訓

LGGでは、STEPNを、今後、BCGを開発するうえでベンチマークすべき重要なプロジェクトと捉えており、システム開発・マーケティング・運用などのさまざまな観点から、過去に何を行い、どのような結果になったのかを細かく追っています。

以下のレポートに詳しくまとめておりますので、興味がございましたら、ご覧になってみてください。

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