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【STEPN特集③】Binance realmバブル崩壊後の立て直し施策の考察

※本記事は、STEPN特集の第2弾です。第1弾から順にお読みいただくことで、STEPN経済圏への理解が深まるようにできております。本記事を最初にご覧になられた方は、第1弾を先にお読みください。

STEPN特集の第3弾となる本記事は、Binance realmの崩壊後に、LGGが考える、STEPN経済圏を立て直すための施策を掲載した時のレポートを記事化したものです。

この時期、靴の流通価格が低下したことで、資金面での参入ハードルが下がり、ユーザー数は順調に増加していました。

STEPNの運営は、この状況を歓迎していましたが、LGGでは、利確に傾いたユーザー心理を戻さない限り、経済圏は衰退の一途を辿ると予想。

この時、LGGが考察していた具体的な解決策である「靴のburn」は、後にSTEPNでも実装されることとなりました。

この記事を読むこと、経済圏が崩壊したSTEPNを立て直す施策を、どのように考えることができるのかが分かります。

※本記事の末尾にて、PDF版のレポートをダウンロードいただけます。

今回の要点

STEPNのこれまでを振り返る

STEPNの経済圏はいま、BNB経済圏のバブル崩壊をきっかけにFUD(※)が広がり、SOL経済圏も一緒に下がっている状態です。

※不安・疑念・不信|Fear/Uncertainty/Doubt

前週に比べると、フロアに並ぶ靴も少し買われるようになってきましたが、靴の価格やGSTの価格は戻ってきていません。(下図参照)

靴の価格やGSTの価格
<SOL>GST・GMT価格推移

「下落を目の当たりにしたFUD」が、大きくユーザー心理に影を落としており、依然として、全体的に利確に傾いている状況が続いています。

6月4日、運営はこの状況に対して、公式Mediumに『ゲームエコシステムの振り返り』と題した記事を投稿し、下落を止められなかった原因に言及しています。

具体的には、次の4点を課題だと考えているようです。

1. realm間でのエナジー共有のデメリット対策
2. チート機能を使って不正に稼ぐBotへの対策
3. Dynamic Mintingの不十分な設計
4. 靴やジェムのインフレ対策と自己調整メカニズムの欠如

今回のレポートでは、上記4つの課題整理と、LGGなりの解決策を考察していきます。

[注意】:本レポートを発行する直前に、STEPNから前述の4つの課題に対するソリューションが提示されました。(日本時間16:48)

STEPNが提示した4つの課題に対するソリューション
引用元:https://twitter.com/shitirastogi/status/1534442188934979584

MediumURL:https://stepnofficial.medium.com/stepns-action-plan-for-game-economy-db67fcba405

本レポートでLGGが行っている考察は、こちらの情報が出る前に書かれたものです。レポート発行時刻の日本時間19時には修正が間に合わないため、そのまま発行しています。予めご了承ください。

上記Medium記事に書かれている内容を抑えた上で、本レポートを読み進めていただけると、なぜ運営がこのような変更を行ったのか、その意図が理解できます。

またLGGの考察が、STEPNの出した結論とどこが同じで、どこが違うのかを比べながら読んでいただくのも面白いと思います。

STEPNのこれからを考える

現状、この状況下でも、新規のGSTホルダー数・GMTホルダー数は伸びています。靴が安いことによる新規参入があり、直線的に伸び続けています。

LGGは、買われていない靴(常に売り圧がかかり、価格が下がり続けている状態)への対策として

運営が靴をBurnをすること(※)
売り圧以上の買い圧を作ること

が必要だと考えています。前ページでの対策は、あくまでもユーザー心理が消費に傾いていることが前提です。

※(以前、Instagramに「ユーザー側が靴をBurnする施策」に関する投稿がアップされており、より高品質な靴へのアップグレードや、ジェネシスナンバーをより高品質なスニーカーに移す案などが例示されていました。しかしGSTの値段が下がっている現段階では、ユーザーが靴をBurnする理由がないため、運営がBurnする必要があります)

まずは利確に傾いているユーザー心理を消費に傾けなくては、これらの対策が機能しなくなります。

そこで今回は、前頁の運営が考える4つの課題に対して、上記の2つのポイントを軸に、どうすればSTEPNの経済圏が安定し、再度拡大していけるのかを考察していきます。

各種KPIの推移 (5/31~6/7)

〈SOLチェーン〉

各種KPIの推移① (5/31~6/7) 〈SOLチェーン〉
各種KPIの推移② (5/31~6/7) 〈SOLチェーン〉

〈BNBチェーン〉

各種KPIの推移③ (5/31~6/7) 〈BNBチェーン〉
各種KPIの推移④ (5/31~6/7) 〈BNBチェーン〉

STEPNの強み解説

「M2E」とシンプルなUI

STEPNの将来性を考える前に、STEPNがここまで多くのユーザーを獲得できた理由について整理していきます。STEPNの成功の理由は、主に次の3つがあります。

1. 「Move to Earn」というコンセプトとアプリのUI/UX
2. 自然に消費を促すトケノミクスの秀逸性
3. 運営とユーザーとの距離感・信頼関係

まず、1番に関して、STEPNが出るまでは「Play to Earn」が主流だったため、各社「ゲームプレイ」を基準にプロジェクトを作っていました。

各ゲームがユーザーの可処分時間を奪い合っている中で、STEPNは「移動する」時間に焦点をあてて、他のGameFiプロジェクトと競合しなかったことが、飛躍的なユーザー獲得に繋がりました。

また、アプリのUIは余計なものを加えないシンプルなデザインで、DEXやウォレットという言葉に疎い人でも簡単に使え「Move to Earn」を体験するのに、専門的な知識を要しませんでした。

さらに「稼げるゲームを作る」ことを目的に作ったプロダクトではなく「人々を健康にするために」作ったプロダクトであったことも、大きく関係しています。

これらの戦略により、GameFiの主戦場にいたクリプトユーザーと、仮想通貨に触れたこともない非クリプトユーザーと、両方にアプローチでき、結果として多くのユーザーを獲得することに成功しました。

自然に消費を促すトケノミクス

STEPNのトケノミクスは、トークン消費ポイントの数(縦)と、エンドゲームまでの長さ(横)の掛け合わせによる面積が大きく、ユーティリティーに必然性があるのが特徴です。(下図参照)

STEPNのトケノミクス

ユーザーが積極的に自分のNFTを強化し、ゲームを有利に進めるためにトークンを消費するように促すことで、トークンの需要を高めて売り圧を抑制し、経済圏を長続きさせるモデルを作りました。

逆に、初期のAxie Infinityに代表されるデュアルトークンモデルは、トークン消費ポイントが少なく、(スカラーシップなどで急増した)ユーザーが利確する際の売り圧に耐えることができませんでした。

STEPNが既存のゲームギルドと連携して、スカラーシップを展開しなかったのも、膨大な売り圧を嫌ったためと考えられます。(これは後述のBotアカウントの規制にもつながる重要なポイントです)

ユーザーとの距離感・信頼関係

STEPNは、ユーザーとの距離感・信頼関係をとても大切にしています。

Discordの過去の履歴をたどってみると、プロジェクト発足から12月20日のパブリックβ版のリリースまでの間に行われた各種マーケティング施策にも、ユーザーとの距離を大切してきた歴史が伺えます。

具体的には、Discordを盛り上げた人だけではなく、バグ報告をしてくれた人や、STEPNのミーム(ネタ画像のようなもの)を作成したくれた人、ブログやYouTubeにプレイの様子をアップしてくれた人など、さまざまな人に活躍の場所を与え、運営との距離を近づける施策をが行われています。

また初期からユーザーとの対話を頻繁に行い、去年の12月頃から毎週AMAを継続して行っています。しかも、運営の経営陣自らが、毎週直接やり取りしています。

結果的に、愛着心やロイヤリティが高い人が多いプロジェクトになり、コミュニティの強い結束力を実現しています。

また運動習慣がついて体重が減った人、時間に余裕ができて家族とのコミュニケーションが活発になった人も多く、金銭以外の価値を感じている人も多くいます。

だからこそ、このGST・GMTが下降している局面にあっても、アプリを手放さずに応援を続けているユーザーも多く、この点はAxie Infinityに通じるものがあります。

STEPN運営の抱える4つの課題

さてSTEPNの強みを整理できたところで、改めてSTEPN運営の考える課題をもとに、解決策を考えてみましょう。

▼ 運営の考える4つの課題
1. realm間でのエナジー共有のデメリット対策
2. チート機能を使って不正に稼ぐBotへの対策
3. Dynamic Mintingの不十分な設計
4. 靴とGEMのインフレ対策と自動調整メカニズムの欠如

これらの課題を解決することが、今回のような暴落を作らない(あるいは起きても下落を限定的にする)ことにつながっていきます。

また、LGGはSTEPN経済圏を読み解くために、4つのポイントを定めています(5月4日のレポート参照)。
上記の運営の考える4つの課題を考える際に、以下の4つのポイントが改善されていく解決策にならなければなりません。

1. 新規ユーザーの順調な伸びと、新規の靴の購入数
2. 経済圏内の「消費」と「利確」のバランス
3. 単一経済圏ではない、外貨を獲得出来る多層構造の経済圏
4. ユーザーと運営の信用度、距離感

運営の課題

エナジー共有の落とし穴

BNB経済圏にバブルをもたらした要因の一つに「エナジーブリッジ」があります。

BNB側では、SOL側とのエナジー共有によって「BNB靴1足+SOL靴8足」という運用が可能になり、価格の高いbGSTで歩いて稼げる金額が高く(※)、それがユーザーを増やす要因になりました。

※BNB経済圏が始まった当初、価格は$10前後を推移していました。9足9エナジー体制だと、およそ1日8万円以上稼ぐことができた計算になります。Efficiency靴をLv19まで上げた場合、おおよそ1.5GST/分を稼げます。9エナジーだと45分歩けるため、1.5×45×$10=$675(≒87,750円)になります。

ところが、この高い収益性が裏目に出ます。

通常、ユーザーが初期に獲得したGSTはLv上げなどの「靴の育成」に使われます。

1足目が育ったら2足目3足目の購入資金に充て、エナジーを増やすためにミントを重ねて9足・15足と複数靴を用意していく中で、多様かつ期間の長い消費が行われます。

しかし、BNB側においては、靴は価格帯の安いSOL側で揃えればよく、2足目以降の購入ニーズが喚起されづらく、稼いだbGSTの多くが「利確」に回ることになります。

いっときは、ミントによる再投資での消費こそ行われましたが、SOL側と異なりMoveを主体とした経済圏を構築できず、持続的な買い圧を作れませんでした

つまり、秀逸に作られたトケノミクスの消費モデルを機能させられなかったのです。

エナジー共有を機能させる方法

このように、エナジー共有は新realmにユーザーを引き込み、経済圏発展に寄与する反面、新realmでのユーザーの消費動機を奪います。

新realmでエナジー共有のメリットを享受しつつ、ユーザーの消費活動を維持するには、やはり、STEPNの強みである「多様かつ期間の長いトークン消費」を設計することがポイントになります。

例えば、次のような施策が考えられます。

1. 既存realmでの活動や収益をブーストさせるアイテム(※1)を新realmで獲得できる
2. 新realmでの靴のLvをあげれば、アイテム獲得率が増える
3. 新realmでの靴保有量に応じて新realmのエナジー量を調整される(※2)

※1:例えば、ミントスクロールやコレクティブルスキンなど、既存realmで価値の高いもの

※2:例えば、「SOL靴8足+BNB靴1足」なら、BNB側でのエナジーは9ではなく4になり、「SOL靴8足+BNB靴3足」なら、BNB側のエナジー量は6になるといったような調整です。

まず、貴重なアイテムを手に入れたいという動機から新realmにユーザーが集まります。新realmの靴をLvを上げることで、その貴重なアイテムがさらに手に入りやすくなります。

新realmでの靴保有量を増やせば、エナジーが増えて1日のアイテム獲得効率が上がるので、新realmでの靴の買い圧が増加します。

結果、初期ユーザーが辿った道と同じような「多様かつ期間の長い消費」を再現することができ、経済圏にとって好ましい「消費>利確」の構図が成立します。これなら、エナジー共有のメリットと、ユーザーの消費活動の維持を両立させられるのではないでしょうか。

Botでのミント工場対策

今回、6月3日に新しく、SMAC(STEPN Model for Anti Cheating)という、不正対策のアップデートが行われました。

これは、これまでGPSをハッキングして、実際に歩かずに稼いでいたユーザーや、複数端末を持って同時に歩いてた、いわゆる複垢と呼ばれるBotを検出し、稼いだGSTを没収するシステムです。(詳細はMedium記事を参照下さい)

Botでのミント工場対策
ともに、Medium記事内で紹介されたBotの様子

運営は、不正ユーザーによる経済圏への影響を重く捉えており、今回のアップデートを非常に重要なアップデートだと位置付けています。

確かに中長期的には、チート機能を使う不正ユーザーが排除されることで、売り圧の削減につながり経済圏を安定させます。

しかし、GSTを上げる施策を期待していたユーザーの反応は冷ややかであり、SMACが正常なユーザーもBotと判定してしまったこともあり、下降を止めることはできませんでした。

また、複数端末によるBotミント工場に対する規制は、まだ行われていません。ただ、Botミント工場は、必要以上に靴を供給し巨大な売り圧を作り、経済圏に悪影響を及ぼします。

そのため、これに対する規制は、チューリングスコアによって行われると思われます。

チューリングスコアによるBot対策

チューリングスコア(以下、TS)とは、アカウントの信用スコアのようなものです。

ユーザーがマルチマイニング(STEPNアプリを開いた状態で複数のスマホを持ち歩くこと)をすると、歩いて稼いだ収益は無効になり、TSも下がります。

TSは、100点/100点から始まり、100点未満になると、ペナルティが与えられます。この間、ユーザーは靴の売買も、「Spending」⇆「Wallet」間の転送もできなくなります。

ユーザーが不正行為なく歩いた場合、TSにポイントが追加され、100点を越えれば通常通りトークンを稼げるようになります。

今回はマルチマイニングに対する規制でしたが、TSの仕様からも、今後はBotミント工場への規制も導入されるでしょう。

ただし、Bot対策は「利確に傾いたユーザー心理を消費に向かわせる」効果は限定的です。ミントスクロールやGMTユースケースなど、消費に直結するアップデートは次回以降になります。

また今後3ヶ月間以内に、GSTのバーンや靴とジェムのインフレ対策などの新しい施策が、CMOである@shitirastogiからアナウンスされる予定です。

Dynamic Mintingの欠陥

Dynamic Mintingは、GSTの価格に応じてミントコストを自動で調整する機能です。

GSTが高すぎる場合は、GST消費を抑制し、GMT消費を増やすことで、ミントコストを下げます。そうなれば、靴の供給数が増えて、靴のフロアが下がり、GSTの価格が低くなります。

一方で、GSTが安すぎる場合は、GMT消費を抑制し、GST消費を増やすことで、ミントコストを上げます。これにより、靴の供給数を減らし、靴のフロアを上げ、GSTの価格を高めます。

しかし、今回のようにGMTの値段がGSTと近い値段になってしまうと、その効果を失ってしまいます。

BNB側は、bGSTが高く、GMTが安いままであり、ミントコストがずっと低く、ミントにミントを重ねるチキンレースになってしまいました。

bGST・GMT価格推移

SOL側は、sGSTが安い時に、GMTも安いままで、ミントコストが上がらず、結果的に、靴の供給数は増え続け、靴のフロアが上がらず、sGSTも上がりませんでした。

sGST・GMT価格推移

つまりDynamic Mintingだけでは、GMTが上がらない際の対応ができないのです。

靴とGEMのインフレ対策

過去のSolana経済圏では、靴価格が一定水準を下回ると、新規ユーザーが靴を買いやすくなり、買い圧が強まることで靴価格が上昇に転じる、というサイクルが機能していました。

しかし仮想通貨市場全体の暴落と、BNBバブル崩壊のダブルパンチによってFUDが広がり、ユーザーの心理が利確に傾くような市況では、Dynamic Mintingでは対処しきれません。

そこで運営は、トークン価格を調整するDynamic Mintingだけでなく、靴価格や、GEM価格にも調整機能がなかったことを課題として上げました。

運営が考えている、靴価格やGEM価格に必要な調整機能は次の2点です。

靴やGEMの価格高騰が生じた際に、上昇を抑える調整機能
価格下落時に市場にあふれる靴やGEMを、リサイクルやバーンさせる仕組み

靴やGEMの価格高騰は、新規ユーザーの参入を阻害し、その後大きな価格の下落を招く危険があります。そのため、急なインフレを抑えるような仕組みが必要です。

逆に、靴やGEMの価格下落時には、リサイクルやバーンさせる仕組みが機能することで、マーケットプレイスにNFTが売れ残る状況を作らせず、価格の下落を抑制させることができます。

STEPNの経済圏

具体的には、以下のような施策が考えられます。

1. NFT価格が高騰した際に価格を落ち着かせる調整機能

・靴の価格が一定水準に達するごとに、ミントした際の双子が出る確率を上げ、靴供給量を増やす
・GEMも歩くごとに劣化し、リペアをしないとステータス強化値が下がっていく、さらにGEM価格が上がるほど、  リペア費用も上がる変動制にする
・高Lvのジェムほどインフレしやすいため、リペアに必要なGSTが増える仕様にする

2. NFT価格が下落した際に価格を上昇させる調整機能

・靴価格下落時に、靴をバーンすることで、Lv20以上など特定の靴のレアリティ向上確率が上がる
 (メイン靴のレアリティを上げられるようなインセンティブを持たせる)
・GEM価格が下落している際に、GEMの合成成功確率が上がる
・靴価格が下落している際に、靴の合成成功確率が上がる

なぜ「自動」調整システムが必要かと言うと、運営の直接的な介入よりも、客観的なルールに基づくシステムによる自動調整の方がユーザーの不信感につながりにくく、迅速で安定的な対応が期待できるからです。

なお、Medium記事によると、運営は近いうちに靴やGEMの新たなリサイクル(バーン)システムを導入するとのことです。

LGGの考える課題

短期対策の必要性

繰り返しになりますが、前述の運営が考える課題は、ユーザー心理が消費に傾いていて初めて成立します。

下図に示すように、靴を買うための$SOL・$BNBのSpendingへの入金額は下がり続けているため、短期的にはこの問題を解決しなければなりません。

靴を買うための$SOL・$BNBのSpendingへの入金額
靴を買うための$SOL・$BNBのSpendingへの入金額
Duneを使用して、LGG独自に作成・depositが「Spending」に入金された額、withdrawが「Wallet」に送金された額を表しています。

今の、売り圧以上の買い圧を作るためには次の3点の施策が必要です。

  • 運営が靴をBurnをする
  • 靴の価格をギリギリまで下げ新規増加を加速させる
  • レンタルを並行させ新規に靴を買い尽くしてもらう

このままNFT価格が1足数千円まで落ちていけば、GameFiに興味のある東南アジアなどの低所得層にリーチできます。さらにレンタル機能を並行させることで、新規が爆発的に増えて買い圧が増大します(※)。

※単純なレンタル機能はユーザー数増加に繋がる一方、GSTの売り圧が強まる懸念があるため、レンタルで参入したユーザーに靴を買わせる機会提供を同時に行うとLGGは予想しています。(5月18日レポート参照)

そこでNFT価格とGST価格の下げ止まりがおき、GSTが上がりフロアが上がれば、ミントが動き出して、元のサイクルが周り始め、低価格帯からの再スタートになります。

そこに、中長期の施策が後から効いてくる、という順番です。

ユーザーとの距離感

なぜこのような短期的な施策が必要になるかというと、ユーザーの信頼感を取り戻すためです。

運営はこれまで一貫して

・「長期的に成功してユーザーが健康になれるアプリを目指している」
・「ユーザーも長期目線でSTEPNを信じてほしい」

などの発言を度々行ってきており、長期的な観点をもってSTEPNを利用してもらいたいとユーザーに求めてきました。

対してユーザーは短期的な利益に目が行っており、トークンや靴の価格が低下し続けていることに対する強い不安感などから、長期的な目線でSTEPNを信じることができていない人が多い状況です。

ここにズレが生じ、ユーザー側は損失が発生したことに、運営はユーザーが思うように動いてくれないことに対して、お互いにフラストレーションを溜めている状態です。

まずは、このユーザーが抱えている不安感・不信感を払拭し、ユーザー心理を消費に向かわせる必要があるので、短期的な施策として、市場に余っている靴が買われていく状態を作ることが急務だと考えています。

今回のケースから学べること

トケノミクス設計だけを磨けばよいわけではない

今回のSTEPNのケースから、改めてLGGではトークン経済圏を作る上で、次の重要性を感じています。

・どれだけ緻密にトークン設計を行なっても、ユーザーの心理がFUDやFOMO(※)によって、市場に決定的な影響を与える
・そのため、実態と伴わないバブル経済が予見される場合、運営は徹底して市場介入しなければならない
・コミュニティーの力は、トケノミクスにおいて非常に強力な下支えになる

※:Fear Of Missing Out の略。自分だけが取り残されることへの不安や恐れのこと。

STEPNの設計した消費ロジックが、これまでのBCGの失敗事例を研究し尽くされた、秀逸なモデルであることは疑いようのない事実です。

SNSのつながりによって、影響力のある人物の発言をより真に受けやすくなっている現代において、特に仮想通貨市場では、重要視されている。

しかし、どんな秀逸なモデルでもユーザーのFUDによる膨大な売り圧の前には、為す術がありません。

米国株式市場の下落から始まった、仮想通貨全体の下落はSTEPNの影響力範囲外のできごとでしたが、BNB側のバブル崩壊は、運営が積極的に介入していれば未然に防げたことでもあります。

だからこそ運営も課題意識を持ち、同じことを繰り返さないようにユーザーからの改善案も募っているのだと思います。

一方ゲームをプレイするユーザー側も、高すぎる収益性に疑問を持ち、煽りによって感じるFOMOに惑わされることなく、冷静に判断することが求められていると考えます。

コミュニティ運営の重要性

確かにSTEPN経済圏は下落の一途をたどっていますが、一方で投資目的のユーザーが離れ、Bot対策への基盤が整ってきて、良いプロジェクトを作ることに集中できるタイミングとも言えます。

そして今回、これだけのことがあったにもかかわらず、STEPNの未来を信じて、「Move to Earn」を続けているユーザーが多くいる、ということも忘れてはいけません。

Axie Infinityも、SLPこそ下がっていますが、ゲームを愛し、プレイする楽しさを感じ、再起できると信じているユーザーが多くいます。

それは運営の「Sky Mavis」がユーザーを大切にし、ユーザーと一緒に巨大なコミュニティーを築いてきたからに他なりません。

STEPN運営も同様に、ユーザーとの対話を大切にしてきた歴史があり、コミュニティーに強い連帯感があります。

GameFiの分野には、ファイナンスの要素があるため、運営もユーザーも高い収益性に目が行きがちですが、プロジェクトのミッションを一貫して伝え、コミュニティの基盤を整えることこそ、最も重視すべき要素なのではないかと感じます。

今後の運営の課題とユーザーの抱えるリスク

利確に向いているユーザー心理をいかにして消費に向かわせるか

経済圏を理解する時のシンプルな構図として、LGGでは下記の方程式を考えています。

【経済圏=1:新規流入(買い圧)×2:利確と消費のバランス(パーセンテージ) ×3:ミント数(供給数)】

BNB側でバブルが弾けたのをきっかけにユーザーの多くが利確しているため、上記方程式の「2:利確と消費のバランス」が利確に傾いており、SOL側・BNB側ともにGSTの価格の下落が続いています。
ユーザー心理が利確に傾いて靴の売りが多ければ多くなるほど、新規の買い手も追いつかなく、靴の価格も下がり、ミント自体がされなくなることで、GSTも下がり続けてしまうからです。

そのため、利確に向いているユーザーを消費に向かわせ、消費と利確のバランスを適正にしていく必要があります。

STEPNの経済圏を安定した状況に回復させるためには、新規ユーザーの流入を増やして買い圧を高めることや外貨を獲得できる多層構造を作ることも重要です。

しかし、それらは利確と消費のバランスが崩れた状態においては抜本的な解決にならないので、現状では「運営はユーザー心理を消費に向かわせる施策を打てるかどうか」が最大の課題であると言えるでしょう。

マルチチェーン対応

今回の発表で、クロスチェーンの実現ではなく、STEPNを媒介とした独立した経済圏を、各チェーンごとに形成していくことがわかりました。今後は、マルチチェーンの実現のために、それぞれのチェーンでのユーザー数の確保や、健全性の維持、チェーンごとの取引の遅延解消なども課題となります。

ユーザー視点では、新しいチェーンが実装されるごとに、今回BNB側で起こっていることが繰り返される可能性があり、高い収益性の裏に資産が大きく減額する可能性もあることに留意していく必要があります。

多層構造的な経済圏の実現

並行して「いかにして外貨獲得を増やして経済圏の構造を多角化できるか?」も引き続き課題として残っています。

5/21のAMAで、CRO(最高収益責任者)のMable Jiang氏が言及したように、ユーザーのウォーキングデータを活用したマネタイズや、Alchemy Payと提携しGMT決済が可能になったことも、多層構造的な経済圏の実現につながります。

そしてユーザーに十分な報酬を与え続けるために、経済圏に入ってくる資本の額もポイントです。

ユーザー視点では、新規流入に支えられている現状の経済圏構造を理解し、既存ユーザーが利確に走りすぎていないか、NFTの流動性が鈍っていないかを、引き続き注意深く見ていく必要があります。

今回のレポートのまとめ

今回はSTEPN経済圏の構造的な課題と、今後展開されうる施策について考察しました。

STEPNの各種KPI指標の低迷が長引いており、自然回復を期待できるフェーズではありません。ユーザーを消費に向かわせ、経済圏を好転させるために、運営が積極的にルール変更や市場介入を行うことが必須です。

今後、新アイテム導入や新realmの実装などSTEPN経済圏にも大きな変化を及ぼしうるアップデートが立て続けに行われる予定です。

これまでのSTEPNの歴史から考えても、そのアップデートが、下記4つの指標に良い影響を与えるものであるかどうかが焦点になります。

1. 新規ユーザーの順調な伸びと、新規の靴の購入数
2. 経済圏内の「消費」と「利確」のバランス
3. 単一経済圏ではない、外貨を獲得出来る多層構造の経済圏
4. ユーザーと運営の信用度、距離感

2021年12月のサービス開始から約半年が経過しましたが、STEPNはこの半年で成長と後退という経済圏の1サイクルを経験したと言い換えることもできます。

この1サイクルの経験と反省を踏まえ、今後の成長を見据えた次の1歩を踏み出せるか。
運営が繰り出す次の一手の重要性は、ことさら大きいと言えるでしょう。

STEPNの事例から得られるより深い教訓

LGGでは、STEPNを、今後、BCGを開発するうえでベンチマークすべき重要なプロジェクトと捉えており、システム開発・マーケティング・運用などのさまざまな観点から、過去に何を行い、どのような結果になったのかを細かく追っています。

以下のレポートに詳しくまとめておりますので、興味がございましたら、ご覧になってみてください。

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