
Web3の登場により、暗号資産やNFTなどのトークンを使った新しい経済圏が誕生しています。
この経済圏を「トークンエコノミー」と呼び、多くの企業が参入し始めています。
既存の経済圏がある中で、なぜトークンエコノミーが注目されているのでしょうか?
それは、トークンエコノミーによって、企業と消費者の関係が大きく変わり、新たなビジネスが構築されると期待されているからです。
では、企業が自社のプロジェクトにトークンエコノミーを取り入れた場合、どのようなメリットや課題があるのでしょうか。
本記事では、これからWeb3に本格参入しようと模索している企業様に向けて、
- トークンエコノミーの詳細
- トークンエコノミーを構築するメリット
- トークンエコノミーの事例
- トークンエコノミーの課題と対策
を解説していきます。
この記事の目次
新たなデジタル経済圏「トークンエコノミー」

トークンエコノミーとは「デジタル通貨(トークン)による新しい経済圏」のことです。
たとえば、アマゾンが発行しているアマゾンポイントは「1ポイント=1円」でアマゾンのサイト内で使用することができます。
このアマゾンポイントもトークンの一種であり、アマゾンの経済圏がトークンエコノミーといえます。
このトークンにブロックチェーン技術を取り入れた新たな経済圏が、Web3のトークンエコノミーです。
トークンエコノミーが構築されることで、より自由で活発な経済活動が増えると期待されています。
トークンとは?

トークンエコノミーを理解する上で欠かせないのがトークンです。
トークンの元々の意味は、企業が特定の目的によって発行する代替通貨のことです。
消費者やユーザーにインセンティブを与えることでモチベーション(動機)を付与し、企業が望む行動に促す目的で発行されます。
ここにブロックチェーン技術を用いたのが、「暗号資産」や「NFT」といわれるWeb3のトークンです。
トークンは、代替可能なファンジブルトークン(FT/Fangible Token)と代替不可能なノン・ファンジブルトークン(NFT/Not Fangible Token)の2種類に大別されます。
ファンジブルトークン(FT:代替可能なトークン)
ファンジブルトークンは「通貨的なトークン」と「証券的なトークン」の2種類があります。

ノン・ファンジブルトークン(NFT:代替不可能なトークン)
アートやゲームのアイテム、トレーディングカードやデジタルファッション、バーチャルな土地などの代替不可能な価値を表すトークンのことを指します。
Web3では、FT(通貨的なトークン、証券的なトークン)とNFTの3種類のトークンがトークンエコノミーの中で行き交っています。
トークンと既存モデルとの違い

現金との比較
トークンと現金の違いは、消費者の使用目的を限定することが可能かどうかという点です。
たとえば、ある自治体が来日した外国人労働者に「日本語学習のための補助金」を支給することになりました。
現金で支給した場合、その補助金は生活費や仕送りなどに利用する人が現れる可能性があります。
一方トークンで発行した場合、「日本語教室でのみ使用可能」など、使用目的を限定した通貨として支給することができます。
また、スマートコントラクト技術を使って、「トークンを受け取った人は特定の地域での消費活動で使用できる」など、付与された人と受け取った人それぞれの使用目的を限定することができます。
これがトークンと現金の大きな違いです。
株式との比較
トークンと株式の違いは、「誰のために利益を出すか」という点です。
株式はその企業の創業者や投資家、一部のベンチャーキャピタルなどしか持つことができませんでした。
そのため企業のビジネスが拡大しても、株式を持った一部の人にだけ恩恵があり、従業員に還元されることはありませんでした。
一方でトークンは、ストックオプションのような仕組みを取り入れられます。
たとえば、創業時から貢献してくれている従業員にトークンを配布することで、ビジネスが拡大したときに、創業者も従業員も一緒に利益を享受できるようになります。
トークンの配布は、従業員のモチベーションを上げることにも繋がり、企業側にとっても従業員側にとってもメリットがあるのです。
このように、トークンエコノミーは「すべての参加者に利益が還元される」組織をつくることが可能です。
自社の経済圏を一緒に作ってくれた従業員や消費者にリターンとして返すことができ、Win-Winの関係を構築することができるのです。
トークンエコノミーが注目されている理由

①企業と消費者の関係性を変える
トークンエコノミーは、企業と消費者の関係を大きく変えるといわれています。
これまでの経済モデルでの消費者の行動は「企業や生産者から提供されるモノやサービスを選び、購入すること」に限定されるケースがほとんどでした。
これに対して、トークンエコノミーでは「消費者が生産過程に積極的に関与するようになる」ことが期待されています。
たとえば、デビューしたばかりのアイドルとファンの関係で考えてみます。
これまでのアイドルとファンは「提供する側(アイドル)」と「消費する側(ファン)」という一方的な関係でした。
どんなに熱心なファンでも、CDの購入やライブへの参加など「提供されたものを購入する」以上の貢献ができず、たくさんのお金を投じて応援したアイドルが人気になっても、ファンが利益や恩恵を得ることはありませんでした。
しかしトークンを利用すると、ファンとアイドルの関係性が一方的なものから相互に協力していく関係へと変わります。

「初期からアイドルを応援し続けている」「SNSで積極的にアイドルの発信をしている」などの具体的な協力をしてくれたファンにトークンを配布します。
このトークンは、発行量に制限があり、アイドルの限定グッズや先行販売のライブチケットを交換するときに使用できます。
トークンを持つファンは、アイドルが人気になると自分の持っているトークン価値も上がるため、SNSでのプロモーション活動を一生懸命行います。
しばらくしてアイドルの人気が高まると、トークンを持っているファンは、人気により価格が高騰したチケットをトークンで手に入れることができたり、トークンを売ることで利益を得ることが可能です。
またアイドルは、トークン価値が上がることで、少ないトークン配布量でも大きな利益を得られるだけでなく、無名時代を支えてくれたファンや関係者に恩返しをすることができます。
このように関わる人すべてに何らかの利益をもたらすことができるのが、トークンの大きな魅力です。
トークンエコノミーによって、さまざまなビジネスが展開されることが期待されています。
②トークンインセンティブによるユーザーの経済行動の変容
トークンインセンティブとは、Web3で登場した新しいマーケティング手法です。
トークンを発行する際にインセンティブをつけることで、企業が消費者やユーザーに意図した経済活動を促すことができる点が大きな魅力となります。
トークンインセンティブは、ユーザーにとっては有益なサービス体験を得ることができ、企業にとっては顧客のロイヤルティを高めサービスの利用を促進することが可能になる、相互にメリットがある手法です。
また、トークンインセンティブはトークンの価値を安定させるためにも不可欠です。
トークンの価値を維持し安定させるには、ユーザーが長期的にトークンを保有するかが重要なポイントになってきます。
トークンの保有期間が長ければ長いほど、プロジェクトに対するユーザーの関心や忠誠心が高まり、トークンの価値も上昇する可能性があるからです。
いかにユーザーを長く惹きつける魅力的なトークンであるかどうかは、トークンインセンティブによって決定付けられます。
このようにトークンインセンティブは、ユーザーの経済行動を変容させ、企業とユーザーの新たな関係性を構築するキッカケとなるのです。
トークンエコノミーを構築するメリット
①コンテンツに価値をつけることができる
トークンエコノミーでは、これまで価値のつかなかったサービスやモノ・コンテンツに価値をつけることができます。
たとえば、料理のレシピサイトがあげられます。

これまでユーザーがレシピサイトに投稿したレシピに価値がつくことは、ほぼありませんでした。
しかし、投稿されたレシピに対してトークンを発行することで、そのレシピに価値がつくことで、ユーザーのモチベーションがあがり、レシピサイトはコンテンツが充実するといった相互のメリットが生まれます。
これによりトークンが循環し、活発な経済圏が生まれていきます。
このように、これまでは価値を持たなかった情報がトークンエコノミーによって価値を持つことになるのです。
②銀行に頼らない資金調達が可能

トークンエコノミーでは、株式をブロックチェーン上のデジタルトークンとして発行することで資金調達することが可能です。
実績のない企業が株式を発行して資金調達をしたり、銀行からの融資を得るには高いハードルがあります。
トークンエコノミーでは、資金調達をしたい企業がブロックチェーン上にトークンを発行すると、その企業を支援したい投資家がトークンを購入することができます。
また、事業開始時にトークンを発行することで資金を調達することが可能なので、生産までに時間とコストのかかる商品の資金繰りも容易になります。
こういった新しい資金調達の方法によって、事業拡大がしやすくなると期待されています。
③契約や決済を自動化する仕組みをつくれる

トークンエコノミーでは、管理者や仲介者を挟まずに契約や決済を自動的に行える「スマートコントラクト」が可能です。
スマートコントラクトとは「ブロックチェーン上で行う契約の自動化」のことで、購入からサービスや商品が提供されるまでの一連の流れを、スピーディーかつ安全に行うことができる仕組みを指します。
スマートコントラクトの特徴
・書面の作成や認証が不要
・コスト削減が図れる
・改ざんや不正を防ぐ
・透明性の高い取引が可能
・契約や取引がスピーディーに進められる
・人為的ミスがない
例えるなら、自動販売機に利用者がお金を投入し、商品のボタンを選択した瞬間に売買契約が成立するイメージです。
これを応用することで、契約内容の押印や書面を廃止して、電子上で自動で簡単に契約を結ぶことが可能になります。
トークンエコノミーを利用することは、利用者のコストや手間を削減し、より安価で魅力的なサービスを提供しやすくなるのです。
④マイクロペイメント
マイクロペイメントとは、トークンを使用した1円未満の少額決済のことです。
従来の仕組みでは、仲介業者が入ることで手数料が発生し少額決済を実現することはできませんでした。
しかしトークンを活用すると手数料が大幅に抑えられるので、1円未満の少額決済も可能となりました。
たとえば、飲食店へ口コミをしてくれたユーザーに、「1件につき5円分のトークンを支払う」「広告を1回閲覧すると1円分のトークンを支払う」といった具合に、さまざまなシチュエーションでの利用が考えられます。
この仕組みにより、今まで埋もれがちだったステークホルダーに正当な報酬を支払うことが可能となり、活発な経済圏を構築していくことができます。