
Web3ゲームを開発するにあたって、トークノミクス設計とブロックチェーン選択が、これまでのゲーム開発のプロセスとは大きく異なります。
本記事では、BCG開発におけるトークノミクス設計とブロックチェーン選択の流れを説明していきます。
この記事の目次
【STEP1】プロジェクトの全体設計を考える

はじめに、プロジェクトの全体像を設計します。
上図にある通り、最初にプロジェクトのミッションやビジョンを定義する必要があります。
- 「BCGやNFTを通してどんな世界を実現したいか」
- 「誰にどんな価値をどのように提供するのか?」
- 「そのために、なぜブロックチェーンが必要なのか?」
というプロジェクトの根幹の部分を定義する必要があります。
ミッション・ビジョンがなければ、ゲーム開発もトークノミクス設計も進められません。
そしてそのミッションやビジョンを実現させていくために、どのようなゲームを作り、ゲームをどのような順序で展開し、ユーザーを獲得して売り上げを上げていくのかの戦略を策定します。
特に『ゲームの企画』と『トークノミクス設計』は、切っても切り離せない関係にありますので、並行して進めていく必要があります。
何のためのトークノミクスなのかを考える
現在、BCGにも「ゲームとしての面白さ」が求められていますが、面白いゲームを作ることだけが目的なら、わざわざBCGにする必要はありません。
そこで、BCGを開発する上では、『どうしてWEB2のゲームではダメなのか?』を考えることが大切です。
トークノミクスを設計することによって実現できることはさまざまです。
★トークノミクスによって実現できること
▼運営側における価値
1: 資金調達(トークンやNFTのセール)
2: 集客コストの抑制(経済的インセンティブによる集客など)
3: 新規層の獲得(従来のゲーマー層に当てはまらない層へのアプローチ)
4: キャッシュポイント増加による売上向上 (NFT売買による売上・収益)
▼ユーザー側における価値
1: 独自経済圏の創出(ゲームと実経済を繋げる・複数ゲームでの経済圏構築)
2: 新しいユーザー体験の創出(NFTによる所有感、スカラーシップ)
3: 経済的インセンティブによる行動の動機付け(いわゆる「X to earn」)
Axie InfinityやSTEPNなどは、「Play to Earn」という経済的インセンティブ(特にブリードによる収益)によって、特に大きな広告を打たずとも100万人規模のDAUを獲得することに成功しています。
また「Move to Earn」や「Sleep to Earn」に代表される「X to Earn」のプロジェクトは、人々の行動の習慣化に強力な影響を与えることができます。
これらのトークノミクスによって実現できることが、プロジェクトのミッション実現において、必須であること(=既存のWEB2の技術だけでは実現できないこと)がとても大切です。
【事例】PlayMining経済圏(DEA社)のミッションとトークノミクス

Digital Entertainment Asset(以下、DEA社)は『WEB3を活用し、誰もが未体験の”新しいエンターテイメント”を世界へ届ける』ことをミッションに、事業のバリューとして次の3つを掲げています。
- 新しいエンターテイメント体験を追求する
- クリエイターへの経済的インセンティブをエンパワーする
- 世界に対する Social Impact を実現する
DEA社はこれらを実現するためにブロックチェーン技術を活用し、トークノミクスに落とし込んで、持続的で安定した経済圏の構築を目指しています。
DEA社はWeb2の技術では提供できなかった、新しいエンターテイメント体験の創出のために、ブロックチェーンを導入しています。(PlayMining経済圏の詳細については「PlayMining経済圏の調査レポート」をご覧ください。)
つまり、上の「3つのバリューの実現」ために、ブロックチェーン技術を用いる必要があるのであって、稼げるゲームを作るためにブロックチェーン技術を使っているわけではない、ということです。
【STEP2】トークノミクスを設計する時のポイント
次に、実際にトークノミクスを設計する上で、留意すべきポイントを整理していきます。
トークノミクス設計フロー全体図

トークノミクス設計のフローを並べると上図のようになります。
「経済圏のコンセプト設定」のところは、上の章で解説しましたので、ここからは「トークノミクス設計」について解説していきます。
具体的なTo Doの説明に入る前に、トークノミクス設計において押さえておくべきポイントについて、先に整理していきます。
①運営の収益ポイントを決めておく


まず、運営のキャッシュポイントをどこに作るのかを考えます。
上図は、ユーティリティートークンの基本的な流れと、運営の収益ポイントを整理した図です。
運営の収益ポイントは、「NFT売買手数料」と「ゲーム内消費における手数料」が大きくなります。具体的には、
- NFT一次流通売上
- NFT二次流通売買手数料
- ゲーム内消費における手数料 (ブリーディング手数料、Mint手数料)
- インフラ利用の手数料 (Wallet間の送金や、独自DEXのスワップ手数料)
などがあります。
※全体の収益に対する各収益ポイントの重要度はゲームシステムやトークノミクスの設計によって変わります。
Mint
NFTを新たに発行することを指し、Web3ゲームではキャラクターNFT同士を掛け合わせる等により、新たなNFTを生み出す手法を取ることが多くあります。
また、運営はMintを行う際の手数料徴収によっても収益を上げています。
例えば、Axie Infinityの売上の構成費は、ブリーディング手数料が9割・NFT売買手数料が1割となっています。
またSTEPNは、NFT二次流通の販売手数料を6%徴収していますが、2022年の第一四半期の売上は2680万ドル、第二四半期の売上は1億2250万ドルとなっています。
②発行トークンの組み合わせを考える

現在のトークノミクスの主流は、シングルトークンかデュアルトークンのどちらかです。(換金できないゲーム内通貨のカウントを除く)
シングルトークンは、ガバナンストークンやゲーム内通貨などを、1つのトークンに集約するモデルです。
シングルトークンの場合、トークンの価格が高すぎると、その価値の高さ故にユーザーは消費をためらいます。
逆に価格が低すぎると、ユーザーにプレイする動機を持たせることができません。
そこで、デュアルトークンを採用するゲームが増えていきました。
デュアルトークンの場合、一つはガバナンストークンとして、もう一つはゲーム内トークンであることが一般的です。
シングルトークン、デュアルトークンのそれぞれのメリットデメリットは、以下の表の通りです。
メリット | デメリット | 事例 | |
シングルトークン | ・設計がしやすい ・管理工数削減できる | ・資金調達がしにくい ・時価総額が上げづらい | ・JobTribes |
デュアルトークン | ・資金調達がしやすい ・時価総額を上げやすい ・エコシステムに複雑性を持たせやすい | ・ユーティリティが分散する ・管理工数が増える | ・Axie Infinity ・STEPN |
例えば、「JobTribes」はシングルトークン($DEP)で運営されています。
トークンの吐き出し量をDEPの価格に応じて調整しており、DEP価格の乱高下が起きにくい設計になっています。
一方のデュアルトークンは、Axie InfinityやSTEPNなどブリード機能を持つBCGによく採用され、ゲームの加速力を高めます。
しかし、エコシステムが複雑になる分、運営のオペレーションも複雑になります。
デュアルトークンでもシングルトークンでも、持続可能なトークノミクスを構築することはできます。重要なのは、トークンのアロケーションとそのユーティリティー設計です。(アロケーションについては後述)
③「経済的インセンティブ」につながらない消費の重要性

現在多くのBCGにおいて、トークンのユーティリティーのほとんどが、「Play to Earn」によるトークン獲得量を増やすための、経済的なインセンティブに紐づくもので構成されています。
「稼ぐ額を多くしたい」というのはユーザーの自然なモチベーションであり、トークンを消費する動機として強力です。
しかし、ゲームを攻略するユーザーが多くなればなるほど、その分毎日Mintされるトークン量も大きくなり、巨大な売り圧を生み出してしまいます。
持続可能な経済圏の維持するためには、「経済的なインセンティブにつながらない消費設計」が必要です。
★経済的なインセンティブにつながらない消費設計
☆自己顕示欲・承認欲求を満たせる要素(コレクティブル、スキン)
☆ゲームでの競争を有利に進められる要素(強化アイテム、時間短縮)
☆寄付やカーボンクレジットといった社会貢献的な消費
簡単に言えば『100万円課金したリターンが99万円以下でも納得できる設計』をする必要がある、ということです。
爆発的にユーザー数を伸ばしたSTEPNも、トークン獲得につながらない動機での消費がほとんど実装されていなかったため、ユーザーの大きな売り圧をカバーすることができなくなっています。(Legendaryのスニーカーや、パンダスキンなどの構想はあるが、大きくは機能していない)
④外部経済への接続による収益を確保する
「経済的インセンティブ」につながらない消費と同時に、外部経済への接続による収益の早期確保も想定しておく必要があります。
こちらもユーザーの売り圧をカバーするための、重要な買い圧の要素です。
★外部経済への接続による収益例
☆独自DEXの取引手数料
☆マーケットプレイスの売買手数料(該当プロジェクト以外)
☆ゲーム内への広告出稿料
☆ゲームキャラクターなどの物販
☆トークンの決済手段化(〇〇ポイントとの交換を可能にするなど)
多くのプロジェクトでは、ホワイトペーパーにその構想はあるものの、抽象度が高く「構想」に過ぎないものが多い印象です。
逆に、ここの外部経済からの流入資金を明確に作れるビジョンを示すことができると、プロジェクトへの信用度や期待値も高められます。
⑤課金によってどこまで強くなれるのか、のバランスを設計する
Axie Infinityはシーズンごとにカードの能力にバランス調整(スキルの効果が変わったり、攻撃力が変化したりする)が入る設計になっています。
Axie Infinityは、課金によってキャラクターを強くすることができず(オリジンからは変更)、純粋にパーティーの組み合わせとプレイヤーのスキルが勝敗を分ける仕様であったため、ゲームに参入する時期や投資額が勝敗に大きく影響しないゲームでした。
そのため、バランス調整に必然性があるゲームでした。
最初は運営からの一方的な変更のみでしたが、コミュニティからのアップデートへの批判もあったため、ユーザーからのヒアリングをした上で、調整期間を設けて調整をかけるようになりました。
一方で多くのBCGは、課金した額によって、高レアなNFTが入手しやすくなっており、従来のソシャゲ同様「課金しないと強くなれない」ことへの批判もあります。
これらのゲームは、一度高い金額を課金している分、Nerf(ナーフ)が起きる(=NFTの資産価値が下がる)と、ユーザーからの反感を買いやすいので注意が必要です。
BCGはユーザーの課金割合が従来のソシャゲよりも圧倒的に高くなります。
そのため、正式版のリリース後にゲームバランス調整を安易に行ってしまうと、ユーザーからの批判の声も多くなりやすい傾向にあります。
そのため、事前にバランス調整が入るポイントをホワイトペーパーなどに明記するなどして、明確にユーザーに認知してもらった上で、NFTを販売する必要があります。
⑥チーター対策をする
チーター
ゲームプレイの中で不正行為を行うことを「チート(cheat)」と呼びますが、このチート行為を行うユーザーをチーターと呼びます。
例えば体力が減らないようなチートツールを開発したり利用したりすることで、ゲームプレイを不正に有利に進めます。
従来のゲームにおいてもチーター対策は必要不可欠ですが、FTとNFTを使用したBCGではさらに重要度が高まっています。
チーターの存在によってゲームバランスが大きく崩れ、ユーザーのモチベーション低下を招くからです。
加えて、Botが行う大量のブリードなどによって、必要以上にNFTがMintされたり、トークンが利確されたりして、経済圏を崩壊させかねません。
トークノミクスの崩壊を防ぐためにも、チーター対策は開発スケジュールの初期段階に組み込んでおくことが推奨されています。
⑦法律や税制面を整備しておく
BCGの法整備は、まだ専門家によっても意見が分かれており、不透明な部分が多い状態です。
特に精査が必要になるのが、「景品表示法」と「賭博法」の2つです。
専門の弁護士とよく議論を重ねて、どこまで攻めた形をとるかなど、プロジェクト内での見解をまとめておく必要となります。
【STEP3】ガバナンストークンを設計する

ガバナンストークンの設計には、主に次の4点があります。
★ガバナンストークンの設計ポイント
- ユーティリティー
- アロケーション
- ロックアップ(ベスティング)
- 流動性提供
これらについて、ポイントを解説していきます。
ガバナンストークンのユーティリティーを設計する
ガバナンストークンは一般的に、その価値を時間の経過とともに高めていくため、デフレトークンとして発行上限を定めます。
デュアルトークンの場合、ユーザーに報酬を渡すためのトークンは、発行上限のないインフレトークンを使用し、プロジェクトの時価総額を高めていくためのトークンをガバナンストークンとして採用することが多いです。
ガバナンストークンは価値を高めていくために、なぜ長期保有すべきかを定義し、トークンの価値が高まるようなユーティリティーを設計することが大切です。
★ガバナンストークンの主なユーティリティー
- ガバナンス機能
- NFTおよびトークンのBurnや買い戻し
- ステーキング(将来的な売り圧を高めるため、局所的な対応の場合のみ推奨)
- ゲーム内における優遇条件(βの先行体験、特別アイテムの付与など)
- ブリードなどNFTのMint手数料
- ゲームアセットの購入(ガバナンストークンをNFT購入の通貨にするケースも)
Burn
Mintの対義語にあたり、発行済みのNFTを廃棄することを指します。
Mintでは手数料を取る代わりに、Burnする際には払い戻しや新たなNFTの配布が行われます。
ところでガバナンストークンが、実際に「ガバナンストークン」として機能して価格が大きく上昇している事例は、まだありません。
STEPNにおいても、GMTは本来であればガバナンストークンですが、ガバナンス機能は未実装であり、実際はユーティリティートークンとして機能しています。

逆にゲーム内(もしくは経済圏・プラットフォーム内)でのユーティリティーを持たないガバナンストークンは、価値を上昇させられずにいます。
アロケーションとロックアップ期間を考える
トークンアロケーションとは、プロジェクトの主要トークンを様々なステークホルダー(チームへの給与、大口・個人投資家へのプレセール、運営費、プレイヤーへの報酬など)に分配する際の比率を指します。
アロケーションのセグメントとして代表的なのは、以下の7つです。
1:トレジャリー(運営費、予備のプール)
2:運営チームへの報酬
3:アドバイザーへの報酬
4:投資家やVCへのプレセール
5:パブリックセール
6:ゲーム内報酬としての吐き出し
7:ステーキング報酬
これらの主要セグメントに、どこにどのくらいの配分で割り当て、どのくらいのロックアップをかけるのかが、ポイントになります。
GameFiの投資家は、プロジェクトのトークンアロケーションを見るとき、その分配比率やホルダーへのロックアップ期間から、そのプロジェクトの哲学や運営方針を汲み取ろうとします。
そのため、アロケーションの分配比率が偏っていたり、市場への供給スケジュールが無計画に作られていると、投資家からの評判が悪くなるだけでなく、ユーザーやコミュニティからの信用も失い、プロジェクト全体の崩壊につながりかねません。
※トークンアロケーションに関しては別記事「【GameFi銘柄TOP100を独自調査】トークアロケーションがプロジェクトの成功を決めてしまう理由」にて詳しく取りまとめております。
特に、プロジェクトチームやVCによる早期のトークン売却は、経済圏に対する大きな売り圧となり、コミュニティへのFUDを巻き起こす要因として警戒されています。
FUD
Fear(恐怖)、 Uncertainty(不安) 、 Doubt(疑念)の頭文字をとったマーケティング分野でよく利用される戦術の一つです。
ネガティブな噂によって、大衆を扇動してコントロールすることを指しています。
GameFiにおけるトークンアロケーションの傾向としては、以下のようなものがあります。
★GameFiにおけるトークンアロケーションの傾向
- 運営チームへの報酬は10%~20%程度
- 運営チームへのロックアップが短いと、長期的な成長を見越していないと疑われる
- コミュニティやゲーム内報酬への分配が厚い方が評価されやすい
- VCのロックアップが外れる時期と、ロードマップとの整合性を見られる
- GameFiのプロジェクトでは、1年のクリフと2-4年のべスティングを設けることが多い
ロックアップ
ロックアップ期間とは、トークン発行以降、投資家がトークンを売却できない期間のことです。
一般的には、数カ月から1年の間で設定されます。
ロックアップ期間が終了すると、ベスティング期間が開始されます。
例えば、STEPNのGMTは2022年5月に上場しましたが、TeamやAdvisorのべスティグが開始するのは、2023年の2月からとなっており、9ヶ月間のロックアップが設定されていることがわかります。
べスティング(権利確定)
ベスティングとは、アセット(多くの場合はトークン)がロックされ、一定期間をかけて段階的に解放されるプロセスのことです。
例えば、「1ヶ月ごとに10%ずつ解放していく」というべスティング期間を定めた場合、トークン保有者は全てのトークンを売却するのに10ヶ月かかります。
これによって、トークン保持者による権利確定後の売り圧を分散させ、トークン価格の下落を抑制できます。
クリフ
べスティング期間中に、同じ量を均等に配布していくのではなく、ある期間を過ぎた瞬間にまとまった量の権利を付与し、残りを段階的に配布していく、というやり方もあります。
例えば、トークン発行日の半年後に一括で30%の権利を付与し、残りの70%を、次の14カ月で毎月5%ずつ付与していく。といったやり方です。
この最初の6か月を「クリフ(=崖の意)」と呼び、この方式をクリフ・ベスティングと呼びます。
しかし、時代のトレンドは常に動いており、正解がないためチーム内でよく議論する必要があります。
流動性提供について
市場への流動性の提供方法は
- 運営が直接DEXに流動性を追加する
- ステーキングでコミュニティに追加してもらう
- 手数料などの収益の一部を流動性に追加する仕組みにする
といった方法があります。
チームに流動性提供に詳しいメンバーがいない場合、外部業者にマーケットメイクを依頼することも可能です。
【STEP4】トークンやNFTのユーティリティーを設計する


現在のBCGでは、収益性があるだけでは評価されなくなってきています。
【STEP2】でも述べたように、NFTの強化やMintなど、ユーザーの収益性を高めるためのユーティリティーだけでは、持続可能な経済圏を構築することができません。
トークンもNFTも、供給と消費(MintとBurn)のバランスを調整し、ユーザーが仮に経済的に損をしたとしても、満足のいく別の価値を提供できるよう、上手に設計する必要があります。
トークンやNFTの供給(Mint)方法

GameFiにおけるトークンの主な供給(Mint)方法は、ゲームプレイ報酬(Play to Earn)です。
上図は、トークンの獲得方法として代表的なものをまとめた図です。
ユーザーが、これらのゲームプレイを通じて獲得したトークンを、市場に売りステーブルコインなどとスワップして利確を行うと、トークンの価値が下がります。
一方のNFTの主な供給(Mint)方法は、運営からの一次販売(もしくはエアドロップ)やプレイヤーからの二次販売、ブリードや合成、ガチャがあります。
ブリードの収益性を高めることで、NFTの市場への供給量は増えていきますが、需要を超えた供給が行われるとNFTの価値が下がることになります。
そこで、供給されたトークンやNFTの価値が下がらないよう、あらかじめそれらを消費(Burn)する設計をトークノミクスに組み込む必要があります。
トークンやNFTの消費(Burn)方法
トークンやNFTの消費(Burn)設計は、トークノミクスにおいて最も重要なポイントです。
主に、「経済的インセンティブに紐づく」消費と、「経済的インセンティブに紐づかない」消費にわけられます。
▼「経済的インセンティブに紐づく」消費
- NFT生成(Mint、クラフト、ガチャ)
- NFT強化(レベル上げ、アイテムの合成など)
- NFT修理
▼「経済的インセンティブに紐づかない」消費
- スキンやコレクティブル目当ての消費(承認欲求)
- ゲームを有利に進めるための消費
「経済的インセンティブに紐づく」消費は、ユーザーの消費動機を促しやすい分、将来の売り圧を高めることになります。
STEPNは、「経済的インセンティブに紐づく」消費設計を非常に上手に行いましたが、「経済的インセンティブに紐づかない」消費設計に乏しく、ユーザーからの大きな売り圧に耐えうる経済圏を用意できませんでした。
トークンのユーティリティーだけでなく、トークン獲得の起点となるゲーム内アイテム(NFT)の消費設計も重要です。
- 低レアリティNFT同士での合成によって、高レアリティのNFTが手に入る
- NFTの使用回数や使用期間に限度を設けて、限度を超えると消滅してしまう
といった、消費設計が必要です。
また「経済的インセンティブに紐づかない」消費設計に関してですが、これらは全て既存のソーシャルゲームが行なってきた課金要素そのものと言えます。
Fortniteはキャラクターのスキン(見た目)への課金で大きな売り上げを上げています。その課金によってゲームの勝敗は左右されず、あくまでもプレイヤーの腕によって勝敗が左右するため、ゲームプレイが有利にならないものにユーザーが課金することが証明されています。
また任天堂のあつまれどうぶつの森』は、自分の作った部屋のデザインをフレンドに見てもらいたいというユーザーの欲求が、歴史的な大ヒットにつながっています。
マインクラフトやRobloxのような、UGC(user generated content)ゲームの設計も大いに参考になります。
トークノミクスのシミュレーション
MintやBurnの設計を考えるときは、実際にそれらの機能が実装された際のシミュレーションを行うことが重要です。
LGGでは、これらの割合をシミュレートする際に、Machinationsというツールを使ってます。
ユーザーが実際にゲームをする際の、トークンやNFTのBurn・Mint割合などを設定し、結果として生まれる買い圧・売り圧の規模から、最適なトークンの吐き出し量や、必要な新規ユーザー数などをシミュレーションしています。

上図はAxie InfinityをもとにMachinationsにてシミュレーションを行った例となります。
MachinationsによるAxie Infinityのシミュレーション例
- 1人のユーザーがAxie15体所有(スカラーを5人雇用)した状態でスタート
- 24ステップ目(24週間後)の結果
mintしたAxieのMP放出数:3体
利確SLP量:63,000
消費SLP量:1,500(1体当たりのMP放出コスト525SLP×3体≒1,500) - 利確SLP量を相殺するためには、MPに放出されたAxie120体(≒63,000 / 525)の買い手が必要ということが予測可能
※シミュレーター内の数値は、実際のゲームに近い値を使用しています。
※実際のゲーム機能を一部簡略化して再現しています。
また、STEPNの場合は、ユーザーが「Move to Earn」によって獲得したGSTを
- スニーカーやジェムのLvUp
- ミステリーボックスの開封
- スニーカーのMintや購入
などによって、どの程度消費して、どの程度USDCへ利確するのかなどを試算することができます。
Mint/Burn比率・トークン価格・新規エントリー数を調整する
また、MintとBurnは常に一対一になっているのが良いというわけではなく、ゲームのDAUによって流動的に調整が必要になります。
★フェーズごとの、Mint/Burn比率イメージ
①成長期:ややMint比率を大きくして収益性を高くし、新規ユーザーを積極的に呼び込む。この時期は、後続の新規ユーザーがNFTを積極的に買う可能性が高いため、BurnよりもMintの比率が高くても、経済圏が伸びやすい。
②安定期:早期参入ユーザーが、エンドゲームに近づいて来るタイミングで、利確を始めるフェーズです。この頃にはMintの比率を抑え、利確による売り圧をカバーするため、「外部経済との接続による消費」・「経済的なインセンティブにつながらない消費」の量が増えていく必要があります。
③減退期:新規ユーザーの流入が停滞し、NFT購入の買い圧が小さくなっていきます。この頃には、ロイヤリティの高いユーザーが、収益性よりもプレイ自体を重視している必要があり、Burn比率の方が高くなっている必要があります。
こういった、フェーズごとのMint/Burn比率を想定することに加え、トークン価格やNFT価格を調整する機能も導入を検討する必要があります。
例えば、Splinterlandsに代表されるようなソフトペッグ制度や、STEPNの「Dynamic Minting」などの動的なMintコスト調整機能などが挙げられます。
※Splinterlandsやソフトペッグに関する詳細は別記事「「SPLINTERLANDS」ソフトペッグを機能させるための「仕組み」と「課題」」をご覧ください。
※STEPNの「Dynamic Minting」に関する詳細は別記事「【永久保存版】STEPN経済圏の全て|成長と衰退の裏側」をご覧ください。
他には、新規ユーザーを招待制にし、急激な増加を防ぐことで需給のバランスを調整するオペレーションが求められることもあります。(ex. 運営からの招待コードの発行数を制限する、既存ユーザーからの招待コード発行にトークン消費やゲーム内スタミナ消費を要求する)
逆に、新規ユーザー獲得を加速させる方法として、NFTのレンタルによるユーザー同士のレベニューシェア機能(=いわゆるスカラーシップ)の実装があります。
ただし、NFTレンタル(スカラーシップ)は大きな売り圧を作る要素になるため、実装する際には必ず消費とセットで組み合わせる必要があります。
たとえば、スカラーは稼いだトークンでNFTを新規に購入しないと、利確をすることができないようにしたり、同一のスカラーを長期間雇うと、オーナーやスカラーの収益から一部税金として徴収され、NFTやトークンのバイバックに使われるようにしたりといったアイデアがあります。
【STEP5】ブロックチェーンとインフラの選定

最後にブロックチェーンとインフラの選定をします。
★ブロックチェーンとインフラの選定ポイント
- チェーン選定
- ウォレットの準備
- マーケットプレイスの準備
- オン/オフチェーンの使い分け
- アプリで展開するか、ブラウザで展開するか
チェーン選定

BCGを開発するにあたって、どのブロックチェーンを選択するのが一番良いのか?といった序列をつけることは、とても困難です。
例えば、STEPNによって利用者が急増したSolanaは、「DiscordやSlackを介した非常に強力なコミュニティと多くのサポートスタッフを配備しており、安価な取引コストと高速性を実現できている」というメリットがありますが、「過去に何回もトランザクションが詰まったことがあり、ハッキングの被害も受けている」というデメリットもあります。
これらのメリット・デメリットを考えながらチェーンを選択していく必要があります。
Game7がゲーム会社に向けて行った調査レポートでは技術的な特性やガス代はもちろんのこと、開発支援の有無やその内容が重要視されていることがわかりました。
★ゲーム会社がチェーン選択の時に重要視したポイント
- 技術的な特性(24%)
- トランザクション手数料(17%)
- 開発支援の内容(15%)
- チェーンのユーザー数(14%)
- その他(11%)
- インフラとしての使いやすさ(8%)
- 資金調達のしやすさ(6%)
- ユーザー視点でのはじめやすさ(5%)
これらの要素を複合的にみながら、自社のプロダクトにあったチェーンを選択する必要があります。
ウォレットの準備(カストディアル or ノンカストディアル)

仮想通貨のウォレットには、カストディアルウォレットとノンカストディアルウォレットがあります。
カストディアルウォレットは、秘密鍵を第三者が管理するもので、ノンカストディアルウォレットは自分で管理するものです。
GameFiプロダクトにおいては、主にカストディアルウォレットは、ゲーム開発会社が独自にウォレットを開発し、ユーザーの代わりにユーザーの資産を預かる形態を指します。
ノンカストディアルウォレットは、いわゆる「Metamask」や「Trust Wallet」などのサービスを組み込んだ形態を指します。
★カストディアル or ノンカストディアル
▼カストディアルのメリット
・ユーザーがウォレットについて詳しく学ばずに済み、導入の手間を省くことができる
・クリプトのリテラシーが低い一般ユーザーでも容易に扱うことができる
▼カストディアルのデメリット
・KYCが必要となる
・ユーザー資産を保有する責任を負う必要がある
▼ノンカストディアルのメリット
・ユーザーが完全にコントロールできるアセットになる(正式に所有権を与えることになる)
・ユーザーにWEB3に触れる機会を提供し、学習の促進になる
▼ノンカストディアルのデメリット
・オンボーディングのステップが増える(UXが悪くなる)
NFTマーケットプレイスの準備

NFTマーケットプレイスも、自前で用意するのか、サードパーティマーケットプレイス(OpenSea、Magic Eden、Fractalなど)を活用するのかの選択肢があります。
サードパーティマーケットプレイスのほとんどは、もともとゲーム用途ではなく、 PFP(Profile Pictures)やArt NFTに重点を置いて開発されているため、GameFiのマーケットプレイスは、ゲーム用に独自に開発している会社がほとんどです。
最初からマーケットプレイスを用意している場合もありますが、開発初期のプレセール時はサードパーティを使用し、本格リリースから独自マーケットプレイスを使用するケースも多く見られます。
独自のマーケットプレイスを作成した場合でも、ゲームユーザー以外へのNFT購入を促すために、サードパーティを活用するケースもあります。
STEPNは、SolanaのMagic Edenから、アプリ内マーケットプレイスに移行し、途中でOpenSeaにも接続しています。
オンチェーン・オフチェーンの使い分け

ゲームアクションに対して、どこのプレイまでオフチェーンで行い、どこのプレイをオンチェーン化するかを決めます。
Axie Infinityの場合は、日々のゲームプレイはオフチェーンであり、ブリードやNFT売買の発生時はオンチェーン(Ronin ネットワーク)で行われています。

STEPNの場合は、ゲームプレイやMintはオフチェーン(Spending)、Walletに移した以降は全てオンチェーンになっています。

ゲームをアプリでリリースするか、WEBブラウザでリリースするか

アプリストアを通じて展開する場合は、ユーザーがスマホでもプレイできるようになります。
多くのユーザーにリーチしやすくなる一方で、AppleやGoogleの承認が必要となり、プラットフォーマーの権限でBANされるリスクもあります。
一方、WEBブラウザでの展開であれば、プラットフォーマーの承認を得る必要も、BANされるリスクもありません。
現状、WEBブラウザで展開したあとアプリに移行するケースか、最初からアプリで開発を進めるケースに二分されています。
トークノミクス設計まとめ

以上、トークノミクスの設計とブロックチェーン選択の一連の流れについてまとめてきました。
改めて整理すると、BCG開発プロセスに漏れがないか確認できます。
LGGでは、これらのプロセスに沿った開発支援、マーケティング支援も行っています。
LGGによるBCG開発のコンサルティングをご希望される場合は、お問い合わせページよりご連絡ください。