
Web3ゲームを開発するにあたって、トークノミクス設計とブロックチェーン選択が、これまでのゲーム開発のプロセスとは大きく異なります。
本記事では、Web3ゲーム開発におけるトークノミクス設計とブロックチェーン選択の流れを説明していきます。
※記事内における基礎的な用語の解説
Mint(ミント)
NFTやトークンを新規に発行すること。Mintされると市場への供給量が増えるため、価格が下がる。
Burn(バーン)
発行済みのNFTやトークンを焼却すること。Burnされると市場への供給量が減るため、価格が上がる。
FUD
Fear(恐怖)、 Uncertainty(不安) 、 Doubt(疑念)の頭文字をとった、ユーザーのネガティブな心理の総称。
スケーラビリティ問題
ブロックチェーン上の取引が増えすぎることで、取引処理の遅延が発生すること。
【STEP1】プロジェクトの全体設計を考える

はじめに、プロジェクトの全体像を設計します。
上図にある通り、最初にプロジェクトのミッションやビジョンを定義する必要があります。
- 「BCGやNFTを通してどんな世界を実現したいか」
- 「誰にどんな価値をどのように提供するのか?」
- 「そのために、なぜブロックチェーンが必要なのか?」
というプロジェクトの根幹の部分を定義する必要があります。
ミッション・ビジョンがなければ、ゲーム開発もトークノミクス設計も進められません。
そしてそのミッションやビジョンを実現させていくために、どのようなゲームを作り、ゲームをどのような順序で展開し、ユーザーを獲得して売り上げを上げていくのかの戦略を策定します。
特に『ゲームの企画』と『トークノミクス設計』は、切っても切り離せない関係にありますので、並行して進めていく必要があります。

トークノミクスの設計にあたっては上図の流れで進めていきます。
何のためのトークノミクスなのかを考える

現在、BCGにも「ゲームとしての面白さ」が求められていますが、面白いゲームを作ることだけが目的なら、わざわざBCGにする必要はありません。
そこで、BCGを開発する上では、『どうしてWEB2のゲームではダメなのか?』を考えることが大切です。
トークノミクスを設計することによって実現できることはさまざまです。
★トークノミクスによって実現できること
▼運営側における価値
1:資金調達(トークンやNFTのセール)
2:集客コストの抑制(経済的インセンティブによる集客など)
3:新規層の獲得(従来のゲーマー層に当てはまらない層へのアプローチ)
4:キャッシュポイント増加による売上向上 (NFT売買による売上・収益)
▼ユーザー側における価値
1:独自経済圏の創出(ゲームと実経済を繋げる・複数ゲームでの経済圏構築)
2:新しいユーザー体験の創出(NFTによる所有感、スカラーシップ)
3:経済的インセンティブによる行動の動機付け(いわゆる「X to earn」)
Axie InfinityやSTEPNなどは、「Play to Earn」という経済的インセンティブ(特にブリードによる収益)によって、特に大きな広告を打たずとも100万人規模のDAUを獲得することに成功しています。
また「Move to Earn」や「Sleep to Earn」に代表される「X to Earn」のプロジェクトは、人々の行動の習慣化に強力な影響を与えることができます。
これらのトークノミクスによって実現できることが、プロジェクトのミッション実現において、必須であること(=既存のWEB2の技術だけでは実現できないこと)がとても大切です。
【事例】PlayMining経済圏(DEA社)のミッションとトークノミクス

Digital Entertainment Asset(以下、DEA社)は『WEB3を活用し、誰もが未体験の”新しいエンターテイメント”を世界へ届ける』ことをミッションに、事業のバリューとして次の3つを掲げています。
- 新しいエンターテイメント体験を追求する
- クリエイターへの経済的インセンティブをエンパワーする
- 世界に対する Social Impact を実現する
DEA社はこれらを実現するためにブロックチェーン技術を活用し、トークノミクスに落とし込んで、持続的で安定した経済圏の構築を目指しています。
DEA社はWeb2の技術では提供できなかった、新しいエンターテイメント体験の創出のために、ブロックチェーンを導入しています。
つまり、上の「3つのバリューの実現」ために、ブロックチェーン技術を用いる必要があるのであって、稼げるゲームを作るためにブロックチェーン技術を使っているわけではない、ということです。
(PlayMining経済圏の詳細については『PlayMining経済圏の調査レポート』をご覧ください。)
【STEP2】トークノミクスを設計する時のポイント

次に、実際にトークノミクスを設計する上で、留意すべきポイントを整理していきます。
トークノミクス設計のフローを並べると上図のようになります。
「経済圏のコンセプト設定」のところは、上の章で解説しましたので、ここからは「トークノミクス設計」について解説していきます。
具体的なTo Doの説明に入る前に、トークノミクス設計において押さえておくべきポイントについて、先に整理していきます。
①運営のキャッシュポイントを決めておく

まず、運営のキャッシュポイントをどこに作るのかを考えます。

上図は、ユーティリティートークンの基本的な流れと、運営の収益ポイントを整理した図です。
運営の収益ポイントは、「NFT売買手数料」と「ゲーム内消費における手数料」が大きくなります。具体的には、
- NFT一次流通売上
- NFT二次流通売買手数料
- ゲーム内消費における手数料 (ブリーディング手数料、Mint手数料)
- インフラ利用の手数料 (Wallet間の送金や、独自DEXのスワップ手数料)
などがあります。
各収益ポイントの重要度はゲームシステムやトークノミクスの設計によって変わります。
例えば、Axie Infinityの売上の構成費は、ブリーディング手数料が9割・NFT売買手数料が1割となっています。

またSTEPNは、NFT二次流通の販売手数料を6%徴収していますが、2022年の第一四半期の売上は2680万ドル、第二四半期の売上は1億2250万ドルとなっています。
②発行トークンの組み合わせを考える

現在のトークノミクスの主流は、シングルトークンかデュアルトークンのどちらかです。(換金できないゲーム内通貨のカウントを除く)
シングルトークンは、ガバナンストークンやゲーム内通貨などを、1つのトークンに集約するモデルです。
シングルトークンの場合、トークンの価格が高すぎると、その価値の高さ故にユーザーは消費をためらいます。
逆に価格が低すぎると、ユーザーにプレイする動機を持たせることができません。
そこで、デュアルトークンを採用するゲームが増えていきました。
デュアルトークンの場合、一つはガバナンストークンとして、もう一つはゲーム内トークンであることが一般的です。
シングルトークン、デュアルトークンのそれぞれのメリットデメリットは、以下の表の通りです。
メリット | デメリット | 事例 | |
シングルトークン | ・設計がしやすい ・管理工数削減できる |
・資金調達がしにくい ・時価総額が上げづらい |
・JobTribes |
デュアルトークン | ・資金調達がしやすい ・時価総額を上げやすい ・エコシステムに複雑性を持たせやすい |
・ユーティリティが分散する ・管理工数が増える |
・Axie Infinity ・STEPN |
例えば、「JobTribes」はシングルトークン($DEP)で運営されています。
トークンの吐き出し量をDEPの価格に応じて調整しており、DEP価格の乱高下が起きにくい設計になっています。
一方のデュアルトークンは、Axie InfinityやSTEPNなどブリード機能を持つBCGによく採用され、ゲームの加速力を高めます。
しかし、エコシステムが複雑になる分、運営のオペレーションも複雑になります。
デュアルトークンでもシングルトークンでも、持続可能なトークノミクスを構築することはできます。重要なのは、トークンのアロケーションとそのユーティリティー設計です。(アロケーションについては後述)
③「経済的インセンティブ」につながらない消費の重要性

現在多くのBCGにおいて、トークンのユーティリティーのほとんどが、「Play to Earn」によるトークン獲得量を増やすための、経済的なインセンティブに紐づくもので構成されています。
「稼ぐ額を多くしたい」というのはユーザーの自然なモチベーションであり、トークンを消費する動機として強力です。
しかし、ゲームを攻略するユーザーが多くなればなるほど、その分毎日Mintされるトークン量も大きくなり、巨大な売り圧を生み出してしまいます。
持続可能な経済圏の維持するためには、「経済的なインセンティブにつながらない消費設計」が必要です。
★経済的なインセンティブにつながらない消費設計
☆自己顕示欲・承認欲求を満たせる要素(コレクティブル、スキン)
☆ゲームでの競争を有利に進められる要素(強化アイテム、時間短縮)
☆寄付やカーボンクレジットといった社会貢献的な消費
簡単に言えば『100万円課金したリターンが99万円以下でも納得できる設計』をする必要がある、ということです。
爆発的にユーザー数を伸ばしたSTEPNも、トークン獲得につながらない動機での消費がほとんど実装されていなかったため、ユーザーの大きな売り圧をカバーすることができなくなっています。(Legendaryのスニーカーや、パンダスキンなどの構想はあるが、大きくは機能していない)
④外部経済への接続による収益を確保する
「経済的インセンティブ」につながらない消費と同時に、外部経済への接続による収益の早期確保も想定しておく必要があります。
こちらもユーザーの売り圧をカバーするための、重要な買い圧の要素です。
★外部経済への接続による収益例
☆独自DEXの取引手数料
☆マーケットプレイスの売買手数料(該当プロジェクト以外)
☆ゲーム内への広告出稿料
☆ゲームキャラクターなどの物販
☆トークンの決済手段化(〇〇ポイントとの交換を可能にするなど)
多くのプロジェクトでは、ホワイトペーパーにその構想はあるものの、抽象度が高く「構想」に過ぎないものが多い印象です。
逆に、ここの外部経済からの流入資金を明確に作れるビジョンを示すことができると、プロジェクトへの信用度や期待値も高められます。
⑤課金によってどこまで強くなれるのか、のバランスを設計する
Axie Infinityはシーズンごとにカードの能力にバランス調整(スキルの効果が変わったり、攻撃力が変化したりする)が入る設計になっています。
Axie Infinityは、課金によってキャラクターを強くすることができず(オリジンからは変更)、純粋にパーティーの組み合わせとプレイヤーのスキルが勝敗を分ける仕様であったため、ゲームに参入する時期や投資額が勝敗に大きく影響しないゲームでした。
そのため、バランス調整に必然性があるゲームでした。
最初は運営からの一方的な変更のみでしたが、コミュニティからのアップデートへの批判もあったため、ユーザーからのヒアリングをした上で、調整期間を設けて調整をかけるようになりました。
一方で多くのBCGは、課金した額によって、高レアなNFTが入手しやすくなっており、従来のソシャゲ同様「課金しないと強くなれない」ことへの批判もあります。
これらのゲームは、一度高い金額を課金している分、Nerf(ナーフ)が起きる(=NFTの資産価値が下がる)と、ユーザーからの反感を買いやすいので注意が必要です。
BCGはユーザーの課金割合が従来のソシャゲよりも圧倒的に高くなります。
そのため、正式版のリリース後にゲームバランス調整を安易に行ってしまうと、ユーザーからの批判の声も多くなりやすい傾向にあります。
そのため、事前にバランス調整が入るポイントをホワイトペーパーなどに明記するなどして、明確にユーザーに認知してもらった上で、NFTを販売する必要があります。
⑥チーター対策をする
チーター
ゲームプレイの中で不正行為を行うことを「チート(cheat)」と呼びますが、このチート行為を行うユーザーをチーターと呼びます。
例えば体力が減らないようなチートツールを開発したり利用したりすることで、ゲームプレイを不正に有利に進めます。
従来のゲームにおいてもチーター対策は必要不可欠ですが、FTとNFTを使用したBCGではさらに重要度が高まっています。
チーターの存在によってゲームバランスが大きく崩れ、ユーザーのモチベーション低下を招くからです。
加えて、Botが行う大量のブリードなどによって、必要以上にNFTがMintされたり、トークンが利確されたりして、経済圏を崩壊させかねません。
トークノミクスの崩壊を防ぐためにも、チーター対策は開発スケジュールの初期段階に組み込んでおくことが推奨されています。
⑦法律や税制面を整備しておく
BCGの法整備は、まだ専門家によっても意見が分かれており、不透明な部分が多い状態です。
特に精査が必要になるのが、「景品表示法」と「賭博法」の2つです。
専門の弁護士とよく議論を重ねて、どこまで攻めた形をとるかなど、プロジェクト内での見解をまとめておく必要となります。
【STEP3】ガバナンストークンを設計する

ガバナンストークンの設計には、主に次の4点があります。
★ガバナンストークンの設計ポイント
1. ユーティリティ
2. アロケーション
3. ロックアップ(ベスティング)
4. 流動性提供
これらについて、ポイントを解説していきます。