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【Web3資本政策】調達方式のトレンドとトークンキャップテーブル設計の考え方

資金調達が、起業もしくは新規プロジェクトの成否を分ける重要なポイントであることは言うまでもありませんが、Web3プロジェクトの資金調達はWeb2のそれよりも考慮すべことが多く、多くのWeb3起業家や事業責任者がぶつかる壁の一つになっています。

特に、トークンでの資金調達ができるようになったことが大きく、web2での資金調達に慣れていても、以下のような要素でつまづいてしまいます。

  1. 契約形態への理解
  2. トークンキャップテーブルの設計
  3. デューデリジェンスへの対応

また、仮に資金調達ができそうであっても、出資してもらう会社の選定に悩むケースもあります。

Web3事業に投資される資金は年々増えており、出資を受けやすくなってはいるものの、web3事業に対する目利きができない投資家が多く、出資を受けることで相乗効果が生まれる投資家を選定しづらいのです。

出典:https://www.forbes.com/sites/rahulrai/2022/01/02/an-overview-of-web3-venture-capital-activity-in-2021/?sh=12e0a37c1f16

そこで本レポートでは、Web3プロジェクトの資金調達をするに当たり押さえておくべき以下の情報について解説いたします。

  • 資金調達形態とトレンド
  • トークンキャップテーブル設計の考え方
  • デューデリジェンスチェックの対策
  • 投資家選定の視点

本記事の内容は、専門家と相談して資本政策を策定する際の議論の土台としてお使いください。

本レポートのポイント

シード期の資金調達の主流はSAFE + トークンワラント
・Token cap tableのチームと投資家への分配率は事業計画とセットで考える
・デューデリジェンスは、プロジェクトの進行度合いによって求められる情報が変化する
国内より海外の投資家を選ぶ

※本レポートは、情報提供のみを目的としており、法的なアドバイスを提供するものではありません。

シードファイナンス形態のトレンドはSAFE+トークンワラント

Web3プロジェクトのシード期における資金調達の形態にはいくつかの種類があり、それぞれの契約書がテンプレートとして開発されています。

Web3プロジェクトのシード期における投資用テンプレート

1. SAFE(Simple Agreement for Future Equity):株式での資金調達
2. SAFT(Simple Agreement for Future Tokens):トークンでの資金調達
3. SAFTE(Simple Agreement for Future Token or Equity):株式もしくはトークンでの資金調達
4. SAFE+トークンワラント:株式 + トークンでの資金調達

これらのテンプレートは、資金調達の手段が株式からトークンに変わり、トークンでの資金調達に対する法整備がなされる過程で、それらに対応するために開発されてきました。

現在の主流はSAFE+トークンワラントですが、現在に至るまでの歴史と、その過程で開発されてきた他の契約形態を理解することは、契約形態を決めるうえで重要な参考情報になります。

そこで、まずはSAFE+トークンワラントの詳細を説明し、その上でSAFE+トークンワラントに至るまでの歴史と他の契約形態についても解説いたします。

SAFE+トークンワラントとは?

SAFE+トークンワラントは、株式とトークンの両方で資金調達する方法であり、Web3プロジェクトの資金調達の主流になっています。

株式での資金調達契約であるSAFEに加え、サイドレターとしてトークンでの資金調達であるトークンワラントを締結します。

SAFE+トークンワラントは、トークンでの資金調達を行いたいと考えた時に利用する契約テンプレートですが、なぜトークンだけでなく株式でも調達しなければならないのでしょうか?

それは、トークンのみで資金調達を行う際は、トークンが証券とみなされ、トークン発行そのものが許可制になるという問題があったためです。

SAFE+トークンワラントを理解するには、SAFEとトークンワラントの両方への理解が必要になりますので、それぞれについて解説いたします。

サイドレター

正式契約書締結後に契約変更や更新があった場合に、契約書の追記・修正内容について記載した書面のこと。web3業界では「トークン・サイドレター」と呼ばれ、一般的には企業が株式と共に発行するトークンの予約権について定めた書面のことを意味します。

SAFE(Simple Agreement for Future Equity)とは?

SAFEは、株式での資金調達に用いる契約形態であり、2013年に米国のVCであるY combinatorにより開発されました。

その場で株式を購入するのではなく、一定規模のシリーズファイナンスが実行された際に株式を割安で購入できる権利を約束する契約(日本でいうところの新株予約権)であり、いわゆる「コンバーティブル投資手段」の一つです。

SAFEには、4種類のテンプレートが存在します。

SAFEの4種類のフォーマット

・Discount Rateなし & Valuation Capあり
・Discount Rateあり & Valuation Capなし
・Discount Rateあり & Valuation Capあり
・Discount Rateなし & Valuation Capなし(MFN条項あり)

Discount RateとValuation Capについては以下の通りです。

Discount Rate Valuation Cap
次回のシリーズファイナンス時に株式転換する際の割引率 SAFE締結者との間で取り決めた仮想のValuationの上限

Discount Rateが80%で、次回のシリーズファイナンス時の株価が$1.0だった場合、SAFE締結者はシリーズファイナンス時に1株あたり$0.8で株式転換することになります。

Valuation Capが1.0$で、次回のシリーズファイナンス時の株価が$2.0だった場合、SAFE締結者はシリーズファイナンス時に1株あたり$1.0で株式転換することになります。

Valuation Capは、SAFE締結時に予測していた次回シリーズファイナンス時の株価よりも高い株価がついた場合に、投資家が購入できる株数を担保するための規定になります。

例えば、次回シリーズファイナンス時の株価を$1.0と想定してSAFEを締結したものの、実際は$2.0だった場合、購入できる株数は想定の半数になってしまいます。

これを防ぐために、次回シリーズ時の株価の上限を仮想で決めてしまい、実際にそれ以上の株価がついても、SAFE締結時に仮想で決めた株価の上限で計算して転換するというものです。

Discount Rateあり & Valuation Capありの場合の計算

Discount RateとValuation Capの両方が適応されている場合、それぞれの条件で計算をして、投資家に有利な条件=1株あたりの価格が低く計算される方が適応されます。

Discount Rateなし & Valuation Capなし(MFN条項あり)の場合

珍しいパターンではありますが、Discount RateもValuation Capも盛り込まれていない場合、MFT(Most Favored Nation:再掲待遇条項)が適応されます。

これは、もっと有利な条件で契約する投資家が現れた場合、それに合わせて条件を自動的に更新するというものです。

トークンワラントとは?

次回のシードステージで、株式を特別価格で購入する権利(SAFE)に加え、トークンが発行された場合は追加でトークンも特別価格で購入する権利です。

投資家がトークンワラントを通じて付与されるトークン量は、SAFEを通じて付与された株式に比例します。
具体的には、以下の3つの形態があります。

1. 法人持分方式

例:会社がトークン供給量の25%を取得し、投資家が会社の株式の10%を所有し、投資家は完全に希釈されたトークン供給量の2.5%(10%*25%)を購入することができます。

会社は、受け取るトークン量について、より多くの裁量を持ちますが、その分、投資家の比率も高くなります。

2. 完全希釈化供給方式

例:投資家が会社の株式の5%を所有している場合、投資家は完全に希釈されたトークン供給量の5%を購入することができます。

投資家は、トークン供給のより大きなシェアを得ることができ、一定の割合が保証されます。

3. 転換比率方式

投資家の株式持分比率に対する転換比率を、株式:トークン = 2:1といった具合に定めます。

例:投資家が10%の株式を所有している場合、50%、33%、25%などの転換率を定めると、それぞれ総発行量の5%、3.3%、2.5%のトークンを購入することができます。

同じ金額の資本に対して、投資家に与えるトークンの量は少なくなりますが、投資家は一定の割合で保証されます。

SAFE+トークンワラントが開発されるまでの歴史

SAFE+トークンワラントが開発されるまでにSAFE、SAFT、SAFTEが生まれており、以下の順に開発されました。

これらは、法整備に対応する過程で開発されてきた契約であり、その経緯を理解することで、各種契約の特徴をより深く理解することができます。

① SAFE

SAFEは、米国のスタートアップの投資用テンプレートとして最も利用されていたConvertible Noteの進化版として開発されました(開発されたのは2010年ごろ)。

Convertible NoteもSAFEと同様に資金調達を簡便化することを目的に作られたものですが、SAFEが「転換権のついた株式」であるのに対し、Convertible Noteは「転換権のついた借金(債権)」という点が異なっています。

Convertible Noteは債権=借金なので、利子や返済期限に加え、投資家側に各種規制が発生したり、BSが悪化することにより追加投資が受けづらくなったりというデメリットがあり、事業化の頭を悩ませていました。

そこで、これらのデメリットを解消する目的で、借金という形態を取らずに同様の投資を受けられる契約として、SAFEが開発されました。

株式そのものではなく、株式を買う権利を購入するような内容にすることで、問題を回避しています。

SAFEは借金ではないので、利子も返済期限もありません。

Convertible Note SAFE(Convertible Equity)
債権(新株予約権付社債) 株式(新株予約権)
利子・返済期限あり 利子・返済期限なし

これらは米国の話ですが、日本においても日本法の下で設計が進んだ結果、Convertible Noteに対応するものとして新株予約権付社債が、Convertible Equityに対応するものとして新株予約権が、それぞれ活用されるようになりました。

国により事情は異なりますが、米国の場合、州によっては債権であることによる制約やデメリットが大きいため、SAFEが利用されることが多くなっています。

② SAFT

SAFTはSAFEを元に作られたトークン版SAFEのようなものであり、トークンが発行された際に好条件でトークンを購入できる権利を約束した契約書です。

トークンでの資金調達のために作られた初めての資金調達用テンプレートであり、2017年に作られました。

当時、トークンに関する法的な見解が整備されておらず、トークンを証券と同様の扱いをするか否か(つまり、発行に正式な手続きが必要かどうか)が定まっていませんでした。

トークンが証券に該当するとみなされた場合、そのトークンの発行には政府の承認が必要になり、簡単に発行することができなくなります。

そのためSAFTには、トークンを証券とみなされないようにするための工夫がなされています。

この点についての詳細を、証券とみなすか否かの判定に使うHowey Test(ハウイー・テスト)の概要とともに説明いたします。

Howey Test(ハウイー・テスト)の内容とSAFTで取られている対策

Howey Testでは、投資契約概念の要件を以下の4つに分け、4つ全てを満たすものを証券と判定します。

  1. 金銭の出資であって
  2. 共同事業からの
  3. 収益を期待して行われ
  4. 収益獲得が第三者の努力のみに依拠したもの

1と2については疑う余地がありませんが、3と4については議論の余地を残していました。

具体的な内容は、以下の通りです。

3. 収益への期待

セキュリティトークンのように、主な用途やマーケティング・販売時の謳い文句が値上がりによる収益を強調するような内容であれば、それは証券と同じ扱いだとみなされます。

ところが、ユーティリティトークンは、投機的な側面がある一方で、主な用途はネットワーク・サービスを利用するためのものであるとも言えるため、一概に「収益を期待したもの」とは言い難いという意見が出ました。

これに対し米国証券取引委員会は、ユーティリティトークンを「確実に証券である」とは言わないまでも、ガイドラインにて「単にトークンをユーティリティトークンと呼んだり、何らかの効用を提供するように構成したりするだけでは、そのトークンが証券でなくなることはない。」と記しています。

ただし、実際の判例としては、ニューヨーク連邦裁判にて執り行われた「Kikのトークン(Kin)が証券に当たるか否かの裁判」で、トークンとみなすとの判決が下されています。
参考:仮想通貨KINを有価証券と判断 NY連邦地裁が判決

4. 収益獲得が第三者の努力のみに依拠したもの

Web3の場合、ネットワークが十分に分散した状態であれば、収益はもはや第三者の努力に依存しないという考え方が議論の余地を残していました。

米国証券取引委員会の企業金融部門ディレクターは
「暗号資産がその成否について数人のプロモーターに依存する必要のないほど十分広範に使用されるようになれば、もはやその暗号資産は投資契約には該当しない」
との見解を述べています。

例えばビットコインの場合、ネットワークが十分に分散しており、もはや誰かの努力によって収益が見込めるレベルではないということから、有価証券とはみなされていません。

逆にプロジェクト初期のようにネットワークが不十分な段階では、第三者の努力によりトークン価格が影響を受けるため、トークンは証券とみなされます(実際に米国証券取引委員会の規制の対象になっています)。

そのためSAFTでは、ネットワークが広がっていないプロジェクト初期(SAFT締結時)ではトークンを発行せず、ネットワークが成熟したタイミングでTGEを行うことで、SECの規制から逃れられるように作られています。

しかし2020年に米国連邦裁判所が、「実際に分散化されているかどうかが重要」という見解を示し、TGE時点で十分に分散化しているとは言い難いプロジェクトについてはトークンを証券とみなすという事例が出てから、SAFTのスキームであれば安全とも言えなくなりました。

TGE (Token Generating Event)

トークンを発行して資金調達を行う方法のこと。ICO(Initial Coin Offering)と似ていますが、専門の機関がホワイトペーパーなどの資料を読み込んで、信頼に足ると判断したトークンのみがTGEとなります。

SAFTの需要は低下

上述の通り、トークンを証券とみなすという風潮が強まっており、SAFTの需要は減りました。

まだ、SAFTが全く利用されなくなったわけではありませんが、利用する場合はトークン発行のタイミングなど、注意が必要になりそうです。

③ SAFTE

SAFTEは、次回シリーズファイナンスもしくはトークンセールのタイミングで、株式かトークンのどちらかを好条件で購入できる権利を約束した契約書です。

SAFTEは、Colonyが資金調達の際に抱えた問題に対応する目的で開発されました。

Colonyは、シードキャピタルから調達した時、ネイティブトークンの発行を考えてはいたものの、法規制の観点からネイティブトークンを発行することが可能かどうかが分かりませんでした。

そこで、トークンセールを開催する場合は割引価格でトークンを、シリーズファイナンスを実行する場合は同じ割引価格で株式を調達できるような契約書として、トークンと株式の両方に対応できるようなものとしてSAFTEが開発されました。

④ SAFE + トークンワラント

上記のような経緯から、トークンでの資金調達のハードルは徐々に高くなっています。

一番のポイントは、トークンが証券とみなされてしまうという点で、シード期の資金調達では基本的にこれを回避する手立てがありません。(あくまで筆者の見解であり、詳細は専門家にご確認ください)

そのため、契約の大筋をSAFEによる株式での資金調達とし、トークンワラント(サイドレーター)という形で後々トークンが発行された場合にトークンを購入する権利を付与したSAFE+トークンワラントが主流となりました。

Dappsの資金調達は株式が主流になる?

上記の一連の流れの通り、トークンが証券とみなされるか否かの一番の判断軸は、収益獲得が第三者の努力のみに依拠しているか否かであり、それはつまり、ネットワークが十分に分散化しているかに依存します。

しかし、プロトコルレイヤーは分散化するのが良いとされる一方で、アプリケーションレイヤーは中央集権化した方が良いサービスを作れるという説もあり、その場合、収益が第三者の努力に依存してトークンが証券と見なされる可能性があります。

このあたりの解釈は法整備が進とともに固まってくると思いますが、事業に携わる人は注意を払う必要がありそうです。

トークンキャップテーブル設計の考え方

トークンキャップテーブルは、投資家が投資判断をするのに必要な情報を載せたものであり、SAFTやSAFE+トークンワラントのようなトークンでの資金調達の際に必要になります。

  • トークンをどれだけ発行し(発行枚数)
  • どのステークホルダーにどのような割合で(アロケーション)
  • どのような方法で分配するのか(契約形態・ロックアップなど)

中でも、アロケーションやロックアップの設定は重要なポイントであり、それゆえに事業家の頭を悩ませるポイントになっています。

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