
X2E(X to Earn)という「ゲームや日常行動をしながらお金を稼ぐ」新たなビジネスモデルが注目されています。
そのはじまりは、ゲームをしながらお金を稼げるP2E(Play to Earn)でした。
2018年にリリースされたWeb3ゲーム「Axie Infinity」は、東南アジアのユーザーが平均月収以上の収益を得られることで爆発的な人気となりました。
このP2Eの人気を受けて、「運動しながら稼ぐ」「眠りながら稼ぐ」などのX2Eプロジェクトが次々と生まれ、世界中で注目を集めています。
しかし、X2Eのビジネスモデルやこれまでの歴史を振り返ると「ポンジスキームではないか?」「本当にビジネスとして成り立つのか?」「将来的に行き詰まる可能性はないのか?」といった懸念の声も少なくはありません。
本記事では、X2Eが注目される理由や現状の課題を解説し、X2Eが将来どのような進化を遂げ、新たなビジネスモデルを生み出すのかについて考察していきます。
本記事で分かること
・X2Eのビジネスモデルと現状の課題
・X2Eが注目を集めている理由
・X2Eは今後どのように発展していくのか
この記事の目次
X2Eとは

X2E(X to Earn)とは、何か(X)をしながら(2/to)お金を稼ぐ(E/Earn)仕組みです。
XにはPlayやMoveなどが入り、ゲームや運動などの特定の行為をすることで、暗号資産を稼ぐことができます。
代表的なX2E
・遊びながら稼ぐ「Play to Earn」…Axie Infinity・Job Tribesなど
・動きながら稼ぐ「Move to Earn」…STEPN・Runblox・CaloRunなど
・眠りながら稼ぐ「Sleep to Earn」…SleeFiなど
・学びながら稼ぐ「Learn to Earn」…Let Me Speakなど
・読みながら稼ぐ「Read to Earn」…ReadOnなど
X2Eの歴史は、ゲームをしながらお金を稼ぐP2E(Play to Earn)から始まり、新たな経済圏が生まれました。
ではここでX2Eのビジネスモデルをみていきます。
X2Eのビジネスモデル
X2Eは、ユーザーの投資金や外部からの資金の一部を報酬として、ユーザーに支払うビジネスモデルです。
P2Eを例にして具体的に解説していきます。
※P2Eは「Web3ゲーム」「ブロックチェーンゲーム(BCG)」「GameFi」などともいわれ、ブロックチェーン上で稼げるゲームを指します。

ソーシャルゲームに代表される従来のWeb2ゲームでは、ゲーム内通貨やアイテムはゲーム内でしか使用できませんでした。
また、アイテムなどの所有権はゲーム会社にあり、ユーザー間で取引することが禁止されていました。
これがP2Eでは、ゲーム内通貨は暗号資産となり、取引所で法定通貨に換金することができるようになりました。
加えてゲームのアイテムやキャラクターは、NFTとしてユーザーが所有権が持つことになったのです。
ここにスマートコントラクト技術を用いてユーザー間取引のうちの何%かをゲーム会社に入るように設定することで、RMT(リアルマネートレード)を可能にしたのです。
ユーザーとゲーム会社の双方向に資金が流れることで、従来以上の活発な経済圏を築くことができます。
このP2Eの仕組みを、Move、Sleep、Learnなどの行動へと発展させたのがX2Eプロジェクトです。
これまでとは一線を画す新しいビジネスモデルは、今後さまざまな分野に応用できるのはないかと期待されています。
X2Eが注目を集める理由
「稼ぐ」という動機がユーザーの行動に影響を与えることを証明
X2Eの魅力は、「ゲームや日常行動をするだけでお金が稼げる」という点にあります。
「お金を稼ぐ」という動機が、ユーザーを強く惹きつけ、行動に大きな影響を与えることが、X2Eを通じて証明されました。
その代表的な例は、ベトナムのSkyMavis社が開発したP2Eゲーム「Axie Infinity」です。
P2Eによる集客効果・収益効果を証明したAxie Infinity

Axie Infinityは、たまごっちやポケモンと同じように「Axie(アクシー)」と呼ばれるモンスターを購入し、育成や繁殖、対戦を行うゲームです。
平均月収が5万円以下といわれるフィリピンで、同ゲームをプレイして月収以上の報酬を得る人が続出し、ゲームで生計を立てる人が現れました。
この事実は世界に衝撃を与え、2021年にYouTubeで配信された「ゲームをして稼ぐ:フィリピンのNFTゲーム」というドキュメンタリーも作られるほどでした。
高齢者などこれまでゲームとは無縁だったユーザー層も取り込み、東南アジアを中心に爆発的な勢いでユーザーを獲得していったのです。
その結果、SkyMavis社は最盛期の時価総額が3兆円にも達し、「Axie Infinity」というたった1つのタイトルで世界のゲーム会社のトップ5に入る勢いを見せたのです。

これは任天堂の時価総額の半分以上です。
この一連の流れにより、P2Eにおいて「稼ぐ」というインセンティブが持つ大きな可能性を示しました。
ゲームは一般ユーザーにとって身近で手に取りやすいジャンルです。
スマートフォンの広がりにより、世界の約30億人がゲームで遊んでいると言われてます。
そこに「稼ぐ」という経済的なインセンティブが加わることで、非ゲーム層へのエンゲージメントの可能性が証明されたのです。
STEPNが示した習慣化させる経済的インセンティブの力

Axie Infinityにより注目を受けたP2Eは、X2E(X to Earn/〜しながら稼ぐ)という新たなビジネスモデルへ発展していきました。
その中で特に大きな注目を集めたのが「STEPN」です。
STEPNは指定された速度で移動することで、暗号資産を獲得することができます。
P2Eでは「ゲームをプレイする時間」が必要でしたが、STEPNは日常生活の中で稼ぐことができる点が、普段ゲームをしない層にも受け入れられ、より広く波及しました。
STEPNの月間アクティブユーザー数は2022年5月に約70万人を記録し、多くのユーザーに運動を習慣化させることに成功しました。
これにより「運動すると健康に良い」というよりも「運動すると稼げる」という動機付けの方が、ユーザーへの行動を促す強いインセンティブになることがわかったのです。
このSTEPNの影響を受けたX2Eプロジェクトの多くは、日常生活と紐づく行動の中に稼ぐ要素を加えようと試みたものです。
X2Eのコンセプトは、私たちの日常生活に新たな要素を追加するとともに、新しい経済圏を創出する可能性があることを示しました。
(STEPNの詳細は『【永久保存版】STEPN経済圏の全て|成長と衰退の裏側』の記事をご覧ください。)
X2Eの歴史における2つの転機とその影響

X2Eの歴史の中で、特に大きな注目と新たな概念を呼び起こした出来事について深掘りしていきます。
- Axie Infinityのスカラーシップ制度
- フィットネスと環境問題を結びつけたSTEPN
X2Eを知る上で、この2つのプロジェクトの取り組みを理解しておくことが大切です。
(Web3ゲームの歴史と変遷の詳細は『【歴史に学べ!】Web3ゲームの発展と失敗の変遷総まとめ』をご覧ください。)
Axie Infinityのスカラーシップ制度
スカラーシップとは、NFTの所有者(オーナー/マネージャー)がNFTを貸し出し、借りた人(スカラー)が稼いだトークンを所有者と借りた人で分配する仕組みです。
Axie Infinityは、ゲームを始めるためにアクシーと呼ばれるモンスターを購入する必要があります。
2021年夏頃にはその購入費用が10万円程となっていました。
当時Axie Infinityの人気が高まりつつあったフィリピンの平均月収は5万円以下でした。
そのため、多くの人々がモンスターを購入できず、ゲームを始めることができないという問題がありました。
そこで生まれたのがスカラーシップ制度です。

富裕層のNFT所有者が低所得の人たちにアクシーを貸し出して、代わりにプレイしてもらうのです。
2021年の夏時点では1ヶ月で15万円ほど稼ぐプレイヤーが続出しました。
そのうちの半分がオーナーの取り分としてNFT所有者に回収されることになっても、残りの7.5万円がスカラーの取り分となり、フィリピンの平均月収を上回ったのです。
スカラーシップ制度には多くの希望者が殺到して、数十倍の倍率にもなりました。
この制度が広がるにつれて、事業化の動きも出てきました。
スカラーを雇うゲームギルドが設立され、多くの低所得の人たちに雇用を提供しています。
今や、世界中に約25,000のゲームギルドが存在しています。
Axie Infinityが発明したスカラーシップ制度は、「非ゲーム層にゲームへの間口を広げた」いう点で、Web3ゲームにおける重要な転換点となりました。
フィットネスと環境問題を結びつけたSTEPN
運動しながら稼ぐことのできる「STEPN」は、収益性の高さに注目が集まりましたが、プロジェクトの背景にある崇高なビジョンや、それを現実にするために設計された経済システムも高く評価されたプロジェクトです。
(STEPNの詳細は『【永久保存版】STEPN経済圏の全て|成長と衰退の裏側』の記事をご覧ください。)
「運動」をプロジェクトにすることで、人々の健康改善を促進すると同時に、二酸化炭素排出量が多い交通手段から徒歩へ置き換えることで、カーボンニュートラルな世界を実現しようと取り組んでいます。

収益の一部を継続的に二酸化炭素除去のために活用し、2ヶ月で1万トン以上の炭素排出量を削減することに貢献しました。
このようにSTEPNはフィットネスを通じて収益を得られる仕組みを提供し、持続可能性のある経済圏をミッションに掲げることで、Web3に馴染みのなかった多くの人々を取り込みました。
STEPNの人気を受けて、類似したプロジェクトが次々に立ち上がりましたが、その多くがSTEPNほどの人気を維持することはできませんでした。
それはSTEPNが、世界の人々の健康や環境問題の改善を繰り返し伝えることで、「”稼ぐこと”への人々の抵抗や罪悪感を減らした」という点が大きく作用していると考えられます。
これはWeb3的な視点であり、プロジェクトの企画やミッションが重要であることを示したのです。
(プロジェクトの企画の立て方については『「企画」が9割|冬の時代でウケるには「なぜWeb3なのか?」の信念が必要だ』の記事をご覧ください)
X2Eが抱える「持続可能性」という課題
X2Eは新しいビジネスチャンスとして注目されていますが、現在まで成功したプロジェクトが存在してないのが現状です。
Axie InfinityやSTEPNのように爆発的な人気を集め、多くのユーザーを獲得したプロジェクトでも、その後は経済圏が崩壊するなどの課題を抱えています。
X2Eの課題は持続性のある経済圏の構築です。
その要因となっている主な課題は以下の2点です。
- ポンジスキーム的な仕組み
- インフレーションによる通貨価値の暴落
1.ポンジスキーム的な仕組み
X2Eのビジネスモデルは潜在的にポンジスキームの要素を抱えています。

ポンジスキームとは
ポンジスキームとは、新規参加者からの資金を利用して、以前参加していた人々に対して報酬を支払うことで、参加者からの資金を不正に横領する詐欺的なビジネスモデルのことです。「自転車操業詐欺」とも呼ばれ、いずれ破綻することを前提に行われています。
これまでのX2Eは、新規ユーザーの投資金を既存のユーザーが報酬として受け取ることで成り立つ、ポンジスキーム的構造となっていました。
そのような構造となってしまった理由には、外部からの資金流入が難しいという問題がありました。
初期のX2EはEarn(稼ぐ)の原資となる資金流入が、ユーザーのNFT購入に限られていました。
それではユーザーが支払った分しか収益を返せないため、外部経済圏からの資金を獲得する必要がありました。
解決策として、広告を取り入れる方法が模索されましたが、2つの大きな障壁に直面しました。
1つ目の障壁は、「ゲームに参加するユーザー数(DAU数/デイリーアクティブユーザー数)が不足していた」ことです。
Web2のゲームに比べ、X2Eは初期投資が必要であったり、認知度が低いためにユーザーの参入障壁が高く、広告主が望むDAU数を確保することが難しいという現状がありました。
このDAU数を確保するためには、WebやSNS広告などを利用して外部へアピールする必要があります。
そこで出てくるのが2つ目の障壁である「広告の規制」です。
X2Eは暗号資産を扱うため、「稼げる」「暗号通貨」といった文言を使うことが規制されています。
そのため、TwitterやInstagram、TikTokなどのソーシャルメディアでも、暗号資産関連の広告は制限されています。
こうしたことから、X2Eユーザーを獲得するための効果的な広告を打つことができず、DAU数が伸び悩み、広告が回らないという負のループに陥ってしまいました。
また、ユーザーがX2Eに参入する一番の目的は収益性であり、DAU数が増加するにつれて売り圧(トークンを換金すること)が大きくなっていくという問題もありました。
例えば、Axie Infinityでは最盛期のDAU数が200万人を超えたものの毎日利確されるため、ゲーム内広告だけではその売り圧を支えることができなかったのです。
このようにX2Eは、新規ユーザーの投資金で既存ユーザーの報酬を買い支えていく他なく、ポンジスキーム的な経済構造となってしまったのです。
2.インフレーションによる資産価値の暴落

Axie InfinityやSTEPNの経済圏が崩壊した要因の1つは、インフレによるNFTの暴落です。
NFT価格の下落が起こる原因として、供給量が需要量を上回ることが挙げられます。
例えばSTEPNでは、新規ユーザーの参入が停滞すると、既存プレイヤーが靴のNFTを投げ売りしたため、マーケットに靴NFTが溢れ、供給量が増えました。
その結果、靴NFTの価格が下落したのです。
(STEPNの経済圏については『【永久保存版】STEPN経済圏の全て|成長と衰退の裏側』で詳しく解説しているのでご覧ください。)
このような状況下ではトークン価格も下落する傾向があるため、両者が相互に影響するという負のスパイラスに陥って、経済圏の崩壊へとつながったのです。
これまでのX2Eプロジェクトは、トークンを消費するポイントが経済的なインセンティブに紐づいていたために、すぐに利確されて売り圧が買い圧を上回り、インフレーションを起こしてしまったのです。