
Web3ゲームにおいてはトークノミクス設計が開発時の重要課題となります。
Web3ゲームは、外部経済や内部の需給バランスによって、FTやNFTの価格が変動する要素を内包しているため、価格が乱高下しないようにトークノミクスを設計する必要があるためです。
Web3ゲームはまだ歴史が短く、その歴史も成功と失敗の繰り返しで、「これがトークノミクスの正解!」という型がありません。
ただ、多くのWeb3ゲームが試行錯誤を重ねるなかで、トークノミクスで目指すべき一定の指標は徐々に見えつつあります。
本記事では、トークノミクスの重要性と設計上の基本的な考え方を説明していきます。
※記事内における基礎的な用語解説
Web3ゲーム
ブロックチェーン技術によりプレイして稼げるゲームの総称。対して、これまでのTVゲームやスマホゲーム全般はWeb2ゲームと呼ばれます。
(類語としてブロックチェーンゲーム・GameFi・NFTゲームという言葉もありますが、本記事ではWeb3ゲームで統一します。)
ユーティリティトークン
NFTのMintや売買、レベルアップのコストなど、ゲーム内でさまざまな用途を持つトークン。
Web2ゲームにおける「ゲーム内コイン」の役割を果たします。
ガバナンストークン
Web3プロジェクトの投票権の機能を持つトークン。実経済での「株式」のような役割を果たします。
Web3プロジェクトの投票機能のほか、ユーティリティトークンのような多様な機能を持たせたものもあります。
目次
なぜトークノミクスが重要なのか?

Web2ゲームとWeb3ゲームの違い
なぜトークノミクスが重要かは、Web2ゲームとWeb3ゲームを比較することで見えてきます。
Web2ゲーム
・ゲームの世界と現実世界は完全に分離。
・ゲーム内経済が現実経済に影響を与えることは(ほとんど)ない。
Web3ゲーム
・ゲームに「資産」という概念が存在。
・トークンやNFTによってゲーム内経済が現実経済とつながる。
これまでのゲームは、コインもアイテムも、全てゲーム内のものでしかありませんでした。
そのため、お金の流れは「ユーザーがアイテム購入のために課金をする」という一方向のみです。
ゲーム会社は売上を立てるために、「いかにゲームアイテムに課金させるか」(TVゲームの場合は「いかにゲーム機やソフトを購入してもらうか」)のみを考えればよかったわけです。
一方、Web3ゲームでは、アイテムやキャラがNFTとして「資産性」を持ちます。
資産である以上相互に売買が可能であり、現実経済と同様、需要と供給によって価格が決定されます。
加えて、トークンも需要と供給によって価格が変動します。
そのため、発行主体たるゲーム開発会社は需要と供給バランスを調整し、その値動きをコントロールする必要が出てきます。
このコントロールをいかに行うか、という課題がWeb3ゲームでは新たに生まれました。
このコントロール方法(供給量や供給タイミングなど)は、仕組みだけ作ってあとは市場の動きに任せる、といったやり方もあれば、開発会社が中央集権的に全てをコントロールする、というやり方もできます。
しかし、Web3の世界は自律分散を基本とし、中央集権であることを嫌います。
そのため、開発会社の介入を極力少なくする形での対応が必要になります。
ここで出てきた概念がトークノミクスです。
トークノミクスの設計が甘いと、Web3ゲームは致命的なダメージを受ける
トークノミクスの設計が甘いと、FTやNFT価格の調整機能がなく、非常にボラティリティが高い、価格変動の激しいゲームになります。
トークン価格が下落したことで損をするユーザーが大量に現れ、ゲームに対する不信感が募り、ユーザーの多くがゲームから離れていってしまいます。
ひとたび経済圏が崩壊し、ユーザーが離れてしまうと、そこからの復活は至難の業です。
実際にトークノミクスが不十分で崩壊したWeb3ゲームとして、「Pegaxy」の事例を見ていきましょう。
PegaxyはPegaと呼ばれる馬のNFTを走らせる対戦レース型のWeb3ゲームです。
馬を「ただ走らせる」だけで大きな利益が得られるとして、2022年1月から2月に大きな話題となりました。
しかし、高収益性を維持するだけのトークノミクスが構築されておらず、2月半ばには早くも、ユーティリティトークンである$VISの価格が下落しました(下図参照)。

(Pegaxy崩壊の理由は、後述するAxie Infinityの崩壊要因と似た部分があります。Axie Infinityの事例へはコチラからジャンプできます。)
Web3ゲームを開発する際、ともすればWeb2ゲームと同じように、グラフィックやゲーム性など、「いかに面白いゲームを作るか」に焦点が行きがちです。
もちろんこれらの要素も大事なのですが、
- より多くの人にゲームを楽しんでもらう
- ゲームを通して開発会社のビジョン・ミッションを達成する
ためにも、トークノミクスはその根幹としてしっかり設計する必要があります。
トークノミクスの重要性まとめ
・Web3ゲームでは、FT/NFTの価格コントロールのためにトークノミクスが必要不可欠
・トークノミクスがしっかりしていることで、多くの人に長く遊んでもらえるゲームになる
・逆にトークノミクスがしっかりしていないゲームは短命に終わる傾向にある
トークノミクス設計で最低実現すべき3つのポイント
では、正解がない中でトークノミクスをどのように設計していけばよいのでしょうか?
具体的な解は、ゲームのコンセプトによって変わりますが、多くのトライアンドエラーから、目指すべき方向性は見えてきました。
結論としましては、以下の3点が現在どのWeb3ゲームにも当てはまる普遍的な観点といえる指標です。
トークノミクス設計で最低限実現すべき3つのポイント
1.ユーティリティトークンの価格安定化
2.ガバナンストークンの価格上昇
3.DAU数の増加に伴う需給バランスのコントロール
なぜこの3指標なのか、これまでのWeb3ゲームの歴史から紐解いていきます。
Web3ゲームの歴史に見るトークノミクスの系譜

この章ではWeb3ゲームの歴史と変遷を見ていきます。
この歴史を紐解いていくと、トークノミクスという概念がどのように認識されていったのか、よく分かると思います。
フェーズⅠ Web3ゲーム黎明期 (2017年~2020年)
最初のWeb3ゲームは、2017年11月にリリースされたCryptoKittiesです。
猫のNFTを交配・売買する育成型のシンプルなゲームでしたが、2,000万円もの高値でNFTが売買されたこともあり、注目を集めました。
この時期は、NFTという概念が登場し、デジタル上のデータが資産になる点に注目が集まっており、CryptoKittiesもその1つでした。
また、ICOという概念が登場し、新たな資金調達方法として注目されました。
これは株式の新規上場(IPO)と似た考えで、トークンを投資家に新規発行して資金調達を得るという手段です。
Sorare、JobTribes、My Crypt Heroesなど、Web3ゲームの第一陣がこの時期に続々と登場していきます。
この時期の焦点は、「NFTがいかに高く売買されるか」に当てられていました。
一方、当時のトークンは新規発行で資金調達をするための手段という側面が強く、今のユーティリティトークンほどの機能を持っていませんでした。
「ゲームでトークンを得て稼ぐ」という概念もまだ弱く、トークノミクスという概念もありませんでした。
フェーズⅡ Web3ゲーム隆盛期(2020年~2022年)
2020年になると、Web3の領域においてガバナンストークンが浸透し始めます。
ガバナンストークンは、株式会社における株のような役割を持ち、プロジェクトの議決権や、資金調達の手段などの役割を持ちます。
また、同時期にDEX(分散型取引所)も登場し、Web3ゲームに大きな変革をもたらしました。
DEXとは、中央管理者を持たない仮想通貨取引所のことです。(これに対し、中央管理者がいる仮想通貨取引所をCEXと言います。CoincheckやBinanceなどがCEXです。)
これまでCEXへのトークン上場には、厳しい審査が必要だったため、資金調達の手法としては難易度が高いものでした。
その点、中央管理者を持たないDEXへの上場は比較的容易なため、ゲーム会社をはじめとするWeb3プロジェクトの資金調達方法として瞬く間に広がりました。
また、DEXでは、トークンとトークンの交換(スワップ)もこれまでより手軽に行えるようになったため、トークンの流動性が飛躍的に上がりました。
こうなると、Web3ゲームは金融的な性格を強く帯びることになります。
- Web3ゲームの基本的3要素「NFT」「ユーティリティトークン」「ガバナンストークン」をどうゲーム内で設計するか(※)
- 金融的性格が強くなったWeb3ゲームをどうコントロールするか
という観点から、トークノミクスという概念が登場しました。
※ユーティリティトークンとガバナンストークンの機能を1つに集約させたシングルトークンシステムもあります。
スカラーシップによる発明とその欠点
ユーザー側から見ると、Axie Infinityがスカラーシップを導入して2021年に爆発的に流行したことをきっかけに、「Play To Earn」という概念が多くの人に認知されることになりました。
スカラーシップとは、NFTの所有者(オーナー/マネージャー)が非所有者にNFTを貸し出してスカラーにし、スカラーが稼いだトークンをオーナーとスカラーで分配するというシステムです。

オーナー/マネージャーにとっては、プレイすることなく報酬を得られる利点があります。
また、スカラーにとっては、無料でPlay To Earnができるというメリットがあります。
双方にとってWin-Winに思えたスカラーシップですが、これがきっかけでAxie Infinityは一度崩壊することになります。
基本的にスカラーは、経済的に困窮している東南アジア地域のユーザーであったため、稼いだトークンをNFTの購入やゲーム内の再投資に使うことなく、直ぐに売却してしまいます。
つまり、スカラーは必然的に売り圧を強く持った、トークンのインフレを促す存在だったのです。
スカラーが売却する以上にトークンを消費できれば問題はないのですが、Axie Infinityはブリード(※)以外のトークン消費ポイントが乏しい設計でした。
そのため、需要と供給のバランスが崩れ、Axie Infinityの経済圏は一気に衰退していくことになります。
トークノミクスという概念は登場したものの、トークンのインフレ・デフレという概念が不十分だったと言えます。
これは、前章でご説明したPegaxyの他、Axie Infinityの成功を模倣して開発されていた、CyBallやCRABADA・Thetan Arenaといった注目タイトルも、同様の結末を辿ることになります。
※ブリード:NFTを消費して、新しいNFTを生み出すこと。ミントとも言います。
フェーズⅢ ポストAxie時代・X To Earnの勃興(2022年上半期)

Axie Infinityの失敗の原因はトークンの消費設計の不足にあったため、以降はこれを作り込んだWeb3ゲームが多数登場しました。
その代表例が「STEPN」でした。
親しみやすいUI/UXとMove To Earnという画期的な概念が特徴的ですが、トークノミクスも非常によく練られていました。
それは、ユーティリティトークン$GSTの消費ポイントが多数かつ巧みに設計されており、トークンのインフレを防ぐ仕組みが構築されていたことです。
このトークンの消費ポイントこそ、「ユーティリティ」と呼ばれるものです。(STEPNではユースケースと呼ばれていました。)
STEPNはこのユーティリティ設計が非常に巧みで、ユーザーがついトークンを消費したくなる設計になっていました。
X To Earnが多く登場したのもこの時期です。
トークノミクスの完成形とも思われたSTEPNでしたが、こちらも経済圏としては崩壊し現在低迷しています。
崩壊の要因は、NFT Burn設計の不足と、BNBチェーンの導入に際しての需給バランス調整の失敗です。
BNBチェーン導入直後からNFT靴とユーティリティトークン・$bGSTのバブルが起こりました。
NFTや$bGST(バイナンス経済圏内でのユーティリティトークン)に、明らかに実需とかけ離れた値段がついていたにもかかわらず、具体的な対応策を打ち出さなかったことで、ユーザーのFUDを引き起こし、バブルが崩壊してしました。
STEPN経済圏の詳細については、「【永久保存版】STEPN経済圏の全て|成長と衰退の裏側」で詳細を分析・解説していますので、こちらもご覧ください。
フェーズⅣ 今後~サステナブルなトークノミクスの模索期~(2022年下半期~)
ここまでのWeb3ゲームの歴史をまとめると以下のようになります。
【フェーズⅠ】
NFT中心のプロダクト、トークノミクスという概念なし
【フェーズⅡ】
ガバナンストークン・DEXの登場、トークノミクスという概念の誕生
【フェーズⅢ】
トークノミクスの進化~インフレ・デフレの概念~
2022年5月のTerra(LUNA)暴落(※)およびSTEPNの崩壊によって、クリプト業界は再び冬の時代に突入しています。
一方で、Web3ゲーム開発が止まったわけではなく、次の大波に備えて、各社ともWeb3ゲームの開発を着々と進めているフェーズと言えるでしょう。
ただ、STEPNの崩壊に象徴されるように、これまでのトークノミクスモデルでは限界も見えてきました。
フェーズⅣとも呼ぶべき現在は、より中長期的に成長するトークノミクスを皆が模索している時期、とも言い換えることができるでしょう。
その中で意識され始めているのが、ユーティリティトークン価格の安定化です。
ユーティリティトークンは、本来アイテムの売買や、レベル上げなど、交換媒体として利用されることを意図されています。
そのため、価格が安定しないことにはトークノミクスが安定しない、という結論が導かれます。
現実世界で日本円の価値が激しく変動すると使いにくくなるのと同じロジックです。
ただ、これまでのWeb3ゲームやX To Earnプロジェクトは、ユーティリティトークンの価格変動幅が大きすぎるため、その差分で稼ぐことがユーザーの主目的になっていました。
ユーティリティトークンは、価格上昇を目指すべきものではなく、あくまでゲーム内での機能を果たすべきものとして認識されつつあります。
代わりにプロジェクトの価値判断基準として、ガバナンストークンの価格をいかに上げていくかも、重視されるようになっています。
【補足解説】Terra(LUNA)の暴落とは?
Terra(トークンシンボルLUNA)はステーブルコインプロジェクトで、米ドルと連動するTerra Classic USD(USTC)というステーブルコインを発行していました。
LUNAはそのUSTCの価格を安定させるための仮想通貨でした。
米ドルと完全に連動するはずのUSTですが、2022年5月に突如として連動が外れ(ディペッグ)価格が下落し始めました。
安定的と信じられてきたのステーブルコインの「安全神話」が崩れたことで、投資家やユーザーが受けた衝撃と不安は大きく、仮想通貨市場全体が急落しました。
TerraもUSTCも価格は99.9%以上下落し、Bitcoinやイーサリアム等ほとんどの仮想通貨も影響を受け下落しました。
現在も市況はまだ5月以前の状態には回復していません。

安定的に1ドルで推移していたのが、2022年5月を境に急落しています。
トークノミクスを成長させる具体的方策
以上の歴史から、トークノミクスが最低限実現すべきことが導き出されてきました。
トークノミクス設計で最低限実現すべき3つのポイント
1.ユーティリティトークンの価格安定化
2.ガバナンストークンの価格上昇
3.DAU数の増加に伴う需給バランスのコントロール
次の章からは、これらを実現するための具体的な方法について解説していきます。
1. ユーティリティトークンの価格安定化
まずは、最近になって意識されるようになったユーティリティトークンの価格安定化について、多くのBCGで取り入れられている施策を紹介していきます。
ユーティリティトークンの価格安定化施策まとめ
1.使用ポイント(機能)を多数設ける
2.NFT Burn設計を組み込む
3.ソフトペッグ設計を組み込む
4.ステーキングで流動性を高める
5.複数の取引所・DEXへのユーティリティトークン上場
①使用ポイント(機能)を多数設ける
「金は天下の回り物」という言葉通り、ゲーム内通貨であるユーティリティトークンも使われることがその根源的な役割です。
逆に言えば、使用場面が少ないと、すぐに利益確定されてトークン供給量が過剰に増えたり(=インフレ効果/価格下落)、逆に価格上昇に期待してユーザーが貯め込んだり(=デフレ効果/価格急騰)されかねません。
いずれにしても、トークノミクスとしてはいい効果を生み出しません。
使用ポイントを多数設けて、「使われることが当たり前」の環境を生み出さないと、ユーティリティトークンとしての第一義の役割を発揮することはできないでしょう。
② NFT Burn設計を組み込む
ゲームを進めるにつれて獲得できるUTが増加の一途を辿る設計になっていると、ユーティリティトークンの供給が需要を大幅に超え、価格が下落します。
例えばSTEPNの場合、靴(NFT)のレベルを上げるほど獲得できるユーティリティトークンが増える設計でした。
加えて既存ユーザーがプレイすればするほど、NFTのブリードが行われ、市場にNFTが供給されていきます。
この供給され続けるNFTは、新規ユーザーが買い支えてくれないと、どんどんインフレしていき、経済が回らなくなります。(これがいわゆる、”ポンジスキーム的”であるといわれる所以です。)
そのため、新規ユーザーの買い支えに頼らない、既存ユーザーのNFT消費を促す(NFTの需要を増やす)ために、NFTのBurn設計が必要です。
③ソフトペッグ設計を組み込む
ソフトペッグとは、マーケットの状況に応じて自動的にトークン価格が調整される仕組みのことです。
具体的な設計はプロジェクトにより様々です
例えばSPLINTERLANDでは、トークン($DEC)の価格に応じて、報酬として吐き出すトークンの量を調節する仕組みを導入しています。
【Splinterlandsのソフトペッグ制の仕組み】
通常バトルで獲得できる$DECの1日の報酬プールは1DEC=$0.001の時、1日100万DECまでとなっています。
仮に$DECの価格が$0.0005に下落した場合、翌日は自動的に50万DECのみ報酬プールに追加されます。
$DEC供給量を絞ることで売り圧を和らげデフレを起こします。
逆に、$DECの価格が$0.005/DECに上昇した場合は、翌日500万DECが報酬プールに追加されます。
この場合、$DECの供給量を増やすことでインフレを起こし、価格を下げようとします。
Splinterlandsのソフトペッグ制の詳細は『「SPLINTERLANDS」ソフトペッグを機能させるための「仕組み」と「課題」』をご参照ください。
④ステーキングで流動性を高める
ステーキングとは、トークンを一定期間ロックする(売れなくなる)代わりに、期限が来たら報酬を利息として支払うシステムです。
トークンホルダーから見ると、預けているだけで報酬を得られるというメリットがあるので、トークンを売らずに保持するインセンティブが働きます。
一方で、ロックされているトークンが多くなるということは、それだけプールに入る量も多くなり、取引所内のトークンの流動性が高まります。
流動性が高いと、ユーザーがトークンを取引したいときに直ぐに交換することができ、その分、価格のボラティリティが低く抑えられ、価格の安定化に繋がります。
しかし、報酬を吐き出すということは、その分トークンが市場に流通することになりますので、将来的なインフレを促しているともいえ、導入には慎重になる必要があります。
⑤複数の取引所・DEXへのユーティリティトークン上場
複数の取引所やDEXにトークンを上場した方が、ユーザーが触れる機会が多くなります。
その分、取引量も多くなって流動性が高まるため、トークン価格の安定化に寄与します。
特に、取引量の多いCEXやDEXの方が、上場する効果が大きいと言えるでしょう。
2. ガバナンストークンの価格上昇
安定性が求められるユーティリティトークンとは違い、株式のような役割を持つガバナンストークンは、その時価総額がそのままプロジェクトの価値としてみなされるため、価格は高い方が望ましいとされています。
価格を上げていく方法をいくつかご紹介します。(ただし、これらの手段を講じても、市況によっては全く反応しないこともあります)
ガバナンストークンの価格上昇施策まとめ
1.大手のCEXへの上場
2.トークンBurnを行う(バイバックする)
3.ユーティリティの設定
4.適切なロックアップとべスティングを設定する
5.モメンタム(話題性や熱量)を維持する
①大手のCEXへの上場
上場の審査が厳しいCEXへの上場を果たすことは、そのままそのトークンの信頼性に直結します。
逆に、簡単に上場できるDEXへの上場は、取引量を増やすことには繋がるかもしれませんが、権威付けには弱く、価格上昇要因にはなりにくい部分があります。
グローバルのBinanceやOKEx・KuKoinやHuobi Grobalなどへの上場できれば、話題性があり、信頼も大きく増すことになるため、特に効果的です。

②トークンBurnを行う(バイバックする)
ガバナンストークンは発行数を有限にすることがほとんどですので、市場の流通量を減らす(バイバックする)ことで、相対的に価格が上昇します。
バイバックによるBurnの量やタイミングは、運営が中央集権的に決める場合もあれば、Bitcoinのように定期的、かつ自動的にBurnさせていく設計にすることもできます。
例えばAxie Infininityの場合は、アクシー(NFT)をMintする際にコストとして使用した$AXSは自動的にBurnされる設計になっているため、ユーザーがアクシーをMintするほど、市場のAXS数も(供給量が増えなければ)減っていくことになります。
一方で、STEPNの場合は、靴(NFT)をMintする際にコストとして使用した$GMTは運営の収益となり、$GMTをいつ、どれくらいBurnするかは運営の采配に委ねられています。
どちらの方針を採用していたとしても、運営が必要に応じてトークンをBurnさせる前提で考えておく方が、トークンの価格を暴落を阻止しやすいです。
③ユーティリティの設定(消費ポイントを多く設置する)
また、運営がバイバックしなくても、エコシステムの中での消費ポイントが増えれば、それがトークンのBurnにつながります。
そこで、ガバナンストークンにもユーティリティトークンのような機能を付すことが有効な手法になります。
STEPNはユーティリティトークンであるGSTと同じくらい、ガバナンストークンであるGMTにユーティリティをつけていました。
トークンをユーザーに積極的に消費してもらうことで、市場への供給量を絞り、価値を上げようとする直接的な手法です。
④適切なロックアップとべスティングを設定する
Seed SaleやPrivate Saleで投資をした投資家や運営チームなど特殊な条件で多くのトークンを有しているステークホルダーに対しては、ロックアップ(クリフ・べスティング)をかけます。
トークンは株と比べてすぐに現金化できてしまうため、ロックアップをかけておかないと、一気に大きな売り圧がかかってトークン価格が暴落してしまいます。
ロックアップは長ければ長いほどトークンの売り圧を分散させられるため、経済圏にとってはプラスであり、長期化している傾向にあります。
2020年ごろは、半年〜数年のプロジェクトが多かったのですが今ではStar Atlasなど8年以上のロックアップをかけるプロジェクトも出てきています。
※トークンアロケーションの詳細については『【GameFi銘柄TOP100を独自調査】トークンアロケーションがプロジェクトの成功を決めてしまう理由』をご覧ください。
⑤モメンタム(話題性や熱量)を維持する
おそらく最も影響力が高く、最も難易度が難しいのが、モメンタムを維持することです。
ガバナンストークンの価値は、本質的には、プロダクトの価値を反映するものではあるものの、投資的な側面がある以上「なんとなくすごそうだから買っておこう」という期待感による買い圧への影響は甚大です。
この「期待感」をユーザー(既存も新規も)に与え続けることが、ガバナンストークンの継続的な価値上昇には欠かせません。
しかし、Web3プロジェクト外部経済と接続するため、仮想通貨市場や世界の株式市場という、大きなトレンドには逆らえません。
直近のFTXの倒産といったネガティブなニュースが出れば、Web3業界全体に悪影響が出ます。
とはいえ、普段からプロジェクトがユーザーから信頼され、応援され続けており、コミュニティの熱量が継続していれば、下がった価格も徐々に回復させ得ることができます。
そのため、ディスコードなどを活用したコミュニティビルディングや、Web3市場を理解したマーケティング戦略は、強固な経済基盤を作るために絶対にやっておかなければなりません。
※Discordを活用したコミュニティ運営については『誰も教えてくれないDiscordコミュニティの設計書』をご参照ください。
3. DAU数の増加に伴う需給バランスのコントロール
新規流入とユーティリティトークン価格との関係性
新規流入数とユーティリティトークン価格との関係性は、以下の対立する2軸のバランスの中にあります・
- 新規ユーザーが入りたいと思う、 1日の稼ぎがどのくらいか?(GSTが安すぎない方がいい=稼ぎが減ってしまいゲームに魅力がなくなる)
- 新規で入ってきたユーザーが、新しく靴を買える価格帯がどのくらいか?(GSTが高すぎない方がいい= Mintコストが高いと靴の価格が上がる)
ユーティリティトークンが高すぎてしまうと、1番はユーザーにとってプラスですが、 2番は経済圏にとってマイナスになってしまうので、調整が必要です。
そのため経済圏をコントロールする上では、①新規流入数のコントロールし、②マーケット内のNFTの需給バランスを調整しながら、③トークン価格を適正値に保つためのマネジメントが必要になります。
Web3ゲームのDAU数は、多ければ多いほどいい、というわけではない
DAU数が多いと、一般的に以下のようなメリットがあります。
- 活発な取引が行われ、経済圏が活性化する
- 活発な取引が、運営の手数料収入増加に繋がる
- 流動性が上がり、トークン消費量が増え、経済圏が安定する
そのため、ユーザー数が多い方が、中長期的にゲームを成長させていくには望ましく、運営はユーザーの新規流入を狙うことになります。
しかしその反面、プロジェクトが成長段階の時には、増えすぎることによるデメリットもあります。
- DAU数の増加=トークン利確量の増加=トークン価格の下落
- NFTの購入需要超過=NFT価格の高騰=新規参入の障壁
そのため、多くのゲームでは、テストに参加できる人数を制限したり、招待制度にして新規流入数をコントロールしています。
“稼ぐ”以外の消費動機の醸成
現在多くのBCGにおいて、トークンのユーティリティーのほとんどが、「Play to Earn」によるトークン獲得量を増やすための、経済的なインセンティブに紐づくもので構成されています。
「稼ぐ額を多くしたい」というモチベーションは、トークンを消費する動機として強力です。
しかし、DAU数が多くなればなるほど、その分毎日Mintされるトークン量も大きくなり、利確される金額も多くなっていきます。
つまりトークンのユーティリティを、経済的なインセンティブに紐づくものだけで構成すると、将来の巨大な売り圧に耐えられなくなるのです。
持続可能な経済圏の維持するためには、「経済的なインセンティブにつながらない消費設計」が必要です。
★経済的なインセンティブにつながらない消費設計
☆自己顕示欲・承認欲求を満たせる要素(コレクティブル、スキン)
☆ゲームでの競争を有利に進められる要素(強化アイテム、時間短縮)
☆寄付やカーボンクレジットといった社会貢献的な消費
これらの「ユーザーの収益とは関係ない」消費ポイントをどれだけ多く設置でき、そのための消費を積極的に行いたいという需要を生み出せるかが、トークンの需給バランスを維持するためのポイントとなります。
まとめ
以上がトークノミクス設計において最低限実現すべきことについて解説してきました。
トークノミクス設計で最低限抑えるべき3つのポイント
1.ユーティリティトークンの価格安定化
2.ガバナンストークンの価格上昇
3.DAU数の増加に伴う需給バランスのコントロール
繰り返しになりますが、トークノミクスは歴史がまだ浅く、これが最適解ではないことに留意してください。
これらのポイントは、既存のゲームのトライアンドエラーからうまれてきた、持続可能な経済圏を作るためのアイデアでしかありません。
世界中で、さまざまなプロダクトが日夜開発されており、トークノミクスはまだまだ進化する余白を残しています。
LGG Researchでは、今後も最先端のトークノミクス事例を紹介していきます。
本記事が、トークノミクスの基礎理解と設計に少しでもお役に立てば幸いです。
当サイトでは、実際の報酬額やトークン消費量を設定してトークノミクスがどう変容するかを体感できるシミュレーションシートを用意しています。
新規流入数や、毎日のUT獲得量がトークノミクスにどのように影響力を与えるのかを理解したい人は、ぜひ無料版トークノミクスシミュレーターを試してみてください。
Web3ゲームを新規開発する際の実践的な学習ツールとしてぜひご活用いただけます。